第8話 告白の返事
帰宅中。
俺とさな、あい、そしてなぜかついてきた鍵沼……四人で、道を歩いている。
思い返せば、こんな人数で誰かと下校すること、なかったな。
最中は、主に鍵沼が喋りまくり、それにあいがツッコミを入れる形だ。
この二人、いがみあっていたが実は仲がいいのか?
「それにしても、真尾ー」
「なんだ肩を組むなうっとうしい」
鍵沼は、俺の肩に手を回してくる。
振り払ってやろうかこの野郎。
鍵沼は、俺の耳元へと口を寄せる。
「気を付けろよー、如月さんは人気が高いからな」
「……まだ入学したばかりなのにそんなことがわかるのか?」
「わかるさ、見ろあの美貌を。中学ん時あんな子いたか? 学校外でも有名だしな。
絶対数日のうちに告白されるぞ。現に、お前は入学前に告白したじゃないか」
「む……」
さなが美人ゆえにモテるだろうというのは、わかる。
鍵沼の言う通り、中学どころか魔王時代の前世含め、俺の胸をこうも高鳴らせた女はいなかった。
それほどの人物なら、告白が殺到しても仕方ない。
が。
「さな……」
「ちょーいちょいちょい!」
「?」
俺がさなの名前を呼ぼうとしたところへ……鍵沼が、俺の口を塞ぐ。
なにをするんだ、こいつは。
「あの、なにか……」
「いやいや、なんでもない!」
名前を呼ばれたと感じたさなは振り向くが、なんでもないと鍵沼が誤魔化してしまう。
ホントなにしてくれるんだこいつは。
「……なんのつもりだ?」
ようやく口を解放され、俺は問う。
「真尾さ、さっき如月さんになんて言おうとしてた?」
「なんて、だと? もちろん、俺以外の男に告白されても、受け入れるなと……」
「はい、アウトー」
やっぱり……と、顔が物語っている。
鍵沼め、俺が言おうとしたことを予測していたのか?
だとしても、なぜ俺の言葉を遮る必要がある。
魔王であった俺の言葉を遮るなど、あの頃なら惨殺だぞ。
「なにがアウトだと?」
「その理由に気がついてないところも含めて、かな
いいか真尾。真尾が今言おうとしたこと、如月さんには絶対言うな。絶対だぞ」
「……ふりか?」
「なんでそこだけノリがいいんだ!」
鍵沼は、こほんと咳ばらいを一つ。
「いいか、告白を受けるか断るかなんて、本人にとっては重大イベントだ。
なのに、他の男から俺以外の告白は受けるななんて……そんなの、とんでもねえことだ」
「そんなにか?」
「そうだよ! なにが悲しくて今日会ったばかりの、いきなり告白してくる変質者の言葉に従わなきゃならないんだ」
こいつ、相変わらず失礼な奴だな。
とはいえ……鍵沼は、人を見る目に関しては、感心するところがある。
人間の感情に疎い俺にとって、必要なアドバイスをしてくれたことも、一度や二度ではない。
「逆に考えてみろ。お前が如月さんに、私以外の告白は断れって言われたら」
「もちろん断る。そもそもさなの告白以外など興味がない」
「……今のは俺が悪かったよ。
お前、女関係になると拍車をかけてめんどくさくなるんだな」
「……それは、日ごろから俺のことをめんどくさいと、思っているということか?」
「……」
こいつ、あからさまに目をそらして黙りやがったな。
まあ、俺もこいつのことはめんどくさいと思っているから、おあいこか。
しかし……今朝の告白の件といい、自分の気持ちを素直に伝えられないというのは……
やはり人間というものは、面白いがめんどうだ。
「まあ、とりあえずはその、さなは俺のものスタイルをやめろ。
それじゃ、如月さんだってお前にどんな反応していいか困るだろ」
「……そんなものか」
「急ぎ過ぎなんだよ、お前は。
もうちっと肩の力抜けって」
人との距離……それも、誰かを好きになったことなどないから、いまいちどうすればいいのかわからない。
魔王だったころは、何人と側室もいたし、女の扱いには自信がある……つもりだったが。
たった一人の少女に、これほど……
「なに話してたのよ、男同士で」
「男同士の話だから、お前には関係ねえよ」
……あいと鍵沼のように、気安く話せる関係……が、理想的なのか。
二人は幼馴染というし、真似をしようにも一朝一夕でできるものでもない。
先ほどから、おそらく俺に振り向き、チラチラと見ては顔をそらす……
さなの、そのような挙動が続いたままでは、今後の関係にも支障をきたす。
「さな」
「は、はい!?」
今度こそ彼女の名前を呼ぶ。
さなは、わかりやすく肩を跳ねさせた。
肩の力を抜け、か……
鍵沼のアドバイスに習うのは癪だが、確かに俺は少々急ぎ過ぎていたのかもしれないな。
「今朝のことだが……いきなりで、すまなかったな」
「え……」
まさか俺が、今朝のことを謝ると思っていなかったのだろう。
さなは目を、丸くしている。
あいも鍵沼も、なにも言わずに成り行きを見守っている。
「さなへの気持ちに偽りはないが、少々事を急ぎ過ぎたようだ」
「……」
「その、なんと言えばいいか……焦って答えを出さなくても、いい」
「……は、はい」
こんなもの、だろうか?
鍵沼を見ると、何度もうなずいている。とりあえずは、こういう言葉でよかった、か。
さなは顔を赤く染めながらも、少し、安心したような、表情を浮かべていた。
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