80 おかれた状態

「……お兄様は、今ダンジョンに取り残されています」


 誰かの息を飲む音が聞こえた。


 ダンジョン、魔獣や魔物や危険な魔法植物がうようよと生息している魔獣達にとっては楽園、人間からすれば地獄絵図と言っても過言ではない場所。


 場所によった難易度は変わるが、それに応じた報酬がある。一攫千金を狙う冒険者は日々通っている場所だ。


「あ?あいつがダンジョン?」


 令嬢はコクンと頷いた。


「……お兄様は父の知人が作った商会で働いており、各所を旅して商会に役立つものを探しておりました。それも名目上ですがね」


 令嬢の話しによれば、令嬢の兄であるネレーオはトラブル防止のため名を偽って商会の役に立ちそうなものを探しつつ、あちこちを回り、冒険者としてと活動しているのだと。


 そうやって活動しつつ、かれこれ数年。手紙のやり取りの内容からも、特にトラブルはないはず__だった。


 一年と少し前から手紙の内容が変化したのだ。手紙の内容が変化してから少し立った頃、不審に思ったカリヤは手紙が暗号になっているのではないかと考え、解読してみることにした。


 カリヤの予想通り、ネレーオから送られてきた手紙は暗号が施されており、その内容は頭痛がしてしまうようなものだった。


 普段は一人で活動しているネレーオだったが、ある冒険者パーティーから声がかかったのだという。


 気まぐれで一緒に旅をして見てわかったことだが表向きは人の良いもの達で隣国の王家公認の冒険者パーティーだというのだが、裏の顔は人身売買に手を染める外道だという。


 隣国がどうかは知らないが、このままではメルトポリア王国に向かい国民が被害に会うだろう。そう考えたネレーオは潜入し証拠を得て国に訴えようとしたらしい。


 カリヤが止めようとしたもののネレーオの頑固さには叶わず、カリヤは押し負ける形となった。そしてカリヤは持ち前の気の強さで無理矢理にでも兄のことを手伝うことにした。


 それからカリヤは色々な方法で証拠を憲兵や軍人に渡そうとしたのだが子供のイタズラと思われること多数、苛立ちが隠せないまま次に突撃していったカリヤ。


 次に相談したのは学校の教師だった。教師は、それなりの地位がある軍部のものを紹介した。


 カリヤは紹介されたものに会いに行こうとしたのだが、案内した女性軍人は背信行為を行っていた。


 その軍人は人身売買で金をも受けていた、つまりはネレーオが潜入している冒険者パーティーとてを組んでいたのだ。


 そんな人間がカリヤとカリヤの持つ証拠を見逃すがといえば否である。カリヤから証拠を取り上げ、脅した。


 幸いなことは凝らされなかったことだ。権力があり、顔が売れているカリヤを殺すことは自身のみを危険にさらすのも同義だったからだ。


 軍人はカリヤを生かし、監視することを選んだ。


 ただ監視を用意するのに時間がかかり、永華と会ったときは監視がついていなかったらしい。


 話をして信じてくれるかは五分五分ではあるものの、信じてくれることに賭け元よりファンだったヘラクレスに会おうとしたて、他のファン達に紛れ接触しようとした。


 その結果、永華と接触し焦った末に軍人のことが頭によぎり脅すという手段をとってしまったとのことだ。


 努力の甲斐無く、ヘラクレスには会えなかった。


 それから学外では監視がつき、好きに行動できなくなってしまった。幸いにも学校は警備が厳しく、新たに職員を採用する機械もなかったので監視はつかなかった。


 それでも、金を握らされたものがいるかもしれないと思えば誰かを頼るなんて選択肢はとれなかった。


 監視はあれども暗号にして情報や証拠が送られてくるのでカリヤは虎視眈々と機会を待ち続けることにした。


 待ち続けること一年近く、兄からの手紙が途絶えた。


 カリヤは焦った。兄に何かあったのではないかと考え、使用人を連れて待ちに出た。兄が待ちにきているという情報が入っていたから、それゆえの行動だ。


 買い物をしてる風を装って兄を探していると人とぶつかってしまった。ぶつかった人物が例の冒険者パーティーの者だったのは運命と言っても良いかもしれない。


