75 お望み通りに

ナーズビアからの呼び出しがあってたから二日過ぎたころ。唐突に令嬢に声をかけられた。


 なんとなく用件は想像がつくが……。


「永華・戌井さん、よろしいですか?」


「……はい」


 今、私の前には令嬢__カリヤ・ベイベルツが堂々と佇んでいた。


  そう、ララでもレーピオでもなく、“私の前”に佇んでいるのだ。


「えっとぉ……なんです?」


 私の前に佇み無言で見つめてくる、その様子には恐怖すら感じてくるものだ。


 ベイノットやミューが前に出てこようとしてくれるが、私はそれを断った。断った理由は令嬢の表情は悩んでいるような、居心地の悪そうなものだったからだ。


 そんな表情の人間が何かしてくるとは思えないし、何より私の名前を呼んだんだから私が相手するのは筋でしょう?


「……なにか言ってくれません?」


 令嬢の悩んでいるような、居心地悪そうな表情に加え重たい沈黙に耐えかねて永華は令嬢に催促をした。この状態だと、こっちまで居心地が悪くなってくる。


「ふぅ、いつまでも黙っているわけにもいけませんものね……」


 令嬢が小さな声で呟く。やつれたように見える顔で、まっすぐと永華を見据えた。令嬢に答えるように永華も目をそらすことはなくまっすぐと見返した。


「この四日で貴方方の事を調べさせていただきましたわ。それで永華・戌井さんが入学試験で行われた実践で二位だったとお聞きしました。事実ですね?」


 順位は本人にしか知らされていないはずなんだけど、なんで令嬢が知ってるんだ……。


 私は学校に来てから自分で言った覚えがないし、先生達の誰かがうっかりこぼしたか書類を盗み見たか……。いや、後者はなさそうな気がする。


 私は以外に順位を知ってるってなると……。


「篠野部?」


 振り向くと思いっきり目をそらした。


 ……こいつ、やったな。


「……二日前、訓練のときに君がどこかに消えたあと、レイスが今からでも追いかけようって言うから止めるのに……言った」


 別に言ったことに不満はないが、篠野部の言葉がなかったら声をかけられるのは私じゃなかったんだろうなぁと、うっすら思う。


 ここで否定したって、別の理由吊り下げて食い下がってきそうだし正直に言っておこう。


「まぁ……そうだけど?」


「ならばよかった。では、私カリヤ・ベイベルツは永華・戌井に対し決闘を申し込みます」


 令嬢の言葉と共に白い手袋が投げられ、私の前に落ちた。


 私は落ちた手袋を見て、令嬢に視線を戻す。やっぱりやつれているように見える。


「私の要求はヘラクレス・アリス様と一対一で会うように取り計らうことですわ」


 目的は変わらずか……。


「勿論、貴方方の誰かが勝てば諦めますし求められれば……こんなことをしている訳も話しますわ。後悔しないのならば、ですが」


 訳は言えないと言ってララに仲介を頼んでいた人間が、こんな条件出すなんて相当自信があるんだろう。


「私の要求を通すのならばララ・アリス様に直接決闘を申し込めばいいんでしょうけど、あなた方はそれを邪魔するでしょう?」


「なんでそう思うんです?」


「単純な話し、貴方達はララ・アリス様を気にかけています。特に永華・戌井さんや他二人。そんな子に不振な輩が近づこうとしようものなら盛大に威嚇されてしまうのは目に見えておりますから、先に回りから崩していこうと思いまして」


 まぁ、それなりに仲の良い騎士の妹だし、苦労してるみたいだし、私も下に兄弟がいるし、私たちの中で唯一の十代前半だし、気にかけてはいたけど……。


 他二人はミューとベイノットかな?


「たまたま永華・戌井さんが実践試験二位と言う話を聞きまして、最初に選ばせてもらいました。強いものは余裕のあるうちに倒さねばあとから苦労しますもの」


 令嬢はニッコリと笑顔のお手本のような綺麗な笑みを張り付けて言った。


「拾ってくださいまし」


 ここまで真正面から来てもらって悪いが、これは断らせてもらおうか。切り刻まれるとかいやだし。


「永華、受ける必要はないわ」


 ララの言う通り断ろうと口を開こうとしたところで、令嬢がさらに条件を出した。


「拾ってくださらないのなら、今ここで風の刃で構成された竜巻を放ちますわ。私事、貴方達を切り刻みます。なんなら周囲のかたも巻き込みます」


「え……」


 え、今この人なに言った?断ったら自分も周囲も巻き込んで切り刻むって言った?末恐ろしいことを言いきりやがった……。


 まさかの発言に戦慄を覚える。


 回りにいた野次馬達は一斉に私たちから距離を取る。それでも散っていかない辺り、その野次馬根性も見上げたものだ。


「え、怖……」


「覚悟ガン決まりじゃねえか……」


「えぇ……」


「ひぇっ……」


「自分事って言ったぞ……」


「そ、そんなに兄さんに会いたいの……」


「肝の座った方ですねえ……」


 まわりにいた人たちなんか皆揃ってドン引きだし、私と同じように戦慄していた。


 というか、レーピオも大概肝の座ってる物言いだと思う。


「拾ってくださる?」


「拾わざる終えないじゃん……」


 目の前にいる令嬢は“本気マジ”の目をしていた。本気と書いてマジと読むくらいには、ヤバイ目をしてる。素直に怖い。


「……はぁ、そこまでするのならばお望み通り拾って上げますよ」


 自分の前に落ちている、白い手袋を拾い上げた。


「了承、と受けとりますわ。場所は、それようの会場が学内にありますので、そちらで行いましょう。日付の指定は貴方に任せますわ」


「なら、ちょうど休日だし明後日で」


「わかりました。申請は私がしておきます。それでは」


 令嬢は張り付けた笑顔のまま、申請をするべく踵を返して去っていった。


「はぁ……」


 ビーグル先輩に呼べって言われてたな。決闘を見学するかは知らないが、知らせはいれておこう。


「さすがに断れなかった……」


「あれは、あれは仕方ないわ」


「俺も、あれ言われたら断れないわ」


 頭が痛くなってきた。決闘とかしたくない……。


 決闘を受けても負けるつもりはないが絶対に勝てるのかと問われれば首を縦にはふれない。


 無色透明の刃物が大量に襲ってくる状況に自ら身を投じたくない。刃物での怪我ってヒリヒリして痛いんだぞ……。


 ミューとローレスが背中を擦って宥めてくれる。


「どうするの?」


「やれること全部やるわ」


 回りから崩すといっていたことや最初に私を選んだとの発言から取るに八人全員、順に倒して目的を果たす予定なのだろう。


 なら私が勝って話し聞き出すついでに、こっちの条件突きつけてしまえば向こうは私以外に手を出そうとしないはずだ。


 闇討ちなんて選択しもできたのに、真正面から堂々と来る辺り誠実なように思えるし、私が勝ってしまえばいけるだろう。多分。


「あと篠野部、終わったらパンケーキな」


「……うん」


 八つ当たりかもしれないけど、本人が頷いたし、先陣切らされた不満はあるのでパンケーキを奢ってもらう。


 これからビーグル先輩と、一応ナーズビアに一報いれて、対策練って……。


「簡単に切れない糸も調達すべきかな……」


 何が良いかな?あ、釣糸って切れにくそうだよね。学校終わったらすぐに釣具屋に行ってみるか。


 う〜ん、対策思い付くかな?


 息を吐いて、目にかかって邪魔な前髪をかきあげる。


 うだうだ言ってるのもカッコ悪いよなあ……。


「……腹括らないとな」

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