子猫の妹


 冒険の女神が神託した通り、ギルドの酒場にナサティヤが現れた時は震えた。


 そうなるだろうと予想したのはニケではなくてアクシノだそうだが、ジビカのクソを知っているシュコニからするとなんの励ましにもならない。世界で最高にうぜえ叡智の「こっちバージョン」の予想なんて、信用してたまるかっ。


 怪盗ナサティヤの両脇にはカオスシェイドとミケがいて、子猫はともかく、カオスはシュコニを見た瞬間に体を青白く発光させ〈鑑定〉した。


 詰んだと思った。シュコニは指輪を装備しているが、ニケはもう、アクシノにシュコニの正体を教えている。


 しかし少年はシュコニの名前や愉快ムリアフバについて知った程度で、月の眷属だと見抜いたりはしなかった。アクシノは、すべてを知った上で黙っておいてくれたらしい。


 綱渡りみたいな〈冒険〉に震えながらシュコニは笑顔を繕い、ナサティヤに「どーしたんです、先輩」と尋ねた。その時はなにも知らなかったが、その場には平然とマキリンもいた。


 ナサティヤは冒険の女神に絡まれた話をするとマキリンを連れて去り、シュコニは必死に演技しながら酒場に残ったクソガキ2人に声をかけてみた。


 村人の食べ物でも盗み、ケンカになったら受けて立つ三毛猫はジュースをうまそうに飲んでいて、今日はニケにケンカを売ったのだと得意げだった。昔の自分を見ているようで、シュコニは気恥ずかしい気持ちになった。


 一方のカオスはずっとシュコニやミケの会話を聞き流していたが、突然口を開いて、天罰が怖いならシュコニは口を出すなと言って来た。


 別に天罰なんて怖くなかったが、少年には叡智アクシノの加護がある。カオス少年が叡智の神託を受けて「手出し無用」と言った可能性を考え、シュコニは適当に話を合わせて一旦は身を引くことにした。


 ギルドの更衣室に戻った。考えなきゃいけないことが山程ある。脳みそが焼けるようだっ。


 叡智ジビカの加護により知性が軽く千を超えているシュコニでもカオス少年がなにを考えているのかはサッパリだったし、雷花らいかでお世話になっていた頃、ジビカ対策に本ばかり読んでいた自分はこんなふうに見えたのかもしれないとシュコニは反省した。


 たぶんあのガキんちょは、合理的な必要が無い限り知らない人とのコミュニケーションを避ける性格だ。それが悪いとは言わないが、お姉さんはそれをし続けたせいで未だに独身だぞ?


(まあ良いっ。今はまず、フィウが最下層にいることをマグじいにどうにか伝えないと……)


 結論から言うと、うまく行かなかった。マガウルは狼の兄弟を怒鳴りつけて迷宮に戻った。


 シュコニは自分の指輪や大冒険の秘密についてフィウにもマグじいにもまったく話していない。話せば彼らを加護している月の神々を通じて情報が漏れてしまうからだ。両親の仕事やらルシエラの裏切りについて軽く話したくらいで、マグじいはシュコニを単なる月の眷属だと思い込んでいる。


 結果、シュコニは「フィウは最下層にいる予感がする」といった曖昧な情報しか伝えられず、フィウを見失い、殺気立った執事はメイドの話を馬耳東風に迷宮へ戻ってしまった。シュコニも行こうか迷ったが「足の遅い雑魚は要らぬ」と一刀両断だった。


(落ち着け……仕方ないっ。私は改めてガキんちょの勧誘だっ)


 シュコニはじいさんに探索を任せ、自分はカオスらを引き込むことを第一に考えた。


 まずは早朝ゴブリンに破壊されてしまった鎧の代わりを鍛冶屋に受け取りに行き、借金の頭金として倉庫の中身をほとんどを取られた。こっちは緊急事態なのにな。腹が立ったが仕方ない。


 真っ白になった倉庫の中には宝箱がひとつあるだけで……そこにはドーフーシの自宅から持ち込んだ価値の無い小物と、母が残してくれた赤いマントだけが入っている。


 シュコニはマントを取り出して装備しようか迷ったが、やめておいた。


 鎧を失って貧乏だとカオスの前で話してしまった。あの少年は鑑定持ちなので、高価なマントを装備していたら不自然に思われるかもしれない。それに、ニケの情報によればウユギワのマスターは虫か草系の魔物を出自とするそうだ。いずれも炎に弱いから、それもあってニケはウユギワ攻略を勧めていたのだが、なら秘密兵器は倉庫に隠しておいたほうが利口だ。


 シュコニは心を落ち着けて、とりあず鍛冶屋から買った中古の鎧に鑑定をかけた。


〈ははは。ああ、その鎧か? その鎧の価値なら……〉


 ジビカはいつも通り鎧の価値や効能を告げたが、シュコニは愕然とした。


 ——ジビカが理由も無く笑った……? コイツ、どうしてこんなに上機嫌なんだい?


