第24話:精霊石と眷属




 船に戻ると俺たちはだらだらと風呂に入り一息ついた。


 そして俺はようやく山神にもらった精霊石について尋ねることにした。


「これってそんな貴重なものなんですか?」

「……聖教国であれば国宝になるでしょうね」

「国宝!?」


 驚いた拍子に俺が精霊石を取り落とすと、必死の形相で聖女が床に落ちる寸前でキャッチした。


「気を付けてください!」

「すみません、びっくりして思わず……」

「まあ無理もないでしょう。 でも本当に気を付けないと、この中には山神様の眷属がいるのですから」


 この精霊石には山神の力が込められたことにより、誕生した精霊が宿っている。


 これに所有者が魔力を注ぐことによって、その精霊と繋がりを持つことができる。


「強力な魔法使いが多いことで知られるエルフの魔法も精霊を介しているため強力なんです」

「ええ?! めちゃくちゃ凄いじゃないですか!」

「はい、ですから国宝なんです。 国の魔法使いに精霊石を使わせることができれば、その人はもはや兵器と呼べるほどの戦力になり得ますから」


 聖教国では単純に神からの贈り物という観点から国宝だが、他国でも意味合いは異なるが国宝級の代物であるようだ。


「……いります?」


 なんだか身に余るというか、そこまで貴重なら聖女に渡した方が価値がある気がした。

 しかし聖女は首を激しく横に振る。


「そんな罰当たりなことはできません! エクリオくんが責任持って所有してください!」

「分かりました……じゃあさっそく」

「え、ちょっといきなり!?」


 俺が魔力を注ぐと精霊石が光を放った。


ーーぴき、ぴき


 そしてまるで孵化するかのように、精霊石は割れた。


「ハイ」


 出てきたのは頭に葉っぱの生えた小さなーー拳サイズの少女だった。


「ハイ!」


 彼女は挨拶するように手を上げて、俺に笑いかける。


「これが精霊……?」

「ハイ!」


 その少女は人語を話すことはできたいらしく、ハイという不思議な鳴き声しか発することができないようだ。


 見た目は愛らしいが、どう扱えば良いのか分からず俺は困惑した。


「この子何食べるんだろう……?」

「ハイ!」


 少女が両手を出したので俺はおもむろに指を差しだしてみる。


――ちゅ~


 すると彼女はストローで飲み物を呑むように、指をちゅうちゅう吸い始めた。


「魔力を吸ってるみたいですね……はあ、とても愛らしい」


 聖女がうっとりした目で、少女を見つめた。


 余計な餌代がかからないのは俺としてもありがたい。


「それでお前はどんなことが出来るんだ?」

「ハイ! ハイハイ!」

「意思疎通ができないのはなかなか困るな……」

「聖教国に残されていた資料によりますと――」


 少女が必死にジェスチャーするが、読み取れず困っていると聖女が解説してくれた。


 曰く、山神の眷属である精霊は植物を育てることが得意らしい。


 かつてどこかの王宮の庭園を管理する精霊がいたとかいないとか。

 その庭園はこの世のものとは思えないほど美しく、その庭園を羨ましがった貴族たちが山神の元へ山のようにお供えをしたがついぞ精霊石をもらうことはできなったとか。

 

「なるほど。 正直、俺の畑を管理してくれるなら助かるな」

「ハイ!」

「お、やってくれるか? じゃあ頼んだよ」

「二人だけで分かり合っててなんか寂しいです……」


 俺と少女が握手している姿を聖女がなぜか羨ましそうに見てくるので、俺は苦笑いするしかなかった。 


 それから俺は当初の約束通り、船で街に向かった。


「エクリオ君、君がいなかったら私の旅は失敗に終わり、そして世界も滅んでいたかもしれません。 聖教国を代表して心から感謝を申し上げます――ご助力ありがとうございました」


 自分では何か特別なことをしたつもりもないので、そこまで深く感謝されると正直照れくさかった。


「お役に立てて光栄です。 これからも多くの苦難が待っているかもしれませんが、きっとハウナ様であれば乗り越えて行けるでしょう……旅の帰りにはまた村に寄ってください。 その時はこの子と作った野菜で料理をごちそうしますよ」

「それはとても楽しみです。 必ずやり遂げ、そしてまた会いましょう」


 嬉しそうにほほ笑む聖女と俺はハグして別れを惜しんだ。


「あ、そうだ」


 俺は別れる前に聖女からスマホをもう一度借りた。


 そしてアドレスを作成し、俺はそれを記憶して聖女に返した。


「もしスマホの遺物が見つかれば連絡します」

「はい! ぜひお持ちしております!」


 俺は今度こそ船に乗り、聖女に見送られる。


「さあ、スローライフの再開だ」

「ハイ!」


 新たな仲間を加えて、俺は久しぶりに肩の力を抜いて村へと帰るのであった。










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これにて二章は終わります。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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現在、小説コンテストに参加している作品です。

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