第31話 嫉妬?

 なんてことを考えながら、二人が出したQRコードにスマホをかざそうとした時だった。

 まだ集合時間15分前なのにも関わらず、目的の女子――夢咲日彩が俺の腕を掴み、かざそうとしたスマホを奪い取った。


「なにしてるの?」

「なにって、連絡先の交換?」

「絶対ダメ」

「なーんでよ」

「なんでって言われたら……何とも言えないけど、とにかくダメ」


 日彩の雰囲気はいつもよりも警戒しており、怒っている?ような、威嚇?しているような雰囲気を醸し出していた。

 俺も女性たちもいきなりのことで固まっていたのだが、女性二人はある程度察しがついたのか、出していたQRコードを閉じてしまった。


「えー彼女いるじゃんー」

「もしかして、私たちで浮気しようとしてたのー?」

「え、ちょ――」


 どことなくわざとらしく言ってくる女子大学生二人は、俺の言葉を聞く間もなくささっと後ずさりして、逃げるように他の男の方へと行ってしまった。


 あーあ。せっかく彼女になりそうな人と話してたのに。

 せめて連絡先さえ交換してれば、ワンチャンあったか?

 でも実際は交換できてないしな……。俺の初めての逆ナンがこんな形で終わってしまうとは……。


 未だに俺の腕をつかみ……というか、腕に抱き着いている日彩を見下ろし、何の真似だと問いかける――ことなんてできなかった。

 だって、もうとっくに俺の方を見上げていて、すっごい睨みつけてきているのだから。

 これ、俺が悪いのか?


「……なんであんなことしてたの?」

「なんでと言われたら……逆ナンされたから?」

「逆ナンされたら、連絡先交換するの?」

「まぁ今はフリーだし?」

「フリーだけどさ、この後私と遊ぶ約束してるのに、私よりも前に他の女子と話してたら、嫌じゃん」

「嫌なのか……?分からんけど、そう思うんだな?」

「うんそう思ってる。すっごく嫌」


 なんというか……嫉妬?って感じがするな……。

 俺が中学の頃に感じていた感情と似ている気がする。けど、こいつが嫉妬?誰に?俺に?

 いやそれはないだろ。

 じゃあ、この嫉妬はなんだ?


 俺の中で矛盾が発生して、疑問が増え続ける。

 頬を膨らませて、今にも噛みつきそうな犬のように怒る日彩。その理由が他の女子。

 ……分からんな。


「えーっと、それならごめん。嫌な思いさせたよな」

「本当に思ってる?」

「思ってるとも。俺の日彩への配慮不足だった。ごめんな」


 でもまぁ、今は気にすることをやめよう。

 今日は日彩への恩返しも込めて誘ったんだ。

 最初から日彩の機嫌が悪かったら元も子もない。

 だけど、今はわからずともいつしか絶対暴くからな?


「……分かってくれるならいいけど。これからはちゃんと気を付けてね?」

「おう、分かった」


 やっぱり、まだ不機嫌さは治ってはいないようで、少しまだ頬を膨らませている。

 けど、それ以上に疑問に思うことがある。

 なぜ――


「なぜずっと腕に抱き着いてんだ?」

「離さないため」

「別に離れないよ?」

「違う意味で」


 ……違う意味で?

 物理的に離れるってことじゃないのか……?

 ますますわからん。この感じ、日彩は俺の腕を離す気はなさそうだし、何なら手までも繋ぎそうになってるし。


「えーっと、日彩さん?手が当たってるよ?」

「……知ってる!なんでそういうを言うのかな!」


 俺が言ったせいでもあるのか、開き直ったようにも見える日彩はがっしりと俺の右手を握ってきた。

 本当に離さないように、というか、離れられないように拘束するように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る