storm 〜戦闘〜

 隠密行動を続けたまま、一切戦闘を行わずに小さなビルに辿り着く。

『本当に闘わなかったね』

「いいんだよ、それで」

 ビルの入り口の前に立つ二人。


 そこに最大の誤算が存在していた。


 目の前のドアが勝手に開く。

「は?」『え?』

 まさかの自動ドア。それに気づかずにドアに近づいていたのだ。


「あちゃー……やっちったな」

 初歩的すぎるミスに思わず声が漏れた。

『はぁ……』

 その先に黒服の男が何人かうろついていた。

 その中の一人が入り口のイーグルを視線で捉えた。


「……侵入者だ!!」

 がなり声と同時に周囲にいた黒服がイーグルの元へと向かってくる。


「……こうなりゃ突っ切る!!」

『イーグル、ワタシを使って』

「OK!!」

 イーグルは担いでいた白いショットガンを、“J”を黒服たちに向ける。


 銃をぐるりと一回転させて撃鉄を起こして、照準を合わせる。

 スピンコック。馬上戦では有用だが、別に地面に二の足で立ってる状況で使っても意味がない。

 じゃあ何故使うのか。

 カッコいいからに決まってる。

 

 ドオン!!

 鈍い銃声。

 黒服の男の身体から赤い飛沫が飛び散る。

 倒れる黒服。


「……テメェ!!」

 仲間の黒服が懐からグロックの拳銃を取り出してイーグルに発砲する。

 イーグルは射線から回避した後に、スピンコックでショットガンを男の顎にぶつける。


 気絶した男を盾にして反対方向から来る弾丸を受けたあと、瞬時に射線上の男に向けて引き金を引く。

 ドオン!!!!

 肩を大きくのけぞらせながら倒れていく。


「気をつけろ、アイツ……只者じゃねえぞ!!」

「たかが1人じゃ!!数で押し潰せばええ!!」

 黒服の男たちは取り囲んで、一斉に銃を構えていた。


「そりゃあな、俺だってお前らにやられるタマじゃねぇんだよ!!」


 白いショットガンを回転させながら吼える。


 イーグルは純白のショットガンと持ち前の機動力で黒服の男達を蹂躙していく。


 室内の銃撃戦において、一対多の状況は後者の方が不利になりやすい。


 一の方にメリットが生まれやすいのだ。


 集団は固まれば固まるほど味方に流れ弾が当たりやすい。

 遥か古代でも石を投げ、弓を引く時は必ず前線もしくは上部に配置される。

 それ以外な場所だとかえって同士討ちを引き起こしてしまうのだ。

 ただでさえバックファイアが起こりやすい室内において、銃を使うのはあまりにも危険すぎる。


「ぐあっ!!いってぇ!!」

「おい!!俺じゃなくてあの男を狙え!!」

 現に今、その状況が引き起こされていた。

 カムリの銃ではなく、味方の銃弾で倒れていく男たち。射線に味方がいるせいでまともに銃は向けられていなかった。

 

 寡兵よく大軍を破る、一騎当千と言った言葉が存在するように少数が大軍を潰すという事象は決して天命によるものではない。

 それは軍の弱さ、隙を突いた攻撃。

 そして死中に活を求めることによる一時的な戦闘本能の上昇。


 攻防は数の多少で決まるものではない。

 ましてや、統率の取れてない集団如きに彼が負けるはずがなかった。


 鳥籠から解き放たれた大鷲は、狭い部屋の中でも自由に羽撃いた。

 銃声という名の囀りを響かせながら、本能のままに射抜き、命を攫い、死を告げる。

 それが鷲澤カムリ、便利屋イーグルのスタイル。


 ただ、今までの彼と大きく違う点といえば、あえて急所を外し、確実に殺さないようにしていたところだった。


「くそッ!!舐めやがって!!」

 銃撃を受けた黒服の男が地面に倒れたまま、拳銃をイーグルに構える。

 それを見逃さなかったイーグルは男の手首を蹴り上げて、手に持っている拳銃を弾き飛ばす。

 そのまま拳銃を奪い、後方から襲いかかってくる男の肩を撃ち抜く。


 すかさず右にいた男の腿を撃ち、さらに身体を捻って反対方向にいた男の脛を撃ち抜いた。

 引き金が硬くなったところで、落ちていたグロックを拾って弾倉を入れ替える。


「埒があかねぇな……とにかく上でいいんだよな!!」

『本部の管理室は4階……そこに制御室の鍵がある』

「うっし、行こう!!」

 イーグルは非常階段を登っていく。

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