 間違いなく月の佞智ねいちがなにかを仕組んでいる。


 親父が遺した指輪を頼りに戦慄した気持ちを押し隠し、シュコニは不安な午後を過ごした。自分も迷宮に入ろうか迷ったが、入ったところで自分はクソ雑魚だ。なにもできないっ。


 佞智と愉快、さらには密かに冒険の女神の加護を持つシュコニだが、彼女はずっと、12歳の頃から変わらずクソ雑魚のままだ。


 ジビカとムリアフバはそれなりにシュコニを強くしてくれたが、結局二柱は肉体派じゃないし、冒険の加護はもっと残念だった。ニケは昔、夢枕で語った。


〈わたしは夢の女神だぞ? 夢はあくまで夢であり、現実に対してはなにもできない。現実的な強さを与えるのは剣とか拳の神であって、わたしじゃないのさ。そうだな……HPはわたしが与えられる最高の力のひとつだが、悪いがおまえは諦めてくれ。与えてやれるならすぐにでもそうするが、わたしの財布はいつも空っぽなんだ〉


 シュコニは焦れるような気持ちでフィウとマガウルの帰還を待ったが、特に吉報も無いまま夜を迎え——大地震を経験した。


 震災はドーフーシのキタタオッカ半島ではたまに発生するが、これほどの規模を経験したことは無かった。ギルドの酒場でバイトしていたシュコニは酒場が崩壊する前にかろうじて難を免れたが、怖かったし、火に包まれた村を見つめて気持ちが折れそうになった。


(なんだい、これは……地面の下は今、どうなってるんだ)


 指輪が持つ大本営の能力はフィウの状態を〈通常〉とだけ表示していて、死んでいないのはわかったが、まったく役に立たなかった。


 心配で気が狂いそうな中、シュコニの心を支えてくれたのはカオスとミケだった。無感動なクソガキに思えたカオス少年は叡智アクシノ直伝の味噌を持ち出し、三毛猫と一緒に温かいスープを配り始めた。


 シュコニは列に並んでトンジルというスープを飲み、今はうだうだ言っていられないと感じた。


 ボランティアとして豚汁の列の整理係に参加すると、偏屈に見えたカオスは一気に心を開いてくれた。彼はシュコニを含めたギルド職員に豚汁のレシピを詳しく伝え、眠そうな目で料理していたので声をかけたら年相応の嬉しそうな笑顔を見せた。ちなみに三毛猫はもっと嬉しそうだったが、同じ〈冒険〉持ちのシュコニは同情心を押し殺して知らないふりをした。


 そのあとはただ、必死に自分ができることをした。


 避難所で風を操っていると見知らぬおばさんが「星辰の霊薬」をくれたのを覚えている。その効力は凄まじく、ノモヒノジアの冒険にこの薬があればと思ったし、昔のことが思い出されてシュコニは子供らに子守唄を歌ってしまった。こんな歌、もう二度と歌いたくないと思っていたのに。


 シュコニはそのあと一睡もしないまま微風の魔法を使い、朝を迎え……村長が戻らない中でギルドが出した告知を見た彼女は、気を取り直してチャンスだと思った。


 カオスらを起こしてそそのかすと子供2人はまんまと口車に乗ってくれて、シュコニは2人を迷宮に連れ出すことができた。



 何年もこの日を計画していた。しかし子供を騙すのは楽しい仕事ではなかった。


 突然のことで覚悟が固まっていなかったし、ガキんちょ2人はそれぞれに健気だった。


 月の領地たる迷宮に入ったシュコニには、月の叡智たるジビカの鑑定がある。迷宮のあらゆる抜け道は軽く鑑定するだけで見抜けたし、どこにどんな敵が現れるかも事前に神託されていた。


 ついでに、脳内にはこんな言葉も響いていた。


〈——よし、いいぞ。ガキどもを殺せ! 今なら殺れる。ファレシラの子は油断している……殺せば一気にCランクになれるぞ! 難しいなら猫を殺すのも良い。どちらを殺してもお前は〈月〉に招かれるだろう! 夢にまで見た両親に会えるぞ!?〉

