魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 1
――あいつになりたい。
強く念じると同時、俺は一瞬で変貌する。
宿の自室に持ち込んだ鏡で一応確認してみると、俺の姿は靴屋の主人を完璧に模倣していた。
「いつ見ても見事なもんっすね……うわやっべ、完璧っすわ」
リューはぺたぺたと俺の顔や体をさわってくる。
『ミラー』の変身は完璧だ。
服装も、体も、体の中身も、完全に化けた相手と同じになる。
だから、女になることもできる
「ちなみにお前に変身することだってできるぞ――ほれ」
今度は一瞬でリューの姿になってみる。
「お前の体なかなかいいな。体がしまってて動きやすい。――うん、おっぱいも弾力があるしな」
「ちょ!? わたしの姿でへんなことしないで下さい!」
「いや、今はこれが俺の姿だし。俺が俺のおっぱい触ろうと自由だし。しかしお前、ぽっちの形いいよね。ピンク色だし」
「くっ、わたしはなにもされてないのに体をもてあそばれてる感半端ないです……! あれ、でもわたしが二人ってことは……わたしが仕事したくねー時とかあなたに変わってもらえば遊びたい放題じゃないですか!」
「変わってもいいが、相応の対価は要求するからな。肉体的な意味で」
お遊びはこれくらいにして、俺は再び靴屋の姿に戻った。
**
俺は靴屋の姿で商店の立ち並ぶクル・セー通りを歩き、城壁のそばにある小さな店へと入った。
ここは
六畳ほどの大きさしかない店内にはたくさんの書架がならんでおり、そこには仰々しい
「これが
一冊手に取ってみるが、ベルトのような錠がかかっているので、中を開くことはできない。
この本の鍵を開け、中に書かれている文章を読破すると、その者の体内には魔法が宿る。
氷の魔法が欲しい者は氷の魔法の
しかし、これを読みさえすればどんな魔法でも使えるようになるというわけでもない。
魔法に見合う才能がなければ十分な威力は発揮されないし、生まれ持った適性があわなければそもそもその魔法を覚えられない。
この世界でも才能の壁ってやつはあるのだ。
「あ、あの……」
「ん?」
声に振り向くと、いつの間にやら俺の隣には小柄な少女が立っていた。
「こ、ここ……こんにちは……靴屋、さん。ま、魔法を、おお、お探しですか……い、いま祖父はいませんが……わたしでよければ……ご、ご相談に、乗りますが……」
なるほど、この子がルビィか。
そして、ユータロウのハーレム要員。
どうやら俺が化けてる靴屋の主人とルビィは知り合いらしい。
「おや、こんにちはルビィさん。ええ、実は魔法を探しているんです。攻撃用の魔法でも、と」
「そ、そそうでし……たか。じゃ、じゃあご案内を……――」
自分に自信がないのか、ルビィは長い前髪で目を隠しており、態度もどこかびくびくしている。
聞いた話によると、この子は幼くして両親を亡くしており、ずっと祖父と二人でこの
本来だったら、ルビィの人生はこの店の中で地味なまま終わるはずだった。
しかし、ユータロウが現れた。
それによって今、彼女の運命は大きく動こうとしている――。
「いやあ、ルビィさんの説明はとてもわかりやすいですね。――ところでルビィさん、ユータロウという人をご存じですか? 最近話題の転生者なんですが、魔法の腕前がすごいらしくて。実は年甲斐もなく憧れているんです。今日ここに来たのもユータロウさんみたいになりたいからでして」
ユータロウの名前を出した瞬間、ルビィの顔は真っ赤にそまった。
「は、はい……ユータロウさん……のことは、知ってます……ここによく
来て……ください……ます、から」
「なんと! 転生者とお知り合いとはすごいではないですか!」
すごいすごい、と俺はルビィを褒めまくる。
褒められると、人は調子にのって口が滑りやすくなる。
ルビィも気分がよくなったようで、ユータロウとのなれそめを語ってくれた。
3年前、街を襲撃してきたオークに目の前で両親を殺されたルビィは、そのショックでほとんどしゃべれなくなってしまった。
それ以来、彼女は友達をつくることもせず、店番をしながらあらゆる物語を読み、空想の世界で生きていた。
現実を、見たくなかったのだ。
しかしそんな彼女の元にユータロウが現れた。
街でルビィのことを知った彼は、店に押しかけてきて言った。
『俺がお前の両親のかてきをとってやるぜ! お前の店の
彼はこの店の秘伝の
そして半月後、街にはこんな噂が流れた。
オークの砦が一つ陥落したらしい、と。
以前この街を襲ったオークの首領がうたれた、と。
ユータロウがやったのだ。
ルビィのために。
「ユータロウさんのお、おかげで……わたし、また、しゃ、しゃべれる……ようになったん……です……あの人は、お、恩人なんです……」
「そ、そういえばルビィさん少し前まで話せませんでしたもんね! いやあ、これはめでたい! ユータロウさんのおかげだったんですね!」
俺はとっさに話を合わせた。
なるほど、やはりルビィにとってユータロウは英雄なのだ。
ありがちなストーリーだが、自分の両親のかたきをうってもらったというのはでかい。
だが――つけ入るすきはあるはずだ。
ルビィのユータロウへの思いは、まだ憧れの段階だ。
子供が本の中の主人公に抱く想いに近い。
ならば、まだつけ入るすきはある。
「…………」
俺はさりげなく、視線をルビィの胸元へ向けた。
びくびくとしているルビィだが、その胸だけはずいぶん堂々としていた。爆乳、といっていい。
これをユータロウのような子供にやるのは惜しい。
なんとしても、俺がいただく。
いや、任務達成のためだよ?
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