咎人たちと狼の王
【クエスト】NPCというもの
1.スライズ-広場
狩りを続けていく内に分かった事がある。
レベルが上がってくると、元居た狩場のモンスターでは経験値の旨みも少なくなってしまうこと。そして、クエストをクリアする事でも経験値を得られること。
この世界には我々【プレイヤー】の他に【NPC】が存在する。
それは一見同じ人間に見えるが、実際には人工知能を搭載されたロボットのようなものらしい。
彼等はこの世界で生活し自分に与えられた役割をこなし続ける。私が最初に出会った観光ガイドの様な女性もその一人だ。
そんなNPCたちから受けられる依頼がクエストだ。という訳で早速、私はスライズの町でクエストを受ける事にした。
「病気の妹がいるんだ。彼女の為に薬の材料を集めてくれないか?」
聞けば薬の素材には【天使の羽】【煉獄の灰】【ムチスライムのツル】が必要とのことだった。どれも聞いたことが無いアイテムだが、本当に集められるのだろうか……。
そんな風に悩んでいると、木陰から「こほ、こほ」と咳をする音が聞こえた。見ると幼い少女が立っていて、彼女が件の妹だと言う。
「外に出ちゃダメじゃないかフィン」
「ごめんなさい。でも……」
そんな彼女たちの姿を見て私は自分を恥じた。冒険者である私が彼女たちを救わなくて、誰が救うというのか。
プレイヤーとNPC……多くの人は彼等を『人』として見ていないが、私は無視できない。
「待っていてくれ。必ず材料を持って帰ってくる」
そう言って飛び出したはいいが肝心の材料の在処は分からないままだ。
私が途方に暮れていると、ふいに声を掛けられる。
「こん、です。何してるですか」
そんな挨拶と共に現れたのはスイちゃんだ。
「実は……」事情を説明する。スイちゃんはそれを聞いて少し考え込み、しばらくして言った。「心当たりならある、です」
「本当か? ありがとう、スイちゃん!」
「ひまだから手伝う、です。ちょっと待っててください。わたしも受けてくるですから」
そう言って少しして戻って来たスイちゃんとパーティを組んだ。そこからはスイちゃんの指示に従い、スライズを離れ未知のエリアへ踏み込んでいく……。
2.世界樹への道
まず向かったのは材料の一つである【ムチスライムのツル】が手に入るというエリア【世界樹】。
道中に出現するモンスターは見た事ないものばかりだが、二人掛かりという事もありそこまで強くない。
いける! 私は確信した……しかし、突如として他とは違う殺気を放つエリアボス【キングベア】が行く手を阻むように現れた。
だが、ここで諦める私ではない!
「そこを通してもらうぞ!」
「あっ」
珍しく大きなスイちゃんの声――なんて思っている間に私の身体は弾け飛び、視界が暗転する。
……気付くとスライズの町で目を覚ましていた。
「どま、です」
「すまない。手あたり次第に突っ込むのは悪い癖だな……」
深く反省。しかし、あんなモンスターがいては先に進めない……。
悩んでいるとスイちゃんが小さな鈴を取り出した。先ほど露店で買って来たらしい【獣除けの鈴】……使用している間モンスターが自分たちを避けるようになるアイテムだそう。
「ありがとう。恩に着るよ、スイちゃん!」
思わず彼女の手を取って感謝する。
「べ、べつに……はやくいく、です」
私たちは再び町を出て目的地へ向かう。獣除けの鈴の効果で、今度はキングベアの脇を難無く通り抜けることが出来た。
この先何があるか分からない分無駄な戦闘は避けるべき。
そう判断した私たちは今度こそサクサクと道を行き、ついに大きな樹――世界樹と呼ばれる場所に辿り着く。
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