第11話約束

能力の存在を知ってから数日、今日は椿と約束した土曜日だ。

何を要求されんだろうか、恐ろしい、考えただけでも恐ろしいぜ。


「神威起きよ。もう朝じゃぞ」


ベッドで寝ているオレを揺さぶって起こしてくる椿、はい、もう起きてます。現実逃避したいだけです。


オレはそのまま寝たフリを続けようとするが、椿はめげずに何度も身体を揺さぶってくる。


「…添い寝してもバレんかの?」


「おっはよう!今日もいい朝だね椿くん!!」


ヤバイと思ったオレは勢いよくベッドから飛び起きる。

添い寝は嬉し恥ずかしご褒美だが、もしまた変なところで沙耶にでも見られたらオレの懐事情がピンチに陥ってしまう。

ただでさえこないだの押し倒した風の一件でお財布事情が寂しいのだ。これ以上下げられる訳にはいかない。


「ふむ、やはり起きておったか」


「カマかけられた!!?」


いつの間に、そんな悪知恵が働くようになったんだこの子は、僕心配。


「ホレ、早く用意せぬか、今日は約束の土曜日じゃぞ」


「…ういっす、頑張れ、オレのお財布」


「なんの心配をしとるんじゃ」


お財布の心配でしょうよ。今日でいくら飛んでしまうのやら。


そしてオレ達は朝食を食べて、出かける準備をしていると、おふくろから声がかかる。


「アンタ達今日デートなんでしょ?」


ドンガラガシャーン!!


いきなり言われたおふくろの言葉に驚き、オレはすっ転んでしまった。

何故それをお袋が知ってる…


「何してんのよ」


「な…なんでおふくろがその事を?」


「椿ちゃんから聞いたんだけど」


ワーオ情報はやーい。


オレが立ち上がり服を払っていると、おふくろが財布を取りだし諭吉さんを3枚手渡してきた。


「はい、あまり椿ちゃんの前でかっこ悪い姿見せないように、最低でもこれだけ持っておきなさい」


「お母様!!!」


オレがおふくろを抱きしめようと飛びかかると、お袋はヒョイと華麗にかわしてきた。


「気色悪いからやめなさい」


酷くない?これでもあなたの息子ですよ?


「あ、お釣りは返してよ?」


「お母様くそばばあ


「何か言った?」


「だいしゅきお母しゃま!!!」


「現金な息子だこと」


あなたの息子ですから。

そう頭の中で思っていると、玄関から椿の声が聞こえてきた。


「何をしておるか、早う行くぞ神威」


「ういっ」


「いってらっしゃーい」


オレ達はようやく、2人一緒に扉を出た。


「さて、今日はどこに行かれるので?椿さんよ」


「ん?ここじゃ」


椿が見せてきたチラシ、そこには、とある遊園地の写真が


「ちょっと待て、これ電車で2時間もかかるじゃねぇか!!!」


「じゃが行きたいのじゃ」


うちの姫さんは、随分とワガママなようだ。

誰に似たんだまったく。


オレは椿を説得することを諦めて、仕方なく電車で2時間の遊園地に向かう。


「乗りたい物、やりたいことは沢山あるのじゃ、今日一日では終わらんほどにな」


マジすか…何に付き合わされるんだろう…絶叫系かな、ホラー系かな、スプラッシュマ●ンテンかな、それとも荷物持ちかな、もしくはぜんぶ片っ端から回りながらの荷物持ちとか…


オレ達が遊園地に着くと、椿がふと、オレに向かって視線を向けてきた。


「?どうした?」


「いや、神威よ。お主はどれから周りたい?」


は?オレが決めるの?


「お前が行きたい所に行くんじゃないのか?」


「今の妾の行きたい所は、神威の行きたい所じゃ」


何か…随分しおらしくなったな。何かあったのか?


「まぁいいか、じゃあココ」


「うむ、ではそこからまわろうぞ」


オレ達は遊園地中を周りまくってとことん遊び尽くした。

シューティングアトラクションや観覧車、椿の周りたい所にも行こうと言ってフリーフォール、お化け屋敷、ジェットコースターにコーヒーカップ、言わなきゃよかった…


散々遊び尽くして、気がつけば日が落ち始めていた。


「楽しかったのぉ」


「うぷっ…そうですか…そりゃよかった」


絶叫系で完全に酔ったオレは、フラフラとベンチに座る。


「情けないぞ神威」


「うえっ…きぼちわるぅ」


「しょーがないのぉ」


椿がオレの隣に座ると、ポンポンと自分の膝を叩く。


「ホレ、ここに頭を乗せよ」


恥ずかしいけどありがたい。オレはゆっくりと椿の膝に頭を置いた。


「…のう、神威よ」


「ん?」


「妾は今日ずっと考えておった。妾はやはり神威が好きじゃ」


…正直、今のオレがどんな顔をしてるのか確認しずらい。ものすごく顔が火照っているのだけは確かだが。


「妾は神威との関係を変えたい。ご主人様と刀じゃなく、1人の男子おのこ女子おなごとして、じゃが、今の刀のままの妾ではそれは叶わぬ」


恥ずかしそうに、そして、悲しそうに椿は囁き続けた。

確かに、今のままではどこまで行っても刀と使い手としての関係だろうな。


「じゃから、妾はこの闘いで勝ち残ったら…人間になりたい…1人の人間に」


「……」


「そして、もう一度お主に告白する。もし、その時にお主の気持ちが、まだ少しでも妾を見てくれておったら。妾と…恋人になってくれぬか?」


オレはしばらく椿の話しを聞いていたが、椿がここまで言ったんだ。なら最後まで勝ち残ろう。ういはも一緒に3人で


「負けられねぇ、理由が出来ちまったな」


オレはムクリと起き上がって、真剣な顔で椿を見つめた。


「神威…」


「約束してやる。お前は必ず人間にしてやる。だから、絶対にオレから離れるなよ」


オレは、小指を出して椿に差し出した。


「約束だ」


そして、椿の目からは涙が出ていた。

これはオレでもわかる。嬉し泣きだ。


「グスッ、あぁ、約束じゃ」


そしてオレと椿は、ゆっくりと指切りをした。


絶対に、こいつの夢を叶えてやる。そして、オレは…


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