第4話 柴犬……なんだよね?

『うは、これはこれはw』

『従魔LV1でこれは規格外』

『これ絶対柴犬じゃないよ!』

『芝犬だったりして』

『ゆ~かちゃんが引きずられるわけだ』

『むしろ秋田犬』

『もしかして、レアモンスター?』

『何故アプリの種族にクエスチョンマークが……』

『ゆ~かたん、同接見て!』


 気がつくと、同時接続が500を越えていた。これは私にとっては新記録なんだけど、完全にヤマトのおかげだよね……。


「みなさん、楽しそうですね……」


 言うことを聞かない柴犬を抱えて死んだ目でスマホに向かって疲れ切った声で呟くと、スパチャが凄い勢いで入ってきた。


「んもー! スパチャありがとう! でも完全に楽しんでるでしょ! 他人事だと思ってー!」

『他人事最高ww』

『他人事最高ww』

『他人事最高ww』

『他人事最高ww』

『むしろ配信に他人事以外何があるとwww』


 ぐぬう……。とりあえず貰ったスパチャで頑丈な首輪とリードを買おう。……ヤマトに引きちぎられないものがあるかは謎だけど。


「貰ったスパチャで頑丈な首輪とリード買おうと思うから、お勧めあったら教えてください。あっ、ヤマト!」


 私が気を抜いた一瞬を突いて、ヤマトが私を振り切って駆け出す。

 向かった先には雑魚の定番ゴブリン。この第2層は弱いモンスターがソロでいるだけで、私でも倒せるくらいだからほとんど危険は無いんだけど……。


「ヤマト、待ってー!」


 ヤマトを追って私が走る。走る。走る。間に合わずにゴブリンがワンパンでヤマトにやられている。

 追いつくかと思ったときには別の場所でゴブリンがリスポーンしてヤマトがそっちに走る……。


 その後はヤマトが満足するまで彼の狩りに付き合わされた。実に3時間。

 一番敵が弱い第2層での非効率的な狩りにも関わらず、結局ヤマトのレベルは2になり、私のレベルは4まで上がった。


 魔石はヤマトがボリボリとスナック感覚で平らげ、私はゴブリンのドロップ品を両手に抱えている。ゴブリンの棍棒とか、ゴブリンの腰巻きとか、そういう微妙すぎるアイテムね。

 ちなみにスライムは魔石以外はドロップしないらしい。


『テイマーがレベル上がりやすいってそういう事だったのか』

『いや、それは伝説のドラゴンテイマーとかの話じゃないのか?』

『欲しいものリストも貼っとけ……ドッグフードくらい送ってやるよ』

『しかし、ゆ~かちゃんよくこれだけ走り回れるな。恐ろしいスタミナ』

『若いっていいねえ』


 最後の方はぜーはー言ってたり転んだりしてる私への同情的なコメントばかりが流れていった。


「ヤマトが……満足したっぽいので、はぁはぁ……今日の配信は……ここまでにします……はぁ。見てくれた人ー、コメくれた人ー、スパチャくれた人ー、みんなありがとう! もし良かったらチャンネル登録、高評価よろしくお願いしまーす!」


『なんだかんだ言ってゆ~かちゃん、素直でいい子だなあ』

『禿同』

『あんなに走り回った後で笑顔出せるのが凄いぜ』

『でもテイマーとしては要修行だな』

『禿同』

『禿同』



 そして、言うことを聞かない柴犬を追って走り回る私の動画は、後で知ることになったけど50万再生というとんでもないバズりをしたのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る