第2校時 大切な研修

第1話 ベテランの余裕

 その日の打合せで、教頭から研修案内の告知があった。


「来週の木、金、土曜日で、年に1回行われる『生徒指導関係』の研修会が開かれます。会場は、いつものように東京の○○会館です。希望者は、研修部を通して知らせてください」


 教頭は、特に説明も加えず、淡々と告知だけを済ませた。



早央里さおり先生、何ですかあの研修会……僕も出た方がいいですか?」


「ああ、あの研修会ね……確か生徒指導担当者が主に集まるって聞いたことがあるわ」


「じゃあ、早央里先生は出られたことは無いんですか?」


「ええ、私は今まで生徒指導部になったことは無いのよ……私には向いてないのね……ところで、北野先生は、興味があるの?」


「イヤーよく分からないんです……僕は何を勉強したらいいかが」


 僕は北野大地。先生になって今年で3年目。まだまだ新米教師だ。今は、あらゆるものに興味が湧き、好奇心を持てる時期だと思っている。

 同僚のはやし早央里先生は、そのことをよく理解してくれる。なんて言ったって、僕の初任者指導教官しょにんしゃしどうきょうかんだったんだ。


「じゃあさ、うちの生徒部長の片桐かたぎり先生にでも聞いてみたら?……きっと、彼は今年もこの研修会に参加すると思うから」


「え?あの片桐先生ですか?……僕ちょっと声かけるのやだなあ~」


「北野先生!あなた何言ってんのよ。片桐先生は、うちの生徒指導のエースよ」


「だって、見たからに怖いんですよ。……体格もいいし、声も大きいし、何より今時角刈りなんですよ!」


「あら?そんなこと言ってもいいの?

 ……高学年の女子生徒の約半数は、憧れてるっていう話よ……。

 北野先生がそんなこと言ってたら、逆に先生が女子生徒に嫌われるかもよ、あははははは」


 早央里先生は、冗談交じりで、笑い出したが、早速片桐先生に僕を紹介してくれた。





「やあ、片桐先生、生徒指導の研修の話を聞きたいんだって?サオちゃんから聞いたよ」


「さ、サオちゃん?」


「ああ、すまんすまん。早央里先生とは幼馴染でね。いつものがつい出ちゃうんだよ。あはははは」


 何だか、想像していた様子とは違うと思った。僕は、3年生担任で、6年生担任の片桐先生とはあまり接点がない。

 しかも、相手はベテランで生徒指導部長だから、新米の僕とは分掌の仕事内容も全然違う。



 少し、拍子抜けした僕は、しばし呆然としてしまった。



「なあ、北野先生。君は、この研修会に興味があるのかい?」



「ああ、えーっと、興味というか、今はいろんなことが知りたくて、この研修会もそんな感じです」


 ちょっと、何か考えていた片桐先生だったが、徐に少し声を潜めて


「じゃあ、君に教えてあげるから、夕方5時過ぎに、僕の教室に来てくれないか?ただし、絶対に一人でくること、いいね!」



 最後にニヤッと笑った片桐先生は、妙な迫力を漂わせて、また自分の仕事に戻った。

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