第13話 「俺は…………
巨大な魔物は六つの瞳で二人の事を見下ろしていた。五メートルもある魔物にとって自分たちなど蟻同然の存在に等しいだろう。実際に
それ以前にヌダロスにとって人間すべては敵であり、いずれ駆逐すべき害虫であり、カスであった。それはかつて魔王に忠誠をちかった頃から変わらないことだった。
しかし、ヌダロスは人間の中の魔法を扱う者たちを食らうことで自身の魔力にすることができた。
なによりヌダロスが魔法使いの魔力の味を気に入っていたので、こうしていくつかの支配地で魔法使いを集めては食らっていたのだった。
「おじいさん、肩から血がッ」
ビアードはクレアを庇ったときに、避けきれずにヌダロスの大斧がカスっていた。
「大丈夫。大した怪我じゃないよー。それより、こうなってしまったら
それを聞いていた
「ほう……このヌダロスから逃げおおせると、本気で思っているのか? なぁ虫けらよ」
「まさかっ! そんな事は思っちゃいないが、わしだって虫けらなりに足掻かせてもらうよ」
「ふむ、そうか。……それは油断ならないかもしれん」
するとヌダロスはその巨体に似つかぬ素早い動きで部屋の周囲を移動すると、部屋の唯一の出入口をその巨体で塞いでしまった。
「ここさえ塞いでいればお前らは逃げる事は出来ない。では、ゆっくりいたぶるとするか」
ヌダロスは四つの腕で二人に襲いかかる。
ビアードは再びクレアを掴みあげると、魔法で空を飛びヌダロスの腕から必死に避け始めた。
ヌダロスは二人が避ける様を楽しんでいた。
大きな落石にゆく手を塞がれた優太は先に進めずどうしたらいいか困っていた。
しかし足元にちょうどしゃがめば、なんとか通れそうな隙間を見つけた。
「ここからなら反対側まで抜けられるかもしれない」
優太は寝転がるとほふく前進をしながら慎重に隙間をくぐり出した。幸いにも今は洞くつ内の揺れは収まり、落石も落ちてきていない。もし揺れで今体の上にある落石が少しでも動いたら、俺の体はたちまちペシャンコだ。
―どうかこのまま静かでいろよっー
優太はそう念じながら、なんとか隙間を通りクレアのいる反対側に行くことができた。
「急ごう。俺がぐずぐずしているうちに、クレアは先に着いてしまったはずだ」
優太は洞くつを底にそこに下っていった。
ビアードは風の飛行魔法でヌダロスの攻撃からギリギリでよけ続けてきたが、ついにビアードの魔力に限界が来た。魔法使いは自分の魔力がなくなると回復するまで魔法を使うことができなくなる。
それまでもビアードは自分に残された僅かな魔力の搾りかすを精一杯ひねり出しながら飛んでいたのだが、突然ビアードのスピードがガクンと落ち本当の限界が来たことを悟った。
「しまった! 魔力切れだっ」
その直後、ヌダロスの腕の一つがビアードとクレアに直撃した。そして二人はそのまま強く地面に叩きつけられてしまった。
「遊びはもう終いか?」
ヌダロスは二人を見下ろす。
「おじいさんっ ねえ、おじいさんたらっ」
「うぅ……」
ビアードは叩きつけられた時に一緒にいたクレアを庇っていた。その為、背中を強く打ち一時的に体を麻痺し動けなくなってしまったのだ。
「クレア わしをおいて逃げるんだよ……」
「そんな事……出来ないよ……」
そこに地面に落ちて動けなくなった二人に目掛けて、ヌダロスが嘴の大斧を振り下ろした。
「いやっ!」
万事休すか。まさに絶対絶命のその瞬間、二人は横から何かに強く押し出された。
しかしそのおかげで斧の軌道から逸れ二人は攻撃から逃れることができた。
「誰だか知らないけどありがとう、おかげで助かったよ」
しかしヌダロスの大斧は代わりに二人を押し出した人物に直撃していた。地面に突き刺さった大斧の下から潰された死体の赤茶色の服が覗いていた。
「あ、あれは……わしがユタにあげた服だ」
「そんなっ……じゃあ、私達を助けてくれたのはユタだったの?」
クレアはそれを聞くと恐怖で足が震えた。それから自分の目で確かめようと思っても、その死体を見ることが出来なかった。
「どうやらゴミ虫がもう一匹、迷い込んできたようだな。いや、来ていたか」
そう言うとヌダロスは立ち上がり地面に刺さった斧をズぶりと引き抜いた。
「なんてことだ。わしゃあ、クレアや村の為ならこの老い先短い命など使ってやるつもりで生贄になったが、わしのせいで本来村とは関係のない若者が死ぬことになるなんて」
ビアードは悲しそうにそう言うとまだ痺れが残っている体でなんとか立ちあがった。
「もう魔力は残っちゃいないけど、ユタが命がけで救ってくれた命なんじゃ わしゃあ、諦めぬぞ」
そう言うとビアードは懐から折り畳み式の杖を取り出した。これは本来詠唱が複雑な魔術を発動するときに補助する目的で使うのだが、魔力が無い今はただの打撃武器だ。
ビアードが杖を縦に構え素早く攻撃に対応できる構えをとった。
「ふん まだ元気だなじじい」
ヌダロスは大斧を両手で持つとビアードに斬りかかった。しかしビアードは老人とは思えない反射速度で攻撃を見切ると杖を軸にして身をかわした。
「よっと」
「むう、虫が小賢しいぞ」
しかし二、三切り結んだところで、突然ビアードの体にさっきのしびれが戻った。そのせいで膝をつき動きが止まった。
―し、しまった!―
「ははは もらった!」
ヌダロスは狙いをつけビアードに強烈なパンチを繰り出した。身長ほどもある巨大な拳はまっすぐビアードに吸い込まれていく。
「もうだめだ……!」
だが、そう思った時、ビアードは再び何者かに押し出された。そして
「ぐふっ!!」
殴り飛ばされた彼はそのまま吹っ飛び、部屋の壁に激突した。壁はくずれ無数のがれきが彼の上に降り注ぐ。
「バ、馬鹿な…………! あいつはさっきこのヌダロスが直々に始末したハズだぞ?!」
クレア以外のこの場の全員は、確かに彼がさっきヌダロスに斧で潰されていたのを自分の目で確かめていた。
それに他のに村人が入って来たのなら必ず誰かが気づくはずだ。さっきまではヌダロスが座り込んで入口を塞いでいたが、今はビアードと戦う為に立ち上がり部屋中を見渡すことが出来たのだ。
「え?? 今おじいさんの代わりに吹っ飛んだのって、ユタだよね?? けどさっきユタは
「うむ、もしかしたらユタは、
優太が吹っ飛びくずれた瓦礫がごとごとと音を立て崩れだした。そして瓦礫の下から何かの影が這い出てきた。
ヌダロスは瓦礫に向かって叫んだ。
「貴様、死んだはずだろっ!」
「俺は…………不死身だッ」
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