第26話:期待のコインと高貴な弟妹
***
「はぁ~緊張した」
学長室から退室したシイラは、安堵の息を吐いた。
面談は本当に簡単なもので、この学校に入学式する目的と、いくつか質問に答えただけで済んだ。
「だから言ったでしょ? 簡単だって」
「はい! でもまさかその場で合格を言い渡されるとは思ってなかったです!」
「私やヒビキの時も同じだったわ。 それよりも彼に学長は何を話されるのかしら?」
学長に呼び止められエクリオは一人残った。
アコは学長とエクリオの話の内容が気になるようで、そわそわしている。
「パト学長のご息女についてでしょうけど……詮索するのも野暮ですから、私たちは学食で少し休んでいましょうか」
しかしヒビキの一言で三人は移動するのであった。
***
『あなたがこの学園で学びたいこと、達成したい目標などを聞かせてください』
面談はほとんどその質問だけで終わった。
あとは犯罪歴や、その人の潜在的な危険性を確認する性格診断のような簡単な質問があったくらいだ。
俺たちは特に問題はなく答え、合格を言い渡された。
しいていうならシイラは学園に対する想いを熱く語りすぎていた。 そして俺のとりあえずの目的として「遺物の研究」と答えた瞬間学園側の空気がピリついたような気がしたくらいだろうか。
「残ってもらって悪いわね」
「いいえ、構いないです。 ピトのことですか?」
俺の問いに学長パトは首を振った。
ピトについて根掘り葉掘り聞かれると思っていた俺は拍子抜けした気分だ。
しかしそうなるとなぜ学長パトはこの場を設けたのか。
ピトのこと以外の理由が俺には思いつかなかった。
「もしあなたが遺物の研究だけを目的としているのなら、この学園に通う価値はないかもしれません」
学長は申し訳なさそうに、悔し気に眉をしかめて言った。
「この学園は学問において自由である、そんな風に言われているし、そうなるよう日々努めています」
「しかし実際は国の違い、文化の違い、身分の違い、学問の違い、考えの違い、様々な問題があります――
――遺物研究は学問の中では低俗で、非生産的であると強い言い方をすれば差別のような扱いを受けています」
「それでもあなたはこの学園への入学を希望しますか?」
学長パトの言葉に俺は即座に苦笑いした。
「実は――」
俺がこの学園に来た経緯を隠さずに話すと、学長パトは意外にもほほ笑んだ。
「あのじゃじゃ馬娘と腹黒娘に目を付けられるとは前途多難ですね」
「それだけですか……?」
怒られるか、相応しくないと言われることも覚悟していたので少し驚いた。
「この学園は別に崇高な機関なんかじゃ決してなかった。 ただ好きなことを、好奇心の赴くままに学ぶ。 それが役に立つとか、人に誇れるとかは関係ないんですよ……何をどこで間違ったのか、今では歪んだ形になってしまいましたけど」
共立国際魔法学園とはエリートの集まる場所で、気軽なイメージはなかった。 しかし本当はもっとラフで、自由な学び舎なのかもしれない。
「今ではこの学園の名前はブランドとなってしまった。 故に人に求められない学問は侮蔑される傾向にある。 私の娘もそれでここを去ったんです」
「……結局俺に言いたかったのはこの学校はやめておけってことですか?」
学長パトは首を振って一枚のコインを俺にくれた。
「これは……?」
「確認と注意喚起のためですね。 そしてそのコインは自由と知識を愛する正しき研究者への投資です……有効に使ってください」
「ありがとうございます? ピトについては……」
「元気にやってるならそれでいいんです」
学長パトはそう言って悲し気にほほ笑むのであった。
〇
待ち合わせしていた学食へ向かうと、アコとヒビキとシイラ、そして二人の少年少女がお喋りしているようだった。
「お待たせしました」
「あ、この男の子がエクリオよ!」
アコがそう言って紹介すると、二人の少年少女が興味深げな視線を俺に向けた。
「初めましてエクリオです」
「初めまして。 僕はラララ大王国第二王子ツナオ」
「私はロドド帝国の四女フブキです」
「この子たちも今年入学する、あなたたちと同級生なのよ!」
アコとヒビキは三年生であり、入学してもあまり関わることはないと思っていたのだが、ここにきて予想外の刺客である。
この学園は平等を謳ってはいるが、彼らと深く関わることは面倒ごとがつきまとうと思われるので出来ればほどほどの距離感でいたいところだ。
「それで? 学長と何話してたのよ??」
「いや遺物の研究をしたいって話してたじゃないですか。 それに関して、大変かもよという話をしていだたきました」
「ふーん? 娘さんのことではないんだ」
「それに関しては解くには聞かれませんでしたね」
アコはつまらなそうに相槌を打って、しかしすぐに嫌らしい笑みを浮かべた。
「じゃあエクリオと学長の娘さんの関係って――」
「姉さん」
アコの弟ツナオが静かに、しかし強い口調でアコの言葉に割り込んだ。
「こんなところでする話でもないでしょう。 それに人の深い部分にずかずかと踏み込むのは良くないと思います」
「うっ……それもそうね。 ごめんね、エクリオ」
「いえ、ツナオさんありがとうございます」
「いえ、うちの姉が色々無茶言ったみたいでこちらこそ――」
姉のアコは無邪気、悪く言えば我儘なのに対してツナオは冷静にアコというじゃじゃ馬を制御しているように見えた。
正直アコもヒビキも強引な部分があり、貴族にも王族にも良い印象はなかった。
しかしツナオは高貴な身分にありがちな偉ぶる素振りを感じられない。
王族と言えどツナオとなら仲良くなれるかもしれない。 そしてツナオを味方に付けることが俺の学園生活の平穏につながる、俺は心の中で彼に対してそんな期待を抱くのであった。
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