旅の道連れにかわいい子は必須ですよね
オークの女王オ・ルナが直轄しているこの島の名は、オーグル・
南北に長い
大きさは地球のブリテン島程度。
ざっくりいうと島の北側はオークの、南側はヒューマンの領土である。
しかしオークもヒューマンも、島のところどころに飛び飛びで領地をもっているので、頻繁に囲碁のような陣取り合戦を繰り返している。
紛争地帯のようになっている場所も、島にいくつか存在している。
そんな危険なところ、腕利きの戦士でもなかなか近づかない。
死ぬから。
**
「じゃあなーんでわたしたちはそんな危険地帯にわざわざ好き好んで近づいてるんですか! おかしいですよ! 断固抗議しますよわたしは!」
ハイ・オークの娘、カ・リューは憤然と俺に抗議する。
「うるせえな、ちょっと黙れ。あと頭あげんな、気付かれるぞ」
リューのあまりのやかましさに、俺は顔をしかめた。
「これが黙っていられるかってんですよ! あなたがおいしい肉をおごってくれるというからついてきたのに、どーしてわたしは紛争地帯に! 紛争地帯にぃ!」
「落着け、人生そういうこともある」
「あってたまりますか!」
俺はやかましいリューを無視し、戦況を確認することにした。
俺たちの前方一キロほど先で、ヒューマンとオークの軍勢が争っている。
緑豊かな草原の上で、戦士たちが剣を振り、弓を引いている。
オークの砦がヒューマンに襲われているのだ。
あそこはそこそこ堅固な砦なのだが――もはや陥落寸前だ。
間違いなく落とされるだろう。
なにせヒューマンの中に一人、地球からの転生者がいる。
「なるほどなるほど、あいつか」
俺は伏せたまま一眼の望遠鏡を覗き込み、オークを襲っている転生者の姿を確認する。
男だ。おそらく中学生程度。
手から炎を出したり氷を出したりせわしない。
あらゆる魔術を使いこなすマジックタイプのチート持ち。
あいつが、このところオークをいじめ続けている転生者とみて間違いない。
「あんなに若くして転生してくるとはかわいそうになぁ。地球で遺された親泣いてるぞ、きっと。――まあこっちの世界でも俺が殺すけどな」
「なーにをぶつぶつ呟いてるんですか……! 早く逃げなきゃわたしたちまで殺されますよ! わたし若い身空で死にたくなんてありません。こんなところいられるかってんですよ! 帰らせてもらいます!」
「ほんとうるせえな……あと死亡フラグ立てるな」
オークの女王オ・ルナから『地球からの転生者殺ってちょ』と依頼を受けた俺は、さっそく準備を整え、出立した。
やかましいハイ・オークの娘、カ・リューを道連れに。
ほんとやかましいのがたまに傷だが、こいつはなかなか使えるのである。
任務達成に必要不可欠な人材だ――というのは建前で。
ほんとは、かわいいから連れてきた。
ハイ・オークってエルフそっくりで美人さん揃いなのである。
旅には癒しが必要ではないか。
おいしい肉をおごってやる、と言ったらリューは喜びいさんでついてきた。
アホな子なのだ。
「お前もちょっと見てみろ。あれがこれから俺たちが戦う相手だ」
俺は望遠鏡をリューにわたす。
リューは心底いやそうに、望遠鏡を覗き込んだ。
「……うわー、ほんと地球人ってえぐいですねー。なにあれ、魔法ぽんぽん使ってますよ。バックに女神でもついてんですか? 超優秀なわたしでもあれには絶対かないません、負けますよ」
「まあ、普通に戦えば負けるな。なにせ相手はチートだ」
「……でもモトキさん、あなただって地球転生者なんですから、あなたは頑張れば勝てますよね……? 勝てるんですよね?」
「いや、普通に戦えば負ける。俺のは戦闘向けのスキルじゃないからな――覚えておけ、地球からの転生者と真向正面から戦うな。知恵比べもするな」
「ちょっ……! あなた負けたらわたしどうなるんですか!」
「おちつけ、普通に戦わなきゃいいだけの話だ。そうすれば勝てる。――だが勝つには俺がベストコンディションである必要があってだな。お前がこの道中、いかに俺の心と体をケアできるかが重要になる。エロ的な意味で!」
俺はそういいながら、リューの胸元に目をやった。
オークはゆるい服を好むので、身を伏せているリューの胸元は隙だらけである。
小ぶりな胸が派手にのぞいており、見えてはいけないところまでが……。
「ちょっ……!」
リューは慌てた様子で、胸元を隠した。
「変なことしたらルナ女王にちくりますからね!」
「あ、ルナからは許可とってある。『リューは人なめきっとるからのー。少し男の怖さを教えたれ』とのことだ」
「女王様ー……!!」
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