お兄ちゃんは私の奴隷です
大空 ヒロト
第1.1話
春。それは暖かく過ごしやすい、外を歩いていれば爽やかな風が頬をなでていく。桜の綺麗なピンク色も気分を穏やかにしてくれる。
新しく小学生になったのだろう。お母さん、お父さんと手を繋ぎ黄色い帽子に新品のランドセル、これからおこるであろう楽しいことに思いをはせ笑顔で歩いていく子供達。
そんな中我が家では、とある一角がえらく暗く陰鬱な空気を放っていた。一角と言ってもアパートなのでほぼ四分の一以上を占めるそれはリビングをすぎたところにある小さな鍵付の部屋だ。しっかりと扉は閉められているはずなのに明らかに黒々した物がにじみ出ている。
俺はそんな部屋を眺めながらテーブルに並べた朝食に手を伸ばしていた。今朝は目玉焼きと適当に野菜を突っ込んで味付けをしただけの野菜炒め、それとお味噌汁。決して綺麗とは言えないが数年自炊をしてきたお陰か大分ましになったと思う。
そしてそれら俺が用意した朝食は2人分、俺の向かいに座って食べられるように準備してある。まぁ、そこに座るべき人はそこの部屋の中にいるわけなのだが。
取り敢えず自分の分を食べ終え食器を流しでサッと洗い終え扉の前に座る。そしてゆっくりとノックする。
「おい、朝飯できてるぞ。出てこいよ」
返事はない。現在朝8時、寝てるかとも思ったが少し前に物音が聞こえていたのでそれはないだろう……たぶん。
「おーい、冷めちゃうぞー」
それでもやっぱり返事はない。少し心配になってきたので少し強めにノックする。
「おーい! でてこーい!」
すると中から扉に近寄ってくる足音が聞こえてきた。おぉ、やっとでてくるかそう思ったのだが。
「うるさいっ! バカ兄!」
出てきたのは近所迷惑になるほど大きな声と俺の三倍くらいの強さで叩かれたノックだった。
扉……いつか壊れそうだなぁ。
「ごはん、冷めるぞ」
静かになった扉に向かってまた言葉をかける。今度はさっきと変わって数秒の間の後に返答があった。
「扉の前に置いておいて」
まだ先程の興奮が冷めていないのか少し声が震えている。俺は特に何も言わず言われた通りお盆に朝食をのせて扉の前に置いた。
「なぁ、今日も出てこないのか?」
その答えはもう三年も前から返ってこない。
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