異世界に転生したら、乙女ゲーに出てくる全断罪ルートを辿る悪役令嬢の義兄でした。『4000pv感謝」

序章

第1話 義妹は悪役令嬢。

突然だが、俺の義妹はめちゃくちゃ可愛い。

金色に輝く髪に、金木犀を埋め込んだ様な輝く瞳。

そんな世界遺産級の俺の義妹、セシリア・フィンセントだが、何と彼女は、前世で流行りすぎて社会現象にまでなった乙女ゲーム「世界が君を拒んでも」略して「セカコバ」に悪役令嬢（全ルートバッドエンド）として登場する。

義理の妹がゲームの悪役令嬢だということは、当然、俺自身もセガコバの登場キャラである。

全ルートバッドエンド悪役令嬢の義兄という事で、転生した訳ですが。

いや、別にいーんですよ？

異世界転生なんて夢のまた夢だったし。

でも、セシリアがバッドエンドルートに入ったら、セシリアの一家全員、何らかの形で没落しちゃうとかいう豪華特典だけは許容できない。

まぁ、そんな不遇な運命を辿る俺の義妹をハッピーエンドに導きつつ、フィンセント一家全員を救うのが、今世の俺の目標だ。

可愛い義妹のために、俺...頑張っちゃいます！

◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇

ゲームで、セシリア『悪役令嬢』はアリシア『主人公』に対して、陰湿ないじめを行う。

いじめの内容は忘れたが、いじめに至った経緯は、確か攻略対象者を攻略された事による嫉妬から来るものだったはずだ。

そして、その愚行を見兼ねた攻略対象者から、婚約破棄&国外追放or死刑etc...などなど様々なバッドエンドルートを突き付けられ、セシリアは物語から退場する形になる。

ちなみに、セシリアがバッドエンドになった時点でフィンセント公爵一家没落するので、フィンセント公爵家はどのルートに入っても、必然的にバッドエンドを迎えることになる。