 噛みつきそうになったものの、今は押さえて好機を見るべきだと考えた穏便にことをすまそうとしたのだが、向こうはカリヤとネレーオの関係を知っていた。


 疑問と同時に恐怖が腹のそこから上ってきた。


 二人の関係を知っていた理由は単純、カリヤのように手紙を送っていた商会の長が裏切ったからである。


 カリヤが大人しくしてる間、背任行為をしていた軍人も大人しくしているわけがないのだ。カリヤのことを調べ上げ、なぜカリヤがあんな証拠を持っていたのか、証拠をカリヤに渡しそうな人物は?そうやってたどっていき、商会で働き遠征に出ていることになった兄に行きついた。


 商会の長は権力と暴力に屈したのだ。


 わかるものはある、女であれ軍人で魔法も使う。大きな暴力と権力は一般人の心を折る材料には最適だった。


 ネレーオの正体はバレた。


 冒険者パーティーのもの達は親切にもネレーオがどうなったのか教えてくれた。


 メルトポリア王国の王都、アストロの近くにあるダンジョンにいき怪我を負わせ置いてきたのだと、表向きには死んだことになってるのだと。


 カリヤは激昂した。大事な家族を傷つけたもの達に、己ら貴族が守るべき民にてを出したことに、簡単に証拠を取り上げられてしまった自分に。


 少し揉めて、怪我をしたところで連れてきていた使用人に助けられた。


 それから眠れなくなり、まともに回らない頭で考えた。


 平民があんなことをしてし自分達が危険にさらされてしまうのならば平民に近づかなければ良い。あれの手先がどこに潜んでいるのかわからないから、ネレーオを同じ目に遭う人を少なくしなくては……。


 そんな考えのもと、貴族と平民が仲良くしてるのを目撃するようになると間にはいるようになった。


 両親に相談することも考えたが、祖母に知られてはならなかったので断念した。疑惑ではあるが、人身売買の容疑者候補の中に名を連ねていたからだ。


 そして、自分と仲が良ければどうなるかもわからないと、ビーグルの妹に別れの手紙を出した。


 そして進級してから二ヶ月ほどがったある日、ヘラクレスの妹が入学しているという噂を耳にはさんだ。


 カリヤは監視の目を掻い潜りヘラクレスに会うのはこれしかないと思った。妹に会いに来たヘラクレスにファンだったカリヤが接触する。多少怪しまれはしても、兄が助かるのならば、家族が助かるのならばなんでも良かった。


 兄がダンジョンに置いていかれたと話を聞いてから時間が立っているものの、諦めきれなかった。


 そこからはご存じの通り、ララに話をしても警戒され永華達がララを守るように動く。


 そして焦ったカリヤは決闘を持ちかけた。


「負けて、眠って頭がスッキリしました。私の事情に巻き込んでしまって、申し訳ないです。焦っていたとはいえ、あんな脅すような真似をしたことと共に謝罪します」


 カリヤは静かに頭を下げた。


 そんなカリヤの様子を見てララは部屋をあとにしようと立ち上がる。


「ララちゃん?どうしたの?」


「手紙……」


 振り返ったララはカリヤを指差した。


「兄さんに学校に来てって手紙書いてくるの!」


「え……よろしいのですか?」


「勿論よ!でも、まだあなたを信用しきった訳じゃないからね」


「……ありがとう、ございます」


 泣きそうなカリヤは声を震わせながらも礼をいう。


 それを見たララは顔を歪ませ、大きな音を立て扉を閉めていった。


「カリヤさん」


「は、はい」


「その背任行為をしてる軍人の名前、その上官、君の兄が置いていかれたというダンジョンの場所はわかりますか?」


 ザベルの問いにカリヤは戸惑いつつも答えていく。


 カリヤが話しきるとザベルは礼を良い、部屋を出てどこかに消えていった。


 部屋を出ていくとき、少しだけ見えたザベルの表情は恐ろしいものだった。


 二人が出ていったあとの部屋は気まずい空気が漂っていた。


「よりにもよって全部だったんだな」


 ビーグルが言葉をこぼす。


「全部?」


「気にするな。こっちのことだ」


 そのあと、保険医がやってきて解散することになった。

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