23 片田舎の魔導師
ヘラクラス視点
いくらなんでも運が悪すぎるだろうが!そんな風に悪態をつきたい思いで一杯だった。
もともと王宮の元老院の老人共にドラゴン退治という無茶振りをされたのが始まりだ。どうにかこうにかドラゴンを倒してボロボロの状態で帰還したら死亡疑惑が出ていた。驚く気力もないくらいボロボロなおかげで、国の端の方にあるバイスという町に滞在することになった。
前からバイスは穏和で平々凡々の平和な町だと聞いていた。いつかは行きたいと思っていたし、この際に滞在できるのはラッキーだと思っていた。
なのに何でお忍びで外に出たらカツアゲされてんだよ!?可笑しいだろ!?穏和で平々凡々な平和な町って言う話しはどこ!?そもそもこいつらなに!?
「おう兄ちゃん、大人しく金だした方がいいぜ?」
「……っ!」
どうするべきか。ここで素直に金を渡せば穏便に行くだろう。でもそれは俺のプライドが許さない。
……ただでさえ傷が完治していない状態で腹も空いているのに仕事とまったく関係のないことで騒ぎを起こしたと知れれば元老院や俺に不満のある奴らになんて言われるか……。
…………考えただけで頭がいたくなってくる。
「兄ちゃん聞いてるう?」
騒ぎは起こさない、金も渡さない。逃げるが吉か。これが騎士団にばれたらお叱りがあるかもしれないけど、どの選択肢よりもましだ。
俺の後ろには路地裏に続く道、前にはカツアゲをするチンピラ。
一度、確認をしてノーモーションで路地裏に走った。
「あ、待ちやがれ!」
「ふざけるな!金おいてけ!」
「優しく行ってやってたのによお!」
チンピラ三人衆は逃げた俺を諦めることなく、追いかけてくる。足音の数が可笑しい気がするものの姿が見えないので壁一枚隣の誰かだろうと、気にすることなくうねり曲がった路地裏を駆けた。
「んっのお!止まりやがれ!」
「待てゴラァ!!」
「逃げても無駄だぞ!!」
一回、二回、三回、道を曲がる。今だ追いかけてくる連中に嫌気がさしてくる。
道の端に積まれていた木箱にわざとぶつかり、中に入ってる荷物と箱をぶちまける。
チンピラの一人が足を引っ掻けてこけた。
このまま走って行って、障害物や迷路のような路地裏で巻いてやる。
人にぶつかって、荷物にぶつかって、なぜか路地裏にいる団体に紛れ込んで、何度も何度もチンピラ達を巻こうとした。巻こうとしたのに__
「なんで!!まだ追いかけてくるんだよお!!」
一人脱落かと思えば少しして追い付いてきた。また一人脱落、今度は向かいからチンピラに挟み撃ちにされそうになった。そのつぎは水路に落としたはずのやつがずぶ濡れの状態で上から落ちてき……いや、降りてきた。
道は複数あるの、その上ここまで妨害してくるんだぞ。何で正確に俺の逃げている方向に来れるんだ。なんで未だに俺を追いかけてくるんだ。
気分はさながらハイエナに追いかけられるウサギの気分だ。実際はそんなにか弱くないけど。
「待てやああ!!」
「ここまで虚仮にされて引き下がれるかあ!!」
「捕まれオラアア!!」
ああ、もう。絶対に捕まえるっていう意思を感じるじゃん。何でこんなに追いかけてくるの!?町の執着心の強い女の子達でも、ここまでは追いかけてこないぞ。
こうなればカツアゲ以外の目的があるとしか思えない。チンピラに喧嘩を売った覚えはないし、それに類する覚えもない。
「待たんか!ヘラクレス坊っちゃんよお!」
「はあっ!?」
何回も言ってるがお忍びだぞ。なのに何で個人を特定されてるんだ。今の今まで喋ってないし、フードも脱いでないんだぞ?