うん。

この家族、完全に呪われてる。

いや、セシリアが呪われているだけなのだろうか？

いや、クソゲーなだけか。

と、噂をすれば、、、。

ドンドンドンッッ

「お兄様？なんなのですか！！あのドレスは！！」

歩く世界遺産、張本人のご登場だ。

「おいおい、お兄様に向かっての第一声がそれか？まずは、おはようございます。だろぉ？セシリー。」

「おはようございます...。お兄様。」

ここで、ちゃんと訂正できる可愛い子なんですが、何であんなにグレちゃうんですかね？

「あぁ、おはよう。で、あの可愛いドレスの事だろ？何がいけないんだ？」

「いけないも何も、なんですか、あの幼稚なドレスは？！」

「可愛いだろ？」

「全然可愛くなんかありません！！」

「え？俺のお気に入りなんだが、それに、あのデザイン...セシリーに似合うと思うぞ？」

まぁ、少しだけ過剰に花びらを付けたのは遊び心が過ぎたとは思うが。

「似合わないし！！知らない。お兄様なんて知らないんだから！」

「おーい。素が出てるぞ〜。」

「うるさいっ！」

ドンッ！！

13歳の女の子だし、反抗の1つや2つしたくなるお年頃なんだろう。

ていうか、いっつも素で話してくれたら良いんだけどな。

やはり、このフィンセント「公爵家」という看板が彼女を本来の彼女から遠ざけているのではないだろう。

まぁ、それにこの歳になるまでにも色々とあったしな...。

今日は少し意地悪が過ぎた。

明日は、蜂型の着ぐるみでも送ろうか？

◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇

今日は、父、姉、俺、義妹の一家4人で、フィンセント公爵家領地の視察を終え、屋敷に帰るところだった。

現在、俺達一家と護衛達は、森の中で数十人の集団に襲われている。

「...こんなのゲームには出て来てないぞ？」

そんな事を一人呟く。

もしかしたらエピソードゼロとか、キャラの特別シナリオとかで、出てきていた可能性は拭えない。

でも多分、俺のせいですね。

ハイ。

異世界転生＝イレギュラーはメタ中のメタ。

もうゲームでのシナリオとかストーリーに頼る事はあまり現実的ではない事が目の前で証明された。

「フィンセント閣下、ご家族とともにお逃げください。ここは我々が引き受けます。」

「ッ！駄目だ。...ここに其方らを置いて逃げたのならフィンセント公爵家一生の恥となる！！」

フィンセント公爵家。

この家系の先先代やその前の当主は、いずれも戦場で命果てる事を選んだ純粋な死に急ぎ野郎の家系だ。

戦場で果てた後、その名誉が讃えられ、4代という短い年月でこの公爵家という地位にまで上り詰めてきた。

そして、父さんもまたその家系の当主。

戦場で散る事に何の躊躇いすらも感じないのかもしれないが。

助けてもらう立場の人間からしたら、罪悪感しか残らないので、辞めてもらおう。

「ですが！！このままでは...！！」

「フィンセント公爵家だな...？」

護衛の声を遮り、黒いフードの様な物を深く被った男がそう投げかけてくる。

「貴様ら、何者だ！！」

「フッ」

「ッ！！ふざけるな！！誰の命令で動いてる？！」

「それを言って何になるって言うんだ？それを言ったら死んでやる、と言うのなら言わん事もないぜ？」

「な、何だと？！」

男は冷静だった。

立ち居振る舞いを見てもアイツがこの集団のリーダーという事で間違いないだろう。

「聞け、お前達。私はここに残り、我が兵とともにお前らの逃げる隙を作る。お前達は必ず生き残りなさい...。」

「...。」

周りの兵達も父さんも俺達も、冷静な判断ができていない。

そんな中、一番冷静だったのは、我が姉、ミリア・フィンセントだった。

「落ち着いて、打開策はあるわ。」

「な、何？！」

「...。」

無言の時間。

姉が何を考えているか誰もわからず、ただひたすらに姉の口が開くのを待っている。

「行きなさい、ロベルト。」

「は？」

名前を呼ばれた当の本人でさえも口を開けてしまうのだから、周りの人間はもっと意味がわからないだろう。

「さぁ、アンタならできるわ。」

「いや、え？はっ？」

姉のことを怖いと感じたのは初めてだ。

「もう、良いミリア。私が壁にな...」

「父さんは、外の賊達の気を引いておいてください。」

「あ、あぁ。」

姉の放つ謎の気迫。

本当に何か策があるというのだろうか？

「ロベルト、言葉が足りなかったわね。時間を稼いで、数分だけで良いの。」

「...。」

何故それを俺に言うのか。

「アンタが強いことを私は知っている。見てたんだから。」

そこで合点がいった。

姉はどうやら俺の今までの12年間を見ていたらしい。

「はぁ...。何かご褒美がないとね？」

「ふふっ、アイツらの亡骸でどう？」

「いや、怖いから。」

そんな、屈強な姉とは反対に心配そうな表情を見せる義妹。

俺はピンときた。

今がチャンスだ。

今こそ兄としての威厳を見せる時。

そう思い、馬車から出る前に義妹の頭を撫ぜようと手を頭の上に乗せようとする。

パチンッ

だが、手を払われた。

泣きそうだ。

「お兄様は死にません。まるで最後みたいな...事を...しないで、」

嬉しくて泣きそうです。

「戻ってくるさ。じゃ頼むよ、姉さん。」

「えぇ、アンタも死んだらダメよ。」

「あぁ。」

俺は馬車から身体を出し、華麗に地面へ着地する。

「護衛の皆さん力を貸してください。」

「ロベルト様、中にお入りください！」

「大丈夫、戦えますよ。俺も。」

「ですが、」

「きますよ、敵が！左右後ろの守りは任せます。俺は前を潰すので。」

返事は返ってこない。

返ってきたのは鉄と鉄とがぶつかりあう、嫌な音だけだった。