(……わあ☆ 嬉しい。だけど2人は私より強いので、同時に両方殺さなきゃダメですよ。どっちかひとりが生き残ったら報復されてしまいます)

〈ふむ……〉


 シュコニは必死に言い訳し、まだ自分と同じクソ雑魚に見えた2人に少しでも経験値を与えるため遠回りをした。フィウのことは心配だったが、そのためにこの子たちを犠牲にするつもりはなかった。


 結果、ミケはぐずった。子猫は両親が心配でたまらないという顔をしたし、遠回りするシュコニを激しく非難した。


 カオスは子猫よりは冷静だったが、彼は彼なりにシュコニの心を抉った。


 カオス少年は職業冒険者としてのシュコニの立場を尊重すると口にしたが、その声には精一杯の皮肉が込められていた。大人ぶった少年は「尊重してやるから早くしろ」と言いたげにシュコニの地図製作を監視し、ペンが鈍ると即座に鑑定を発動して理由を探ろうとした。


 子供2人はずっと家族を心配していて、シュコニは12歳の自分を思い出してしまった。


 気持ちはわかるけど、耐えてくれよ。きみたちはどちらも回復スキルを持たないだろ? 息をしてない両親に回復が通じなかったときどんな気持ちになるかわかるか。親のカードだけを持って迷宮を抜け出し、ギルドでLv2の新しい回復呪文を教わったことがあるか……?


 ——常に安全マージンを取れ。


 この子たちを利用するからには、冒険者の先輩としてせめてそれだけは教えたい。


 シュコニは辛抱強く経験値を稼がせたが、それも迷宮の3層でいよいよ難しくなった。言い訳を思いつかず、シュコニは叡智ジビカが命じた抜け道に2人を案内してしまった。


〈いいぞ、その先は17層に繋がっている! ガキを両方殺せればBランクも夢ではない!〉


 シュコニは不安でたまらなかったが、すぐに杞憂だったとわかった。


 現れた3対の黒オークはシュコニに深い絶望を与えた。相手があまりにも強く、早すぎて、手当てで弱点を突くこともできず、シュコニは闇雲に刀を振り回すことしかできなかった。


 親父のお古の「髪切虫かみきりむし」はニケの爪に変化していたが、ダンジョン・マスターと対峙するまでそれを明らかにするわけにはいかなかった。クソ雑魚のシュコニがマスターを殺すには不意打ちが必須だったし、そもそもニケとの約束は「マスターと対峙した時」であり、豚の前では刀は刀で、「冒険の爪」としての力を発揮したりしない。


 ——あれっ、でもこれは死んじゃうんじゃないかな? かなっ!?


 豚はジビカの〈翻訳〉経由で「服を剥いで胸からかじる」だのなんだの、恐ろしい言葉を叫びながらシュコニを襲っていて、絶望しかけた彼女を救ったのは、まだ雑魚だと思っていたクソガキたちだった。


 カオスは当然といった顔でメイジ・ゴブリンを遥かに凌駕する速度と威力の〈癇癪玉〉を連打し、子猫は自分の黒豚をぶち殺したあと、


「まったく、お乳ったら☆」


 とかなんとか言う間にシュコニを豚の前から退避させ、瞬きする間に黒豚を食材に変えていた。


「ええぇ……キミたちマジでどーなってるの?」


 胸囲をあだ名にされたことには腹が立ったが、シュコニは自分とは隔絶した才能を思い知らされた。


 ニケはずっと夢枕で告げていた。


〈——ウユギワ村にやべえガキどもがいるから、おまえの「夢」にあいつらを利用しちまえ。特にカオ……カオなんちゃらは、500年ぶりの星辰の子だ。あのガキは、幸か不幸かこの世界のあらゆる迷宮を撃破する運命にある——いや、運命と言っても我々は強制なんてしてないぞ? あのガキはマジでイカれた奴でさ、生まれつき『そうしたい』と願ってこの世界に生まれてきたんだ。意味不明だよな? だけど我らにゃありがたい奴だから、我々はあのクソガキを全力で強化することにしたんだ〉


 シュコニはニケが嘘を言っていなかったと知った。


〈何度も言うが、雑魚のおまえがノモヒノジア迷宮を殺すのは無理だ。おまえには必要な才覚が無い。だけどおまえは無力じゃないぞ。クソガキどもに先輩冒険者の威厳ってやつを見せつけてやれ。それはあいつらの力になるし、ガキどもはおまえの教えを血肉に変えて、いずれノモヒノジアを殺すだろう〉