個人が特定されている理由も、追われ続けられている理由もまったく分からないままに我武者羅に走り続ける。
ああ、もう。騎士団に入らざる追えなくて、若くて自分より早く昇進した俺を恨んだ奴らを警戒しながらの生活、元老院からの無茶振り。ただでさえ胃に穴が空きそうなのにこれって何なんだよ。
「ホントに……何なんだよおぉーーー!!!」
俺の情けない叫び声が路地裏の薄暗く、錆びた空気に木霊した。
弱音を吐いた俺を嘲り笑うチンピラ達、わずかにいた人は俺たちの姿を見て慌てて逃げていく。
このまま走り続けるものだと思った。
視界の端にキラリとなにかが光った気がした。
「おわっ!?」
何かが光ったと思えば一番前にいたチンピラがなにかに足を引っ掻けたのか。走っていたことともあり、凄まじい勢いで地面に転がった。
「なっ!?」
「はあ!?」
後ろにいた奴らも急には止まれず、勢いをそのままに最初に転けたやつの上に派手に転けた。そして後続が転けた瞬間、つぶれた蛙のような声が聞こえた。
何が起こって__
「こっち」
「えっ!?」
何が起こってるんだと考えようとしたところで何もない空間から声が聞こえ、見えない何かにてをひかれる。
抵抗するべきかと思ったがどうにも、この何は俺をチンピラから引き離そうとしているらしい。何者かの手をひかれ路地裏を突き進んでいく。
「ど、どこに……」
「……」
「黙りか」
少しの期待を胸に秘めて、透明の誰かに問いかけてみるも何も答えてくれない。
何かに手をひかれるままに進んでいくと、さっきの場所よりもいくらか遠い少し開けたところに出た。光が差し込み、寂れた噴水が頼りなく佇んでいる。
「はあ、はあ……」
ついた途端に何かは俺の手を離し、まるで最初から何もなかったように、どこかに溶けて見えない。
__タン__
頭上から足をとが聞こえた。慌てて見上げると俺よりも小さな子供が屋根づたいに降りようとしていた。
足を踏み外さないようにしているのか。ゆっくりと降りてくる。
「よっ!ほっ!せい!」
__タン、タン、タン__
ある程度の高さになると落ちないと判断したのか。今度は掛け声と共に軽快な足取りで降りてくる。
立ち振舞いからして武道の心得はあるものの俺に勝てる程、強くはないし何か隠し球があるようには思えない。ここの住人のやんちゃな子供……この子、この前轢かれてた子?
「んー、怪我はなさそうかな?篠野部、戻れそう?」
俺の回りをぐるりと一周まわりって怪我の有無を確認すると俺ではない誰かに声をかけた。俺とこの子以外となると猫が数匹といったところ。他に候補があるならばさっき俺の手をひいていた透明な何かと言ったところか。
「少し手こずった」
少女の見つめる先に上から液体を足らしたかのようにジワジワと少年が現れる。俺の手をひいていたのは透明化していた少年だった。
「助けてくれるのはありがたいんだけど……君ら、いったい何者だ?こんな田舎に透明化の魔法が使える魔道師は早々いないはずだぞ。そんなことが出来る君らくらいの年なら魔法学校にいってるはずだ」
透明化の魔法が使えるのなら、この子達の師匠か先生あたりが推薦をするはずだ。よっぱど素行が悪くない限りはな。
「ん?何か疑われてる?」
「仕方ないことだろう。いきなり、しかも透明になった状態で、ここまで連れてこられたんだから警戒もする。それに僕らは未だに見習い、この透明化は僕の自己魔法の一貫だ」
「なら尚更疑問だ。自己魔法まで開発しているのになぜ魔法学校に言ってないんだ?」
「諸事情~」
「……はあ、まあいい。で、片田舎の魔道師殿達は、なんで俺を助けたんだ?」
「目的があってね。ヘラクレス・アリス殿」
お忍びだってのに、なんで誰も彼もにばれてるんだ?俺の変装、そこまで下手か?まあ、ばれてちまっちゃあ仕方がない。
隠しだてすると、ひんむかれそうだと思った俺はフードを脱いだ。
「なるほど、俺が誰かわかっててやったと。下手に隠しだてするよりは好感がもてるな。その目的は?」
「王都、魔法学校について知ることだ」
なるほど、この片田舎の魔道師殿達は魔法学校にいく気はあると。それだけじゃなく何かしら、別の目的もある。
「その前に、あの荒くれ者の対処が先じゃない?」
そいう少女の顔はとても苦いものだった。
「そうだな。そろそろ、ここにも来そうだ」
「お前ら、荒事には慣れてないだろ。どうすんだ?」
「どうするって、そりゃあ」
「追跡できないようにするしかないだろ」
片田舎の魔道師達は当然とでも言うように、中々に難しいことを言いはなった。
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