【柴犬?】の無双から始まる、冒険者科女子高生の日常はかなりおかしいらしい。
加藤伊織
柴犬? ヤマトとの出会いの巻
第1話 テイマー志望の女子高生、柴犬と出会う
世界中に突如「ダンジョン」が現れてから17年。
今まで神話や伝説、もしくは小説や漫画、そしてゲームの中にしかなかった「モンスターが現れるダンジョン」がいつの間にか身近な物になってしまった。
ダンジョンのモンスターの多くは一般人では太刀打ち出来ないが、ダンジョンの外に出てくることはないし、魔物を倒して得られるドロップ品は世界のエネルギー情勢や資源状況を一変させた。
レアメタルはもはやレアではなく、未知の物質が溢れていろんな技術が一気に進み、世界は未曾有の好景気に沸いた――。
……なんてことは、親世代から聞いた話。
私は物心ついたときからダンジョンが既にあって、ドロップ品やそれを使った製品が身の回りに溢れていたのがもうデフォルトだったから、その前どうだったかは記録映像とかでしか知らない。
私はダンジョンアタック配信を見て育った、いわゆるダンジョンチルドレン第一世代ってやつだ。
私――
専攻が分かれるのは来年だけど、テイマー専攻を目指している。理由は、動物が好きだから。テイマーになると魔物を従魔にして使役出来る以外にも、一般の動物もうんと言うことを聞きやすくなる。
どっちかというと、冒険者になりたいと言うよりそっちが目当てかな。私の夢は動物園の飼育員だ。
そして今、友達とやってきたダンジョンの第2階層で、飼い主とはぐれたっぽい柴犬と何故か向かい合っている。
一緒にダンジョンに来た友人たちは入った早々に犬に惹かれて立ち止まった私を置いて先に進んでしまった。彼女たちの今日の目標は第4階層らしい。
どうしようか、犬の飼い主を探すのには警察に届けるのも必要だけど、SNSとかでの拡散力も必要だ。
私は
チャンネル登録者は高校生になって伸びて20人くらい。JKダン活というのがかろうじて視聴者を繋いでくれているけど、悲しいことに底辺配信者である。
それでも小学生の頃なんか3人とかだったから、今はちょっとましだね。
「えーと、突然だけど『ゆ~かのダンジョン配信』はっじまっるよー。
今日はいつものサザンビーチダンジョンに来てるんだけど……見て、柴犬! 首輪を付けて無くて迷子っぽいから、保護して飼い主のところへ届けたいと思います。犬を探してる人を知ってたら是非コメントお願いします! あと、迷子犬の情報拡散とかもよろしく!」
空中浮遊型自動追尾撮影付きスマホのカメラに向かって手を振ってから、スマホと連動したスマートウォッチでカメラを操作して柴犬を映す。
タグに#柴犬 と付けたせいで、普通の動画を見に来た人がダンジョン配信とは気づかずに見て驚いたりしてる。なお、#JKも忘れずに付けているので、視聴者はすぐ二桁になった。
「柴犬は子犬じゃないですねー。でも成犬までは育ってないから、私の中ではこの状態を
色は良く見る赤柴で、お腹が白くて背中がキツネ色。犬なのにキツネ色とはこれいかに。口の周りは白くて、お口の周りが黒い柴犬も可愛いんだけど、目の前のこの子ももちろん可愛い。そして耳! 小さい三角の耳がふわふわだあ! あー、あの耳をもふもふしたい!」
『配信者の欲望がここまで如実に出た配信があっただろうか。いや、ない』
『ダンジョンになんで犬!?』
『仕込みやろ』
『まさか遺棄された犬じゃなかろうな』
『動物を不幸にする奴は私がコロコロしてやる』
スマートウォッチの方にコメントがざーっと流れてくる。うわあ、いつもはこんなにコメントないのに。やっぱり動物ネタはどこでも鉄板なんだなあ。
そして、私の犬好きオーラがダダ漏れになっているのか、首輪を付けていない柴犬はとてとてと歩き、私の1メートルくらい先で立ち止まった。うかつに捕まえようとして逃げられてはいけないと思って、私はぐっと様子見。
「おいで」
しゃがんで、首を傾げている柴犬に向かって手を差し伸べて呼びかけてみた。柴犬は黒くてつぶらな目で私をじっと見ている。
私は敵意を示さないようにしながらその視線を受け止めて微笑む。あー、可愛い。この「可愛い」を視聴者に伝えるのも私の役目。
「前足の先が白くて、靴下を履いてるみたいで可愛いなあ……。お父さんかお母さんとはぐれちゃったんだね。ほら、おいで。怖くないよ」
一歩一歩にじり寄り、下から手を出して怖くないよという事を示す。柴犬はふんふんと匂いを嗅いでからペロリと私の手を舐め、口を開いてニコッと笑ったように見えた。
「くぅ~! 柴犬の笑顔! 愛くるしさプライスレス!! 今すぐ抱きつきたい! モフってお腹に顔を埋めて犬吸いをしたい! ほら、まるで運命の出会いみたいにビリビリと全身に衝撃が――」
『個体αが柳川柚香をマスターと認定。柳川柚香にジョブ【テイマー】を付与します』
ビリビリと電撃が体を走り抜け、無機質な女性の声が私の頭の中に響き渡った。
_________________
お読みいただきありがとうございます。いいねやコメントなど頂けると私がめちゃくちゃ喜びますので、気が向いたらよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます