魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 13

 かつてユータロウによって無条件に救われてしまったルビィは、なにもしない自分をよしとしていた。


 ユータロウに体と心を捧げてさえいれば。

 ユータロウの最愛にはなれずとも、幸福は保証されている。

 自分はユータロウの物語に乗っていればいい――。


 意識の根底に、そんな消極的な考え方が染み着いていた。


 だからルビィをユータロウから引き離すには、ルビィを自分の足で立たせる必要があった。

 そして自分の物語を歩ませるのだ。

 ユータロウの物語ではなく。


 俺はまず、ルビィに精神的な負荷を与えた。

 

 ルビィが書きためていた小説を流出させ、

 ユータロウが他の女とやっているシーンを見せ、

 そして祖父に呪いをかけて昏倒させた。


 精神的にどん底へと落ちたルビィ。

 そこに女エルフシュカラーヤに化けた俺の登場。


 俺は生活費の援助をえさにルビィに小説を書かせた。

 ひたすらにダメだしを繰り返し、小説を書かせ続けた。

 

 果てない努力はルビィという人間の意志を強化した。

 ルビィは目に見えて変化した。


 だけど、それだけでは足りなかった。


 ルビィの心のかせを解き放ち、彼女の物語を劇的にするには――トラウマを払拭させる必要があった。


 オークを、ルビィの手で討たせなくてはいけなかった。


 だから俺は、『セフォル』の街に調薬師がいるなどという嘘を吐き、ルビィを旅に出立させた。


 そして、その途中にオークを配置しておいた。

 リューに連れてきてもらった、オークのディーラくん。


 体中に血糊を塗った俺は、ディーラに襲われている風を装って絶叫を上げ、ルビィを呼び寄せた。


 オークに襲われているシュカ――今までのルビィなら、そんな光景を目の当たりにしたら、怖くておじけづいていただろう。


 だが、すでに俺によって鍛えられているルビィは怯んだりはしなかった。

 

 彼女は見事魔法を発動させ、因縁深いオークを討ち果たした。


 ルビィが何かすごい魔法を体に宿していることは、ある程度予想していた。

 ユータロウの物語に組み込まれるくらいなのだから、凡庸な少女のわけがない。

 あそこまですごいとは思わなかったが……。


 ルビィに燃やされたオークのディーラは、命果てる直前に俺の方を向き、『話が違う……!』とでも言いたげな視線を送ってきた。

 ったく往生際が悪い。

 自分だってこれまで散々殺してきたのだから、殺されたって文句はいえないだろうに。


 俺は別にオークの味方というわけではないのだ。


**


「ルビィさん、本当に立派になったね。ああ、ボクは誇らしいよ」

 俺はぎゅうっと、ルビィを抱きしめる。


「シュカさん、ちょっと苦しい……」

 ルビィは苦しそうにぷはっと、顔を上げた。そこに――

「――――っ!?」


 俺はルビィの唇を、唇でふさいだ。


 ルビィはびっくりしたようでビクンッと体を震わせたが、すぐに受け入れてくれた。


 彼女の目はとろんと虚ろだ。


 俺はルビィの耳元に口を近づける。

「ルビィさん、君を好きにしていいかな?」


 ルビィはその問いにびくっと体を震わし、目を伏せた。


「は……い」

 許可がでた。


 やっと、この時がきた。

 ユータロウからルビィを横取りするため、苦労して策略を巡らせて――ついにルビィをものにできる時がきた。


 好きにしていいとのことだったので、俺は本当に好きにすることにした。


 俺が今化けてる女エルフシュカラーヤは、妹のエリエーヤにも負けないほどの魔法をもっている。

 エロいことに使えそうな魔法も。


 俺はルビィに『身体麻痺パラライズ』をかけた。


「……あっ――!」

 感電したかのように体を硬直させ、ぴくぴく痙攣するルビィ。

 

 俺は震えるルビィを地面に横たえた。

 脚をM字にひらかせる。


「おつぎは、と」

 そして次に、俺は荷物から黒い布を取り出し、ルビィの目を隠した。


 男に戻るところをルビィに見られるわけにはいかない。


 さらにルビィの衣服に『装備崩壊』をかけてから、俺は『ミラー』を解き、元の姿に戻った。


『装備崩壊』の効果で、ルビィの衣服はじわじわと消滅していく。


 まず下半身を隠すものが消失した。


 脚はM字に開かれているので、ルビィの股間が夜気にさらされる。

 こんな姿、ルビィの祖父が見たら卒倒してしまうだろう。


 上半身はちゃんと着てるのに、下半身だけなにも身に着けていない状態――だらしなくて、これもなかなか……。


 しかし上半身の衣服もじょじょに崩壊していく。


 へそが露わになり、次に爆乳が巨大なその身をさらした。


 今のルビィはそれを隠せない。

 俺にじっくり見られているのはわかっているだろうが、隠せない。


 目隠しされた全裸の爆乳少女。脚をM字に開いて、その体をピクピクと痙攣させている……素晴らしく犯罪チックだ。


 ああ……ものにするまで本当に長かった。


 その分、十分楽しませてもらう――!


