第2話:優等生だった親友の頭が悪くなった
「ねぇ、本当に平気なの?」
「う、うん。平気平気。ちょっとさっきの私、おかしかったよね。なんか、多分、気が後転してたんだと思う」
「それを言うなら動転だよ。……ねぇ、ほんっとーに大丈夫???」
「そ、そうとも言うよね!!」
いや、そうとしか言わないと思うんだけど。
「やっぱり今日は私、菜乃葉の家にこのまま泊まった方が良い気がする………」
「そ、そんな!お、恐れ多いよ!!」
恐れ多い??なに、どーゆーこと?
私たち親友なんだから、もう何回もお互いの家でお泊まりとかし合ってる仲じゃん。
おかしい。
今、私の目の前にいる菜乃葉は私の知っている菜乃葉じゃない様に思えてきてならない。
彼女に対して、どんどんと疑問と不安が募っていく。
実はまだ体調が悪いのに、私を心配させない為に無理してるんじゃないか、とか。
菜乃葉は誰にでも気遣いが出来る心優しい女の子だから、親友の私には人一倍気を遣っている様に思う。本来、親友ってその真逆で、一番気の置けない立場だと思うんだけどなぁ。
「それにほら、ちょっと色々整理したいことだらけだし……」
「………そう?じゃあ、私はもう帰るよ??」
ちなみに、お母さんが精神科医に電話しようとしてたところを菜乃葉が必死に止めて、私のお母さんはもう既に家に戻って仕事を再開している。
「真希ちゃん、気をつけて帰ってね?」
「……………」
菜乃葉は私を『まーちゃん』と呼ぶのに、急に呼び方が変わってる。
まぁね?私たちは親友だから、そんなことで一々突っかかったりもしないけどさ。けど、やっぱり何だろう。………少し寂しいじゃんか。
「
「………はいはい!それじゃあ、真希ちゃんは帰りますよーだ!……菜乃葉、いい?明日は無理に学校来なくても良いんだからね?」
「うん、わかった!
だらしなく菜乃葉が笑った。
……本当に分かっているのだろうか。これでも私は菜乃葉の一番の友達だという自負があるし、だから彼女には極力無理はして欲しくない。
「何かあったらすぐに親と私に連絡すること!わかった?」
「はぁーい!」
「……それじゃあ、バイバイ」
「うん、またね!」
菜乃葉は確かに別人の様にも見える。けれど、最後の「またね!」って言って手を振るあの姿は、間違いなく私のよく知る菜乃葉だった。
「(まったく、笑えば誰よりも可愛いのに。勿体ないなぁ菜乃葉は)」
そんなことをいつもみたく思いながら、私は「ふふふっ」と笑って菜乃葉の家を出た。
◇ ◇ ◇
私こと高校二年生の
まだ進級したばかりで、4月の後半。
つい何週間か前まで、私は『後輩』でしか無かった。それが、今年からは新入生も来て、『後輩』でもあり『先輩』にもなった。
まだ先輩という肩書きに慣れることはなく、ついつい後輩の子に挨拶をされても返事がぎこちなくなってしまう。
ただ二年生になってもクラスメイトが変わることは無かった。
私たちの学校はクラス替えが無い。
だから、同じクラスで親友の菜乃葉とは離れ離れになることも無く、私としても嬉しい限りだ。
「ねぇ、真希ちゃん」
「ん?どーしたの?」
今日の3限目、数学IIの授業が終わった後の休み時間に菜乃葉が私の席まで、授業ノートとペンを持ってやってきた。
「珍しいね、菜乃葉」
「えっ、なにが?」
「いや、いつもお昼休みと放課後以外じゃ周りの目を気にして私に話かけに来るなんてこと無かったじゃん」
「あっ………。あ、あぁ、そうだね。そうなんだけど、どうしても今すぐに質問したいことがあって」
「菜乃葉が?………別に良いけど」
菜乃葉は頭が良い。
優等生という肩書きは伊達じゃない。私も結構、勉強は出来る方だけど毎回定期テストでは学年で菜乃葉が1位。私が2位だ。
そして、菜乃葉はずっと「自分は勉強でしか意識されることが出来ないから」が口癖だった。菜乃葉は私に意識してもらいたいと思って頑張ってるみたいだけど、正直、菜乃葉が仮に勉強が不得意でも私は菜乃葉をずっと意識し続けると思う。
だって、親友だもん。
でも菜乃葉は今まで、私に勉強を教わることは断固として拒み続けてきた。それはきっと、私が本当の気持ちを伝えたとしても、未だに菜乃葉の中で「私から勉強を取ったら、まーちゃんの中から私が消えちゃう」とか思ってしまうからだろう。
だけど、それが今はどういうことだ。
あの菜乃葉が、いつも余計な気遣いでお昼休みと放課後以外では私に話かけに来なかった彼女が、こうして休み時間に声をかけてきて、更に私に勉強で聞きたいことがある、と。
「一応聞くけど、本当にもう体調は平気なんだよね?」
「うん!もう大丈夫!どこも悪くないよ」
「そうなんだ。なら良いんだけど」
「うん!………それに、真希ちゃんと話したかったし、近くにいたかったから」
「……………」
な、なな、なによぉ。急にそんなこと言われたら顔が赤くなっちゃうじゃん!!
普通に今まで菜乃葉にそんなこと言われたこと無かったから、嬉しい。
「そ、それで?菜乃葉が分からないところはどこ??」
正直に言うと、まだ二年生の授業は始まったばかりであり、今日の授業でも別にまだ、ついていけない、なんて思う箇所は無かったはず。
「ここなんだけど………」
菜乃葉がそう言って教科書と共に見せてきたノートの箇所を見て、私は固まった。
確かに、筆跡も菜乃葉のもの。
可愛いらしい丸文字、綺麗な板書。
けれど、、、
「菜乃葉……、ここ、昨年やった基礎中の基礎だよ???」
どうやら優等生だった私の親友は、頭が悪くなってしまったのかもしれない。
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本日は午後の18時頃にも、もう一話更新します。
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