フリーマーケット
1.ヒンメル/広場
さて、いざクエストに挑むことになった私たちだが……。
一覧を眺めていると気になるものを発見した。
「【陽の目】を持ってきて欲しい? このクエストならアイテム一つで済みそうだが」
「うーん、それは難しいかもしれませんね」
しかしミカンさんは難しい顔をする。
どうやらこのアイテムはそう簡単に手に入らない――具体的には高レベルのエリアボスから稀にドロップする物らしい。
「運によるドロップだけならともかく、高レベルモンスターとなると私たちには無理か……」
「一つだけ方法があります。他のプレイヤーから買い取ればいいんです。
ただ、結構お高いと思います……」
「おかねない、です」
私もだ。さっきの食事ですっかり軽くなってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、フィンはいいんだ」
私が言うと、腹ペコスイちゃんはふいと目を逸らした。
とはいえお金が無ければ稼げばいい。そのためには最初の頃そうしたように物を売るのが良いだろう。
何か店でお金に変えられるものがあるといいが。そう思い鞄を漁っていると、用途不明だった謎のアイテムが目に入る。
【カード:スライムモンキー】。初めてのエリアボス戦にて入手したアイテムだ。でも、こんなものが売れるだろうか?
しかし私の予想とは裏腹に、それを見たミカンさんが食いつく。
「そ、それカードじゃないですか!」
「そうだが……そんな驚くような物なのか?」
「各地のエリアボスから小数点以下の確率でドロップすると言われてる、激レアアイテムですよ!
一定の種類を集める事で限定アイテムがもらえるからコレクターに人気で高値が付いていて……!
それをまさかチキンさんが持っているなんてっ」
「おちつくです」
何やら興奮し始めたミカンさんをスイちゃんが宥める。そんなこともあるのか……。
しかしこんなもの集めて何を貰えるのだろう?
「神経衰弱セットがもらえて、どこでも遊べるんですよ!?」
「売るか」
なにを考えてそんなものを実装したのだ。
まあ、高値で売れるなら丁度良い。適当な店に売りに――――「だめですっ!!」大きな声。びっくりした。
「マーケットで売りましょう! 店売りよりずっと高い値段がつきますよ!」
マーケットとはプレイヤー間でアイテムを取引することが出来るシステムだ。なるほど、マニアがいるならそっちの方が高く売れるのか。
カードを売って目的のアイテムを購入するため、私たちは揃ってマーケットに出向く。
2.フリーマーケット
マーケットの入り口を潜るとヒンメルの町の雰囲気とは違う、自然豊かな地域に開かれた市場が広がっていた。
どうやら此処はどこからアクセスしても同じ場所に辿り着くらしい。不思議な感覚だ。
「まずカードを売っちゃいましょう!」
ミカンさんに言われるがまま受付に行き、店員と思わしきNPCにカードを見せる。
「少々お待ちください……」そう言われて数秒後、「結果が出ました」謎の紙切れを渡される。
「どうですか?」
「ええと……最高買取価格は『200万』!?」
規格外の金額に腰が抜けそうになる。こ、このカードにそれだけの価値があったとは……。
「ですから言ったでしょう? これならきっと【陽の目】も買えますよ!」
「すごい……」
すぐにカードを売却して資金を受け取る。
……一気に大金持ちになってしまった。今ならなんでも買える気がする。
「では次に【陽の目】の価格を調べましょうか。えっと……『150万』が最安値ですね」
「は? です」
「え、えぇ……」
スイちゃんは小刻みに震えフィンも怯えていた。無理も無いだろう。
ただ、今の私なら買えない値段ではない。
「あ、あの。ほんとうにいいんですか?」
そう言って手を止めてきたのはフィンだ。間接的ではあるがこれは彼女の薬のため……申し訳ないという気持ちがあるのだろう。しかし最初から心は決まっている。
「もちろん。この程度で君を助けられるなら安いものだ」
「おにいさん……」
「チキンさんはお優しい方です。良かったですね、フィンちゃん」
「はいっ! ありがとうございますっ」
ところで、一緒にフィンの探している『綺麗な花』もここで買えないのだろうか。そう思って彼女に聞くと、
「え、えっと……すっごく特別なお花なのでここにはないと思います」
「そうなのか?」
「【クエスト限定アイテム】なんでしょう。そういった特別なアイテムはプレイヤー間での取引が出来ませんからね」
なるほど。
どうやら【陽の目】は本来別の用途に使うアイテムで、クエスト限定のアイテムではないから購入することが出来たらしい。こういった違いは覚えておこう。
他にも色々見ていきたいがクエストが一段落したあとでも良いだろう。まだ小刻みに震え続けているスイちゃんの手を引いて、私たちはマーケットを後にする。
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