やりなおし?
「……」
ここは……。
コンビニ前、俺が働いているコンビニ。
手に持っているスマホのロック画面には、22:12 5月14日(土)と表示されている。
「は?戻った?現実に?なんだ、やっぱ夢だったのかよ、なんだーがっかりー、って、おじいちゃんに転生って、もうちょっとマシな夢見ようよ俺ぇ」
安心感からか、考えてる事を思わず声に出してしまった。
誰にも聞かれてないよな……。
「リンネくん?」
え?香苗?
「ひさしぶりー何?戻ってきたの?」
デジャブ?嘘、これってまさか……。
「高校以来じゃん、リンネくん変わってないねーすぐ分かったよ」
近い近い、めっちゃ顔を近づけてくる。昔っからグイグイくる奴だったけど、仕事ばかりで女っ気が無くなった今の俺には刺激がぁ、って言ってる場合じゃない。
「か、香苗は、そのなんというか、凄く綺麗になった、よな……」
言えた。今度はちゃんと言えた。けれど、それは二度目だからであって……。
「ほんと? なんか嬉しいな……」
香苗は頬を赤らめて笑った。やったぞ、これは完全に好感度アップだ。
なんて喜んでいる場合じゃない。
「あっもうこんな時間なんだ、ごめんね、急いで帰らなきゃ、またゆっくり話そ」
俺は急いで後ろを振り向く。
無灯火の軽トラが向かってくる。間違いない。
「待って、かなえ」
俺は香苗の腕を強く掴んだ。
「えっリンネくん? どうしたの?」
香苗は振り向くと、驚いた顔で俺をまじまじと見つめている。
「行っちゃダメだっ」
見つめられてドギマギしちゃうけれど、そんなこと言っている場合じゃない、これがデジャブだとしたら香苗の命が危ない、そして俺も死にたくない。
「リンネくん……そんな急に……私はもう婚約して……」
婚約……ってことは、まだ結婚には至っていないと?
というかなんでそんなに顔を赤らめて俺を見つめているんだ?
良い感じの雰囲気が漂う中。
俺達の背後で衝撃音が響いた。
居眠り運転の軽トラが電柱にぶつかり止まったんだ。
良かった、誰も轢かれていない、俺も香苗も助かった。
「大変だ。早く救急車を呼ばなきゃ」
香苗は俺の手を振り解いてスマホを取り出す。
凄いぞ、死ぬのを回避できたんだ。
予知夢? いや、あの転生が本物だった?
でも、異世界で死んだら魂が消滅するって女神が言ってたよな……。
やっぱり夢だったのか?
「リンネくんっ」
香苗が俺の名前を叫んだ。
夢でも何でもいいや、2人とも助かった。俺が止めなければ、かなえも無事では済まなかった事を理解しているに違いない、それ故の俺への感謝の言葉を叫びたいのだろう。
さっき、香苗はまだ婚約中だと言っていた。これは、まだ俺にもチャンスがあるという事‼
「リンネくん、あぶないっ」
香苗の指さす方を見上げると、何か黒い物体が俺に向かって落ちて来ている。
それを軽トラのタイヤだと認識した瞬間、俺の頭に直撃した。
その衝撃で脳が揺れ、体の自由が利かなくなりよろけ、受け身も取れずにその場に倒れて後頭部を強打した。
目の前には、遠心力を失った独楽の様に回っている軽トラのタイヤと、泣きながら何かを叫び、俺の体を揺すっている香苗。
意識が遠退いて行く……。
あれ? 嘘……俺、また死ぬの?
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