第80話 流行の発信源
食事が終わりやっと部屋に戻れるかと思いきや、男女別々のサロンにわかれて雑談をするのだという。
「ケイはこちらに! 一緒に行きましょう」
パトリシア様にそう言われ、ほぼ強制的に連れられて女性が集まる部屋へと向う。
「あの私はこちらで良かったのでしょうか?」
「構わないわ! みんなもあなたと話がしたいと思っているはずよ」
いや、男のオレが行ってもいいか聞いたんだけど……。
「あの……性別を他言してはいけない事と何か関係が……?」
「その事については部屋に着いてから話しましょう」
やはり聞かれてはマズいらしく、他の女性たちとは別の部屋に案内される事になった。
♦ ♦ ♦ ♦
他の人たちをサロンで待たせ、二人きりで執務室のような部屋で話しを聞く事となる――正確には使用人もいるが――そこでパトリシア様は先ほどの話の理由を話してくれた。
「あなたには女性たちの地位を高める活動に協力して欲しいと思っているの! 女性は子供を産む道具ぐらいにしか思われていないし、裕福な家以外は読み書きの勉強すらさせてもらえない……。女性は男性よりも決して劣ってはいないし、女性にも学ぶ機会を与えてあげたいと私は考えているの! 力のある女性がいればそれに説得力が増すわ! それにあなたは色々面白い話を持ってそうだし、男性陣だけに独占させておくのは面白くないじゃない」
学ぶ機会を与えたいというのは、まさにオレも考えていた事だったが、その対象が女性だけというのが少し気になる。お金持ちや貴族の女性の地位が向上すれば、一般市民にもその考えが波及していくものなのだろうか?
「なるほど、それで女性のふりをしろと……でも男性だとバレたら私は罪に問われるのではないですか?」
「女性のふりをして欲しいなど一言も言っていません。あなたは女性の地位向上に協力して、その時に自分の性別を明かさないというだけです。相手が勝手に勘違いして女性だと判断したら、それもあなたの罪になるというの?」
ん~っ! 相手が貴族ならそれすら罪になるんじゃないの? 冤罪はお得意でしょうから……パトリシア様はオレが自分から女性だと公言しなければ、嘘は言っていないので問題ないと言いたいのだろう。最悪は変身魔法で女性になれば何とでもなるが、パトリシア様が信用できるかは正直まだ分からなし、安請け合いはしない方が得策だろう。そう思いすぐには答えを出せない事を伝えると、次の活動に見学を兼ねて同行する事で話がついた。
「それではサロンに移動しましょう! 何か面白い話を聞かせてくれるかしら?」
「面白い話ですか? ん~っ、面白いかは分かりませんが、お話したい事はありますね」
「それは楽しみね」
オレたちは執務室を出て女性陣が待つサロンへと向かった。
♦ ♦ ♦ ♦
「皆さん、お待たせしました。先ほど紹介したケイも参加しますので仲良くしてやって下さい」
「もちろんですわ」「ようこそ」「色々お話をお聞きしたいですわ」
パトリシア様に続き部屋に入ると、次々に女性たちに囲まれ励まされる。どうやらこの食後のお茶会には貴族か、貴族の身内を持つ使用人の女性が参加しているようだ。さすがに全員の名前は憶えきれなかったものの、関りを持ちそうなメイド長のカミラさんと、家庭教師のグレースさんとアイラさんだけはどうにかおぼえる事が出来た。
「ケイ、それでは先程の話をきかせてくれるかしら」
「はい、私が商人をしているのは話したと思うのですが、実は衣類関係や装飾品にも力を入れています。当然ですがそれらをこの国でも流行させたいと考えています。是非ともパトリシア様には我が商会のドレスや装飾品を身に付けていただいて、流行を生み出す流行の発信源になって欲しいのです」
「まあ、素敵!」「パトリシア様、素晴らしいお話ですわ」「是非とも見てみたいわ」
女性陣からも声が上がる。
「私が流行を生み出す……」
「そうです! 流行の発信源です。もちろんドレスや装飾品は贈らせていただきますし、気に入らなかったら身に着けていただかなくて結構です」
「それで流行すれば宣伝する手間も省けて、多くの貴族との繋がりも出来る訳だしケイも得するという事ね」
この人、意外と頭がいいかも……。でも本当の目的はそんな事ではない。
「はい、私も商人ですので利益を考えなくてはなりませんので……ですがパトリシア様が得る物も多いかと存じます」
「なるほど、気に入ったわ!」
パトリシア様は全面的に協力してくれるようで、メイド長にも協力するように使用人に伝えるようにと話していた。
「あと一つ、衣類関係で提案があるのですがよろしいですか? こちらはメイド長にも聞いていただきたいです」
こちらが今回の本来の目的である。
「何かしら?」
「使用人の方々の衣類を揃える提案をしたいと思います」
オレはメイド服について熱く語った。
♦ ♦ ♦ ♦
お茶会も終わりケイも部屋に戻って行った。その際に側につける使用人は全て拒否されてしまった。貴族としてはあり得ない話だが、ケイが貴族を名乗らない理由がそこにはあるのかもしれない。
「パトリシア様、本当にケイ様は面白い方でしたね」
確かに息子と同い年には見えないような様々な話や提案を聞き、久しぶりに本当に面白いと感じていた。
「では、ケイについて皆が感じた事を正直に聞かせてくれる? まずはカミラはどう思ったかしら?」
「はい、メイドの服を揃える利点については頷かされる話ばかりで、パトリシア様が制服の提案を受け入れたのは正しい判断だったと思います。あの萌えという話だけは私には少し分かりませんでしたが……」
「私は要するに萌えというのは好意を持つ感じだと理解したのだけれど……」
「ケイ様の国の言葉なのでしょうね。二ホンでしたか?」
「そうね、制服の利点についてもその二ホンで学んだということかしら……確かに同じ服を着ていると仲間意識は強くなる気がするわね。でも、どこにいても男爵家の使用人とわかり、誇りと責任感を持ち行動するようになるというのも素晴らしかったわ」
他にも例をいくつも出して説明をしてくれていたが、制服は雇い主と使用人に両方にメリットのある素晴らしい提案だった。
「教育についてケイと話をしていた二人は、どう思ったかしら?」
最初に話し始めたのは、読み書きと算術を娘たちに教えているアイラだった。
「ケイ様は子供の頃に読み書きと算術以外にも、様々な分野の教育を受けたそうです。その経験が今のケイ様の基礎になっているのではないでしょうか?」
頷き、今度は音楽とダンスなどを教えているグレースに顔を向ける。
「ケイ様の国ではダンスは余り一般的ではなかったようです。ですが音楽と絵や彫刻などの芸術もすべての国民が一度は習うそうです……それと男女平等という考えが浸透しつつあるそうです」
「何ですって……」
だからケイは女性の地位向上の話をしても、それほど驚かなかったのかもしれない。現に自分の国では成し遂げているのだから……。
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