幕間 ハーレムメンバーたちのあれやこれ 上

「むっふふのふーん♪ エメラルドーのーゆーびーわ~♪ 本妻っのーあーかーし~♪」


 ハイ・オークの娘カ・リューは宿のベッドに一人寝転がり、もらったばかりの指輪を眺めていた。

 

 本来は中指用のそれ。

 しかし彼女は左手の薬指にはめている。


 サイズはちょっとあっていないが、そのへんは気合いでなんとかしている。

 大抵のことは気合いでなんとかしているリューである。


「いやーあのヤリ○ン男もたまには殊勝なことしますねえ、殺らなくてよかったです」

 

 リューは人格的にはあれだが、一応は貴族の娘。

 貞操観念は人並み以上に強い。

 処女をあげたモトキに執着している。


 そんなモトキが最近次々セフレを増やしていく――平気なわけがなかった。 


 しかも、今度はキリシャとかいうロリっまでを毒牙にかけようとしているらしい。


「ま、でも……指輪持ってるわたしが本妻なのはわかりきっていますし……ロリっ娘追加くらい許してあげるとしましょう」


 本妻は鷹揚おうようなもの。

 目くじらをたててはいけない


「さーて、お昼寝でもしましょうか。モトキさんも帰ってきませんしねー」


 モトキはこのところ、ロリっ娘のところに通ったり、モンターヴォという男を鍛えたり、ずいぶんと忙しくしている。


「本妻をほったらかしたぁーふてぇ男ですねえ、あとでいじめてやりましょうねえ」


 リューは不貞寝しようと目をつむり――カッと目を見開いた。


 ふと、あることが気になったのだ。


 ――モトキさん、他の女にも指輪あげたりしてないでしょうね?


 まさか、さすがにそんなことはない、はず。


 指輪をもらったのは、本妻の自分だけのはず。そのはずだが――モトキを信じたかったが、あの希代きだいのクズ男ならやりかねない。


「…………っ!」


 リューは宿を飛び出した。


**


 リューが向かったのは魔導書グリモア屋であった。


 そこの一人娘はモトキのセフレ。

 にっくきセカンド。

 

「さて……」


 リューは扉を開き、客を装って魔導書グリモア屋の店内へと入った。


「い……いらっしゃいませ」


 店番をしていたのは爆乳娘、ルビィ。


 向こうはリューのことを知らないので、特に変わった反応を示さない。


 ルビィは巨大なおっぱいをカウンターに乗せ、紙になにやら文字を書き付けていた。

 おそらく新作の小説である。


 うわ、超読みてえ、とリューは思う。

 リューはルビィの小説のファンなのだ。


 しかしそれはともかく、今は指輪の有無の確認である。

 

 リューはルビィの手元に目を凝らす。


「…………いよしっ!」

 小さくガッツポーズするリュー。


 ルビィは指輪をしていなかった。

 つまり、ルビィには勝った。


 勝ったのだから、さっさと店を後にすればよかったのだが――。


 ――すっげえ自慢してえ


 ルビィは指輪してないのに自分はしてる。むくむくとわき上がる優越感。

 

 自慢したい、悔しがらせたい。

 その欲求にあらがうことができない。


 リューはちらちらと左手をルビィに見せつけながら言う。


「いやー、モトキさんからもらった指輪重いわー愛の重さだわー。100キロはあるわー指折れるわー。困るわーほんと困るわー。愛がつれーわー」


「モトキ、くん……? モトキくんって言いました?」

 ルビィの手からポロリとペンが落ちる。

「……絶対ミリアちゃんだけじゃないと思ってたけど、ああ、あなたもモトキくんとエッチしてるんですね」

 

「おや、ではあなたもモトキさんと? こりゃ偶然ですねえ、同じ男とエッチした女が出会うとか奇跡ですねえ。ちなみにモトキさんの童貞もらったのはわたしなんですよね、ああ、別にだからどうってこともないですけどね? 指輪も持ってますけどね?」 


「指輪もらったからって……。――わたしのおっぱい……モトキくんのキスマーク常に30個はついてるもん……あなたのおっぱいにはそんなスペースないだろうけど……」


 ルビィはいそいそボタンをはずし、胸元を露出した。

 そこには、ハンコのようなマークが無数につけられている。


「モトキくん……おっぱい大好きだから、あなたのじゃ満足できなそう……」


「ぐっ……。いやでもね、おっぱい勝負に持ち込もうったってそうはいきませんよ。ええ、わたしにはおっぱいはありません。それは認めます。でもね、わたしにはほら、指輪ありますし?」


「わたしもアクセサリーなら前にもらったもん……」


「ほーう……アクセサリーを。それはそれは。でもね、指輪に比べたらアクセサリーとか雑魚敵もいいところですから。スライム的な? ――つーかこれまどろっこしいですね。そろそろ決着をつけましょうか」


「そうだね……口喧嘩じゃらちがあかないよね……」

 ざわっ……とルビィの小柄な体に魔力が充ちる。


 リューはルビィから少し距離をとり、戦略を練った。


(……大丈夫、問題はありません。ルビィさんは攻撃魔法の発動に魔法陣を必要とするはず。そんな暇は与えません。一気に距離をつめれば勝てます……!)


「はっはー! のろまな魔法使いふぜいがこの大盗賊リューちゃんに攻撃を当てられるわけ――ってぇ!?」


 ルビィの手のひらには炎が生じていた。

 魔法陣抜きでのエレメンタル精製。


 リューへの嫉妬から、ルビィはこの数秒で急速な成長を遂げていたのだ。


 炎は幾多の火球となって、リューへと迫る。


「待って下さい……話せばわかっ……――――」


 リューは燃えた。


**


「帰ったぞー……え、どうしたのお前? なんか焼けてない……?」


「お帰りなさいモトキさん! いやあ、実は今日UVカットを忘れまして、お肌にダメージ喰らっちゃいましたよ。乙女として恥ずかしいです!」


「いやそのやけてるじゃなくて、もっと物理的に焼けてない? 太陽光はそんな凶悪じゃないよ? なんで焦げてるの?」


「言い忘れてましたけどわたし週2で焦げるんです」


「あっそう。自然発火はほどほどにな」

 

「流して欲しかったんですけど、適当に流されるとそれはそれで傷つくんですよね」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る