第78話 おともだち
人族の使用人のメスは、何の躊躇もなくケイ様の残したお茶を飲み干し、さらにはあたちの夕食にまで手を付けようとしたのです。それを咎めるとその使用人は『何するのよ! 片付けられないでしょ』っと開き直ってきたのです。絶対食べる気だったのです。さすがのあたちもカッとなって、はしたなくも大きな声で注意してしまったのです。ケイ様と同じ種族にはまったく見えないのです。プンプンなのです。
「夢でぐらい美味しいものを食べてもいいわよね」
大人しくなったかと思ったら、急にそう言ってまたあたちの干し肉に襲い掛かって来たのです。その手をあたちがさっきと同じようにピシっと叩くと、驚いたことにその使用人は泣き出したのです。
「いつも硬いパンと野菜クズのスープなんだから、夢でぐらい食べてもいいじゃない」
この人族は何を言っているのです?
「夢なのです?」
「そうよ! ネコが喋るんだからこれは夢じゃない! 食べさせてくれないなら早く目を覚まさせてよ」
泣きながらそう訴えてくる使用人を見ながら、あたちは気付いてしまったのです。あたちが喋っていた事に……。マズいのです。ケイ様に知られたら約束を守れない子だと思われてしまうのです。
「……叩かれた手が痛い……痛みを感じるってことは……」
マズいのです。みんなに言いふらされると、ケイ様に迷惑がかかってしまうのです。
「まさかこれは夢じゃない! という事は……」
とうとうこの使用人は、あたちが喋れることに気付いてしまったのです。何か誤魔化す手を考えないと本当にマズいのです。でも、眠りの魔法は使えないのです……。
「神様が私にネコの言葉が分かる力を授けてくれたのかしら……」
予想外の言葉に思いっ切りズッコケてしまったのです。と、とりあえず、あたちが喋っていないと思っているなら何でもいいのです……。でも、これだと本物のネコとしゃべったらばれてしまうのです。
『ち、違うのです! あたちが直接あなたの頭の中に話しかけたのです』
念話を使い使用人に話しかける。念話は直接喋ってないからケイ様も許してくれるのです。
「えっ! きゅ、急に頭の中で声が……」
『さ、最初から頭の中に話しかけていたのです。あたちは人族の言葉なんて喋れないのです。絶対に……』
「私の力じゃなかったのね……」
『あたちの力なのです。あたちの干し肉を食べようとしたから注意したのです。だから干し肉と果実水は片付けなくていいのです』
それを聞いて何かに気付いた彼女は、震えて泣きながら懇願してきたのです。
「という事はこの部屋で見た事を、誰かに伝える事が出来るってことよね…………干し肉も本当に片付けるなら一切れぐらいって思っただけなの……お客様の物に手を付けようとしたと知られたら、私はクビになってしまうわ! 私には行く所がないの! お願い! 誰にも言わないで……」
『…………駄目なのです。でも、あたちが喋った事……喋ったように見えた事を誰にも言わないと約束するなら、あたちも言わないのです』
「分ったわ! あなたが喋れる事は誰にも言わないわ」
『だから、あたちは喋っていないのです……』
「そ、そうね……喋っていない事も誰にも言わないわ」
「喋っていない事は……? もう何を言っているか意味がわからないのです。とにかくこの部屋であった出来事は二人だけの秘密なのです」
「分った! 約束する! 二人だけの秘密ね」
『何がおかしいのです?』
「二人だけの秘密って友達みたいだなって思って……。私、お友達がいないから……初めての二人だけの秘密の相手がネコだと思ったら、おかしくて……」
『あたちはネコじゃないのです。誇り高き妖精族のケット・シーなのです。あっ! …………こ、これも秘密なのです』
また、やってしまったのです……。
「わかった! 絶対に二人だけの秘密にするね。 あの……あのね、もしよかったらなんだけど……私とお友達になってもらえないかな? あっ! 嫌だったらいいんだけどね! こ、断られても平気だし……うん!」
『あたちと……? べ、べ、別にいいのです』
「えっ! いいの? 本当にありがとう!」
『で、でもお友達とは何をするものなのです? あたちはケイ様しかお友達がいないので、良く分からないのです』
「私もあなたが初めてだから分かんない……。多分、一緒にお喋りしたり遊んだりするんだと思う」
『遊んだり……』
「今度、一緒に働いてる人に聞いておくね」
『じゃあ、あたちもケイ様に聞いておくのです』
「うん……ケイ様はお友達なの?」
『あい、お友達で仲間で命の恩人なのです』
「そうなんだ! あっ! そうだ! 私の名前はロージー! あなたの名前は?」
『あたちはニャンニャンなのです』
「ニャンニャンね! 憶えた! 可愛い名前だね」
『ケイ様がつけてくれたのです。あたちも憶えたのです。ロージーなのです。ロージーも可愛い名前なのです』
二人で見つめ合って笑い合っていると、ロージーのお腹がなったのです。一生懸命にお腹を押えて気づかれないようにしてるけど、耳が良いあたちには聞こえるのです。
『一緒に食べるのです』
「えっ? いいの?」
『お友達だからいいのです』
「ありがとう」
二人で干し肉と果実水を分け合って、お話をしながら楽しく食事をしたのです。一緒にいるだけでこんなに楽しいなんて、お友達というの素晴らしいものなのです。
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