 俺は自分の衣服を脱ぎ捨て、ルビィの体に覆いかぶさる。


 俺の胸板に押し潰される爆乳の感触……!



 そうして、俺はルビィとした。

 ルビィの純潔を奪い、朝まで彼女と何度も交わった。


**


 俺とルビィはその後、『セフォル』の街へと行った。

 しかしそこに調薬師はいなかった。


 あたり前だ、元々俺がついた嘘なのだから。

 失意のルビィとともに、一週間かけて俺は『クーラ』へと戻った。


 ちなみに帰りの道中も、失意のルビィを慰めながら毎晩させてもらった。


 そうして『クーラ』に戻ると――


「おじいちゃん!?」

 ルビィは、驚愕の声を上げた。


「おお、ルビィや。なんか元気になったぞ」


 ルビィの祖父は、普通に元気になっていた。


 俺がかけた呪いの効果が切れたのだろう。


 ルビィは喜び、祖父にここしばらくの出来事を報告した。

 祖父は顔つきの変わった孫娘を、誇らしそうに見つめていた。


 家族の再会シーンを邪魔するのも野暮だったので、俺は魔導書グリモア屋をあとにした。

 

 先に『クーラ』に戻っているはずのリューと合流し、いろいろ報告し、久方ぶりにあいつを可愛がってやろうと――。


 と、


「待ってシュカさん!」


 店から飛び出してきたルビィが、俺に追いついてきた。


「おやおやどうしたんだいルビィさん、病み上がりのおじいさんのそばにいなくていいのかい?」


「すぐ戻ります……あ、あの……わたしシュカさんに聞きたいことがあって……」


「ん? なんだい?」


 そう聞くと、ルビィは俺の首に両腕を巻きつけるようにして抱きついてきた。


 そして耳元で、囁くように聞いてくる。 

「シュカさん――あなた本当は男の人ですよね?」


「…………」

 ……あれ、ばれて……る?


「責めてるんじゃないから、隠さなくていいですよ。気づかないわけないじゃないですか……。魔法で麻痺させられてたとはいえ……あ、あんなにいっぱいエッチしたんですから……!」


「…………ああ、男だよ俺は」

 俺は認めた。


「多分ですけど……わたしの小説勝手に本にしたりしたのもあなたの仕業ですよね? もう……どこまであなたの手のひらの上だったんでしょう……」

 ルビィはくすくすと笑う

「言っておきますけど、怒ってないですよ。あなたに自分を変えてもらえたのは事実ですし、それに……そんなに策略を巡らせてまで、一生懸命わたしとエッチしようとする男の子って、考えたらなんかおかしくって」


 ルビィはあははっ、とおもしろそうに笑った。


 ただ、とルビィは続けた。

「もしわたしに悪いと思うなら、どうかあなたの本当の姿を見せて下さい」


「……」

 俺は観念して、『ミラー』をといた。

 さえない、元の姿をさらす。


「名前はモトキだ……」


「あ、想像した通りの人……。ひねくれてそうで、でも憎めない感じ……かわいい」


 ルビィはぎゅっと俺の頭部を爆乳に抱き寄せ、頬や唇に「かわいい、かわいい」と何度もキスを繰り返してくれた。


 ……なんだ、これは夢か。

 俺は死ぬんじゃないか――。


「ねえ、モトキくん……あんなにいっぱいエッチしたんだから、ちゃんと責任とってね」


「ああ、ああ……」

 呼び方が『くん』になっていたが、これも悪くなかった。


「あと……もしも赤ちゃんできてたら責任とってもらいますからね」


「女って本当そのへんしっかりしてるな……」


 人気のない道で、俺はルビィといちゃいちゃしていた。


 と、


「ル、ルビィ……」

 不意に聞こえた声に、俺とルビィはそちらの方を振り向いた。


 そこには、ユータロウの姿があった。


 地球から転生してきた中学生の男の子。

 彼は、自分のハーレムの一員になるはずだった女が、他の男といちゃついてるのを目撃し、固まっていた。


「ユータロウさん……紹介します」

 ルビィは平然と言う。

「わたしの彼氏のモトキさんです」


「あ、あぁ……よかったな!」

 ユータロウは震える声でルビィを祝福すると、幽霊のような足取りで引き返した。


 ショックは強いだろう。

 中学生が、好きな女を奪われたのだ。


「―――」

 その時、俺はみた。


 ユータロウの背から、煙のようななにかが抜け出していくのを。


 あれはおそらく、ユータロウの力の一部だろう。


 俺にルビィを寝取られ、物語の一部を壊されたことで、ユータロウは女神からの祝福を一部失ったのだ。


 ――いける。


 これからユータロウの他の女も寝取ってやれば、確実にあいつは弱っていくだろう。



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