 ずっと寝ていなかったシュコニは2人に休憩を提案した。両親が心配でたまらないミケは激しく反発したが、シュコニは昔の自分を思い出し、決して反論を認めなかった。


 ——お姉ちゃんから見た私は、ずっとこの三毛猫のようだったのかな。


 ふとそう思ったが、シュコニは首を振った。


 ——違うぞ。私はミケの家族を犠牲けいけんちにしないし、この迷宮がなにかする前に、フィウを助けて、この迷宮をぶち殺してやるんだ……それで自分が死んでも構わない。


 シュコニはゴリを思い出し、なんて馬鹿なやつだろうと思った。


 あの人は月に行きたいと言いつつギルドの窓口で人生を浪費しているが、そんなに月に行きたいなら私のように命がけの冒険をしたほうが得だ。


 自分の家族を奪った迷宮に全力で復讐を挑み、思い通りになれば勝ちだし、負けたらどうなる? 私たちは死んだら月に生まれ変わるんだろ? ……どちらにしろ損しないなら、命を賭けて戦ったほうが得じゃないか。


 ——月の悪魔の甘言は、ことごとく矛盾しているっ。


 倉庫の中で自分の下着を真っ赤な顔で補修する少年を見ながらシュコニは思った。先輩として、できればこの真実を教えてやりたいが、ジビカのアホが見張っているからそういうわけにはいかない。



 ——いいさ、ならお姉さんは行動で示そう。



 その翌日、目を覚ましたシュコニは泣きそうになった。


 全裸で寝袋に入っていた彼女には新品の黒いマントがかぶせてあり、シュコニは母親を思い出し、裸のままカオスシェイドに抱きつきたくなった。


 ぐっと自制して、新品同様に補修されたメイド服に袖を通すと子猫が目を覚まし、もう遠回りは無駄だと感じたシュコニは言った。


「昨日はごめんね。ミケは強いし……そりゃ、パパとママが心配だ。今日からは最短ルートを案内しようっ。だけど地図だけは作るぞ。冒険ってのは、迷宮から生きて帰らなきゃ冒険じゃないんだ。生き残って、村の雑魚どもに自分の冒険を自慢して……それで初めてミケの強さがこの世界に伝わるんだぞ?」


 少し言い訳めいた言葉だったが、ミケはシュコニの言葉に「おおー☆」と納得してくれた。


「にゃ。お乳はようやく子猫の味方になりましたか?」

「お乳て……ミケもそのうち大きくなるよ」

「にゃ? しかしママが言うには、巨乳は叡智の加護を得られない」

「なんの話だい?」

「時を戻そう」


 ミケはにゃーにゃー言いながらシュコニに言った。


「ミケはお乳を誤解していました☆ ついにおまえを我が『妹』と認めてやって良い!」


 唐突に「妹」と呼ばれシュコニは面食らった。


「ええぇ……そこは『お姉さん』じゃないのかなっ?」

「にゃ? シュコニはミケより弱いから、断固として『妹』。実は三毛猫は一人娘なので、舎弟を持つのは夢のひとつでした☆」

「舎弟て。でも、そうか……それはミケの夢のかい?」

「にゃ☆ 子猫の極秘ランクでいうと6番目の夢。世界最強とか、そういう夢の次くらい」


 世界最強が第5位の夢かよっ。


 そう思いつつシュコニは裸のままミケを抱きしめ、嫌がる子猫の頭をグシグシと撫でた。冒険術の〈冒険〉さえ使われなければレベル差でギリギリ抑え込める。ニケのクソも私に〈冒険〉スキルをくれたら良いのになっ。


「にゃ!? 離せ乳……これは警告であるッ!」

「あははー☆ いいか子猫っ。今からお姉さんが良いことを教えてやる。3層までの道を覚えているかい? 覚えてるなら地図に描いてみろっ。もしも正しく描けたら……そうだねぇ、お姉さんの本当の名前を教えてあげよう。未成年のガキにはわからないだろうが、本当の名前は誰にも知られちゃいけない秘密なんだぞ?」

「にゃ? ……乳の分際で生意気な発言」


 自分のためにマントを縫ってくれたカオスシェイドが母親だとすると、三毛猫は親父を思い出させた。親父はいつも「冒険者」であり、未知に挑戦する生き方を当たり前にしていた。


