cruel slayer 〜斬撃、惨劇〜

 同時刻。

 ヤング・パイン。


 汐留ユウキはビル群の中を駆けていた。

 色褪せた黄昏色の陽炎がビルの窓に反射して煌めいていた。

『約300メートル先に殲滅対象、3…いや5名確認』

 少女の声がユウキの隣で響く。

「分かった。迅速に対処する」

 そう言って彼は手元に棒状の鉄塊——サツマパルスブレードを現す。


「おい、アレは!!」

 前方から現れる集団の影。


「変身」

 手首に提げられたブレスレットに触れて、黒い装甲を纏う。

 同時に鉄の棒から青い閃光が伸びる。

 銃を向けられるより、疾く迫る。

「ひっ……」

 既に引き金に指を掛けた時には、視界は地面に滑り落ちる。

 転がった頭部を蹴って、頸動脈の焼けた屍の林を潜り抜ける。


 彼にとって、斬り捨てるべき悪に情けはない。

 当然だ。それが正義なのだから。

『次、10名……いける?』

「当然だ」


 向かえば、既に数丁のライフルの銃口を向けられている。

 関係ない。撃たれる前に殺せばいい。


 蒼い残光が薙いだ。

 緋い鮮血が舞った。


 首を、胴を、肩を、腕を、切り落としていく。

 殲滅、殲滅、殲滅……

 至って単純な痛みと恐怖による絶叫が、日没のエンドロールとして虚空へと消えていく。

 男達は何を思って死んでゆくのか。何を遺して散っていくのか。


 彼には分からない。


「ほぉう、お前が巷のヒーロー野郎か」

 奥から現れたのは3メートルはあろうかという大男。

 全身が筋肉の鎧で固められたかのような体躯のソレは、獲物を睨むような目つきでブラックブレイズを見ていた。

 自分が狩られる側だと気づかずに。


「俺の家族を殺すとは……命知らずにもいいとこだ」

 片手に巨大な大斧、反対にはこちらも巨大なガトリング銃を持っている。

「死んで、落とし前つけろヤァっ!!!!」

 ガトリングの円筒状の銃身が回転してブラックブレイズへと迫る。

 襲い来る、弾丸の雨はブラックブレイズの身体を蜂の巣に——

 否、弾かれていた。


 ブラックブレイズは、ただため息を吐く。

 退屈なのか、呆れから出たものなのか。

「強い言葉を使うのは、かえって弱く見えると聞いた事があるが……」

 彼はサツマパルスブレードの柄を握り直す。

「ギャンギャン吠えすぎだ」

 地面を抉る程に踏み込み、消える。

 大男は巨斧を構えるが蒼い閃光に斧ごと身体を斬り下される。

「こっ……いつっ……」

「大したものではなかったな」


 さらに横に一薙ぎ、斬撃が大男の身体を焼き刻む。

 身体は三つに断ち切られ、上の肉塊二つが地面に滑り落ちる。


『九洞會、保守勢力を殲滅……完了しました』

「了解」

 少女の声を聞いて変身を解除したユウキ。

 残った下半身を一瞥してポリゴンの残滓と共に去っていく。


 それよりも、信念の方が大切なのだから。

 ブラックブレイズは駆けてゆく。

 ただ、己の正義の為に。

 全てを燃やし尽くす黒い炎を冠しても。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る