第1.3話

 お兄ちゃんはバイトに行ったみたい。最近は必ずどんなに拒絶しても扉越しに話しかけてくれる。


「はぁ……」


 ため息が漏れる。この部屋に閉じ籠ってもうすぐ三年。勿論お風呂なんかは誰もいない間にこっそりと入っているけれど外には行っていない。

 周りを見渡すと脱ぎっぱなしの服やフィギュアなどが散らばっている。我ながらだらしない部屋だ。

 今日は私の中学の入学式。小学校はこっちに転校してきてから一回も行ってない。だから友達だっていない。


「はぁ……」


 私はそっと部屋の扉を開ける。するとコツっとすぐになにかに当たった。お盆にのせられた卵焼きに明らかに焦げた跡がある野菜炒め。


「ふ、はは……」


 少しだけ笑みがこぼれる。私が引きこもって両親も仕事に出掛けてしまってからごはんを作るのはあのお兄ちゃんの仕事だった。最初の頃は元が何か分からないものになっている時さえあったのだ。そこから考えればとても凄いことだと思う。

 お盆ごとそっと部屋の中に入れ机に置く。お兄ちゃんには悪いけどまだお腹が減っていなかった。


「取り敢えず先にお風呂に入っちゃおうかな」


 おそらくお兄ちゃんも入ったはずなので沸いているはずだ。私は自分の部屋で服を脱ぎ全裸になり、タンスをごそごそ漁って下着とタオルだけを持って部屋をでる。

 そこでそれはおきたのだ。閉じられているはずの扉がガチャガチャと音をたてお兄ちゃんが入ってきた。


「え…………」


そして私の裸を見てこんな事を言ったのだ。


「は、はは……よく出てきてくれた妹よ!」


 私はビックリしながら全ての力を腕に込め強く握り締めました。そして、


「こんのぉ、変態バカ兄!!!」


渾身のパンチがお兄ちゃんのお腹に直撃してポッキーのように骨が折れた感じがしました。


「ごはっ!」


 私は痛みにのたうち回る兄をよそに走って自分の部屋に飛び込みました。息が苦しい、心臓の音がとてもうるさい。今までにない程ドクドクと脈打っている。

 壁に背を預け落ち着かせているとお兄ちゃんも復活したのか焦った声で話しかけてくる。


「ご、ごごごごめん! でも! それでも! 久しぶりに見れてとても嬉しかった。それに凄い綺麗だった」


「……わ…………ろ……」


「何?」


「忘れろおぉぉぉぉぉ!!!」


「はいぃぃぃぃぃ!!!」


 お兄ちゃんは私に怒られるとすぐにまた家を出ていった。それを確認してタオルを巻いてまた部屋をでる。しっかりと誰もいないのを確認して…………なのに。


「やべっ携帯忘れた」


 また殴られにやってきたのです。

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