第2話 エルフの宝 視点ボルドー

顔合せが終わり、今回の仕事に関する説明が始まる。

本来なら、既にチームになっているパーティ向けの仕事だし、商会にもそう報告はしていた。


だが、[鋼鉄の鍋]は、その前の仕事で歴戦の戦士2名とベテラン神官1名のパーティメンバーを欠いている。

複数パーティで挑んだグリフォン討伐で待ち伏せに失敗した為と聞いていた。


「聖都の近郊に住むエルフ族は第一次魔王戦争の頃、魔王軍南方軍団により故郷を追われた奴らだ。」

リーダーのドワーフ、ディッツの低い声が響く。


「そのエルフ達に関する古い資料が手に入りました。今回狙うのは、そのエルフのお宝になります。」

魔術師ルースがドワーフの補足で話す。


「エルフのお宝だぁ?ディッツの旦那、ガセ掴まされてねぇか?」

ラアナと名乗った盗賊が噛みつく。

この舐めた態度の女とドワーフだけが、今の[鋼鉄の鍋]の正規のメンバーだ。


「儂も最初はそう考えたさ。だが、聖都の酒場で飲んだエルフから裏は取れた。その島には魔族の遺跡があるそうだ。」

そしてルースの方を見る。


「エルフの宝が無くても、魔王戦争時代の魔族の遺跡なら魔導具は期待出来ます。」

ルースと名乗った魔術師がいるなら、一見役に立たない魔導具でも、魔術師ギルドが買い取ってくれるだろう。


「既に冒険者が入った枯れた遺跡の可能性は?」

少女が、いや戦士チカカが確認をとる。


「水が出るので、一応船乗りには知られた島ですが、偶然で寄るには航路から離れ過ぎています。枯れている可能性は低いでしょう。」

少女は納得した様子だが、隣の司祭フォニが渋面を崩さない。


「訪ねるにはコストがかかる場所だ。儂は、この冒険にしくじれば生き延びても鉱山奴隷になるしかない。だがそうはならんと踏んでいる。」


「つまりディッツの旦那は勝算ありって見た訳だ。」

ラアナは再びテーブルに足を乗せふんぞり返っている。


「糞ったれな話だぜ。あたいもシノギをしくじれば、変態共に笑顔で腰振るしかなくなる。そこの、仔猫ちゃんも同じだろ。」

図星の為かチカカは顔を悔しそうに歪ませる。


「エルフの宝とはなんだ?」

フォニが呟くように尋ねた。


「記載があったのは〘水の珠〙〘変異混成の紅玉〙複数の〘方位の水晶〙ですが、他にも可能性はあります。」

ルースが答えるとこちらを見た。


「〘水の珠〙は真水が無限に出る魔導具、英雄リューリュが大魔法で造った〘源泉の珠〙はその亜種。〘方位の水晶〙は必ず南北を示す光が出る航海には便利な魔導具。〘変異混成の紅玉〙は記録がありません。」

私は一度区切り唇を湿らす。


「だが1番安い〘方位の水晶〙でも1つ金貨20〜40枚、〘水の珠〙なら金貨200〜400枚での買い取りが基本です」

冒険者達の目の色をが変わった。


私自身も債権回収に失敗すれば商会を追われる。

冒険者の付け馬など、あてがわれたのは体の良い退職勧奨だと分かっているのだ。


私は話を続ける。

「取り分は借金返済後に均等割。買い取りはフォレスト商会が責任を持って……」


「馬鹿言うな、糞野郎。」

ラアナがテーブルを足で叩く。

「その契約だと、安く買い叩いて借金を残し、鉱山なり娼館なりに、あたいらを売るのが1番利益になる。商人は金になるなら、人を売り飛ばすのも商売だからな。」


「買い取りは、手数料取られても冒険者の店を通す。債権回収も先取りは無しだ。ただし、債務者死亡時はパーティ負担でどうだ。」

ドワーフが妥協案を示した。


「パーティ負担に僕は反対だ。保証人は、もう懲りごりだ。」

両親の借金を相続させられ、借金を背負うチカカはそう話す。


「必要なんだよ。仔猫ちゃん。取り分欲しさにパーティで殺し合いしない為にはさ。」

パーティメンバーが死ねば、そのメンバーの借金が自分の借金に多少なりとも上乗せされる。

そうなれば、増える借金以上の莫大な利益が見込めない限り、協力せざるを得ない。

老練の冒険者らしい知恵だ。

信頼出来ない仲間を繋げるのは金の力。

極限で人を救い、殺すのは金の力なのだ。



その後、詳細を詰めて新生[鋼鉄の鍋]は誕生した。

ハルピアでのミーティングを終え、[鋼鉄の鍋]と監視役の私は船上の人になっている。


まずはデーマンタイト諸島のラチア島へパライバ商会の商船で向かい、島で漁船をチャーターし南へ。

大金を得る為、かつてエルフが住んでいた島の遺跡を目指す。

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