第3話 約束
彼女の声が忘れられない。耳を澄ますが彼女の声は聞こえることはない。まぁそうだよな…。
「…ん?」
何か聞こえる。
「しっかしあいつも馬鹿だよな。自分から名乗りでたくせに、死んじまうんだもんな。」
「おいやめろって。実験体に聞こえるぞ。」
「大丈夫だって!お前、心配しすぎだぞ。まあ実験体もあいつも利用されてるのには気づいてたっぽいけどな。けど、魔法が使えるようになりたいからって自分から体差し出すやつがあるか?影響受けすぎだろw俺だったら絶対渡さな…」
どさっ。
「おい!どうした!しっかりし、ひっ‼︎」
「今の話は本当なのか?」
「だ、誰か‼︎助け…!」
「質問に答えろ。今の話は本当なのか…‼︎」「ほ、本当だ!だから助け——」
そこからの記憶はない。頭に血が上り、無我夢中だった。気がつくと辺りはほぼ更地のような状態になっていた。呆然と立ち尽くしているとふと、花が目に入った。
「…スカビオサ——」
そう言えば彼女は花が好きだった。外に出られなかった俺に花を通じて季節の移り変わりを教えてくれた。いなくなる前日も、彼女に花を貰った。名前は何と言ったか——。
「この花はリナリア。花言葉はあなたに自分で調べて欲しいの。約束ね。」
そうだ。リナリアだ。その時初めて、いつも着丈に振舞っていた彼女の年相応の笑顔を見た気がした。さっきまでは自分も死んでしまおうと思っていた。でも、彼女との約束を思い出した今、それを守らずに死ねるものか。今まで自由を奪われて来たんだ。最後くらい自分のために使うことにしよう。
いざ、調べようとしたのはいいがこの町にはあいにく図書館のようなものはない。研究所の中にはそのような場所があったが、更地になってしまった今、本一冊を探し出すことはほぼ不可能と言えるだろう。そうして俺は、隣の町へ向かうことにした。隣町とは言ってもこの町は周囲から孤立しているため、かなり距離がある。幼少の頃、母親に連れられ隣町まで行ったことがある。その際、3日ほどかかった覚えがある。
「ここだ」
歩いて2日ほどでたどり着くことができた。図書館の場所を聞くために、近くにあった店に入ることにした。
「いらっしゃい。あんた見かけない顔だね」
「突然なんだが、図書館はどこにあるか分かるか?」
店員は暫し考え込み、
「ちょっと分からないね〜。隣の店のやつは本好きらしいからそっちに聞いてみな!」
と言った。
「分かった。ありがとう」
礼を言いその店員の言う通り、隣の店を訪ねることにした。
「…この町にはそういう所はないなぁ。」
「そうか…」
そうして、店を出ようとした時、
「なんであんたは図書館に行きたいんだい?」
と聞かれた。
「ちょっと花言葉を知りたくてな」
「それなら花屋に聞くんじゃだめなのかい?」
その言葉を聞きハッとした。今まで彼女に図鑑で見せてもらっていたため、図鑑で調べるという考えしかなかった。研究所に入れられる前も花と関わる事がなかったため、花屋の存在を失念していた。そうかその手があったか。
「花屋はどこに?」
「そこの角を曲がったところだよ」
「ありがとう‼︎」
それだけ言い残し、俺は急いで花屋へと向かった。
「いらっしゃいませ!」
花屋へ入り、周りを見回すがあの時もらった花は見当たらなかった。
「あの…、何かお探しですか?」
「あ、ああ。リナリアって花を探してるんだが…」
「すみません…、今取り扱っていないんです。つかぬことをお聞きしますが、なぜお探しで?」
「いや、花言葉を知りたくてな。」
「花言葉なら知ってますよ。『この恋に気づいて』」
それを聞いた瞬間、自然と涙がこぼれていた。
「ははっ、もう遅いよ…」
身体の力が抜け、膝から崩れ落ちる。
「あのっ、大丈夫ですか⁉︎」
今度こそ本当にこの世界で生きていく理由がなくなってしまった。心配してくれた店員の手を振り払い、ふらふらと店の外へ出た。自分がいなければ彼女が死ぬこともなかった。もう死んでしまおう。出来ることなら彼女のそばで。身勝手かもしれない。けれども、最期は彼女のそばにいたい。そう、思った。
自分の町に戻り、町の外れへと向かう。研究所を崩壊させる前、わずかに理性を取り戻し彼女の遺体をどうしたのか尋ねたのを思い出した。彼女は元々住んでいた所に埋めた、と。
「ごめん。僕がいなければ死んでなかったはずなのに。でも、君がいたから今の僕がある。許してなんて言えないよ。——好きだよ。ずっと。」
なんだかふわふわする。あれ?僕死んだはずなのに。なんか前もこんなことあったっけ。確か4歳ぐらいの時だった。40度くらいの熱が出て寝込んでいた。ふと目を開けると目の前にはとても大きな木があって。熱で思うように食事ができていなかった僕は空腹に耐えられず、その大きな木に成っていた実を食べてしまった。その時からだ。魔法が使えるようになったのは。なんで忘れていたんだろう。眠たいような暖かいようなそんな感覚が押し寄せてくる。
『リアム。今までありがとう。そんなに自分を責めないで。私も大好きよ。ずっとずーっと』
クレア。君に出会えてよかった。
そう思いながら、意識は薄れていった。
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