 面白そうな古文書があれば言い値で買ったし、成人前の12歳の娘に迷宮入りを許した。


 シュコニが親なら許しただろうか? 冒険者の才能が無いシュコニには考えられないことだが、親父は冒険者を夢見る娘に「冒険」を許可してくれた。


 そんなことを考えつつ、シュコニは自分がルシエラに似ていると思わざるを得なかった。


 才能も無いのに冒険者に憧れ、木刀を手に「お姉ちゃん」のルシエラに挑み——しかし魔法職が斥候に腕力で勝てるはずもなくボコボコにされた。


 あの時の自分と同じで子猫が「お姉ちゃん」に甘えているのだとわかったし、シュコニはルシエラの気持ちが透けて見えたような気分だった。



 ミケは案の定地図を描けず、シュコニは精一杯悪口を言って子猫を挑発し、覚えてほしくて地図の描き方を教えた。


 そうしているうちカオスが起きて、シュコニは親父の指輪だけを頼りに嘘をつき続けた。


 迷宮を下層に進み、怪盗たちと合流したときは嬉しかった。カオス少年は必死に泣くのを我慢して見えたし、フェネ婆さんからマキリンの裏切りを知った時は自分の予感が正しかったと感じた。


 ゴリの時もそうだったが、マキリンには〈月〉の気配があったし、しかしどうしても信用しきれず、仲間に誘わなかった自分の理性カンを誇らしく思った。


 そして、シュコニはフィウと再開した。


 マキリンが包帯で姿を隠して現れた時、シュコニが小声で使った鑑定にジビカは「知らない敵だ」と嘘をつきやがったが、無意味だった。


 小さなミイラがフィウだと見抜いたシュコニは、クソ雑魚ながら懸命に戦ってマキリンを追いかけた。残念ながら返り討ちにあい簀巻きにされたが、マガウルが現れ、フィウがマグじいと一緒にいるのを見た時は飛び上がるほど嬉しかった。


 同時にシュコニはマキリンを「殺そう」と思った。ルシエラ以来、久々に死んで良いと思った人間に出会ったと感じたが、シュコニが手を出す前にあのアホはカオスシェイドが水攻めにしてくれたし、キレたマグじいがボコボコにしてくれた。


 崩落に巻き込まれた時は死んだと思った。冒険者になるのが夢だったが、よもや自分にこんな大冒険が待ち受けているとは思わなかった。


 カオスがプレゼントしてくれたマントと愉快のムリアフバがいなければ死んでいただろう。崩落の中で自分にカンストの手当てを連打したシュコニはどうにか助かり、フィウも気絶したカオスの腕の中で無事だった。星辰が与えたHPの壁には驚かされた。


 崩落直後、ほぼ無傷だったフィウは髪の毛を真紅に変え、角を1メートル近くまで伸ばして瓦礫からシュコニを出してくれた。


 シュコニはフィウに倉庫を開いてもらい、広大な屋敷の中に気絶したカオスを運び込んだ。


 叡智ジビカもアクシノも、常世の倉庫の中は覗けない。眷属が内部で鑑定等のスキルを使うか、相当強力な加護を与えた眷属が目を覚まして聞いているのでない限り庫内の秘密は守られる。シュコニは頭をフル回転させ、アクシノの眷属たる少年が寝ている間にフィウに台本を叩き込んだ。


 目を覚ましたカオスは必ずフィウを鑑定し、月の眷属であることがバレるだろう。指輪を仕えば偽装できるが、今はもう、いっそ教えたほうが良い気がする。


 というのも、この数日観察した感じ、カオスはこの星の神々の味方とは思えなかったし、月の神々を信仰しているわけでもない。この子はいつも自分の都合だけを考え、シュコニと同じで、神々を「道具」とみなしている。


 なら行けるはずだ。ここは正直にフィウの正体を明かす。あえて手の内を明かせばカッシェはフィウを無害だと判断してくれるはずだ。だって実際、この子は無害なのだからっ。


 シュコニは目を覚ましたカオスシェイドに明るく笑い、軽口を叩いて、フィウの印象を操作しようと努力した。


 彼は容赦なくフィウを鑑定し——そのあとじっと考えてから口を開いた。


「マグじいが心配だろ? なら手伝え」


 む、どっちだ。カオス少年はフィウになにをさせる気だっ!?


 シュコニは心配で仕方なかったが、カオスに言われるままフィウに言葉を通訳した。



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