第11話 格闘術その3

「本当に何が起きているんだ……?」


 学園に入学したラスは頭を抱えている。

 学園に入ることは分かっていた。その理由は当然。

 自身が光魔法の適性があるからだ。


 王国は勇者となれる人材を見逃すほど節穴な目をしていない。


 だから、そこまでは想定内。

 しかし、そこから先がラスの思い描いていたクラスと大きく違っていた。


 本来であれば、入学試験で他の受験生を圧倒し、その実力と畏怖の念を抱かせたレグルス。

 しかし何の因果か、今ラスがいる世界ではそのようなことなど一切起きていないではないか。


 それどころか親切になり、劣等生であるラスにアドバイスまで送っている。

 性格が反転しているといっても過言ではない。

 ゆえにラスは自分がいるのはゲームの世界ではないと思いかけたのだが、それ以外の要素がラスの答えにノーと突き付けている。


 全てラスが体験しているイベントが次々に起こるのだ。

 その中でもレグルスと関係していないもののみが。


 悪役キャラで、ラスが最後に倒したボスであるレグルス。

 そんな彼が善人然としているなんて考えられない。


「ちっくしょう! 何をどうしたらいいっていうんだよ! 急に意味の分からない世界に吹っ飛ばされて、ラス・アルゲンになっただ? 夢だったらいい加減冷めてくれよ!」


 そうは言いつつも、絶対に覚めることはないと確信している。

 今までの剣術の授業などで受けた肉体の痛みは本物と呼べる代物だったからだ。


「まあ、でも次でようやくわかるだろ。この世界がゲームの世界そのものなのか、それともゲームのような世界でも、一部が完全に違うのか」


 そう、次に行われるのはレグルスによるイベントだ。

 いかに今までレグルスの性格が変わっていたように見えたとしても、それはラス本人の感受性の問題だったかもしれない。


 しかし、次に起きるイベントはレグルスが相手のイベントだ。


「痛い思いするの嫌なんだけどなぁ。そうは言っても、どう頑張ってあの天才に勝てる力なんてないんだけどさ……」


 文句を垂れながら、訓練場に足を運ぶ。

 ラスの視線の先には、楽しそうに談笑しているレグルスとアルカイドの姿があった。


「アルのやつどうしてレグルスなんかと一緒にいるんだ? 昔の知り合いとは言っていたけど、ここまで仲良くはなかったはずだ。それに、いつもレグルスの近くにいたやつらはどうしてんだ?」


 あたりを見回すと忌々しそうにレグルスたちを見つめながら、喋っている数人の生徒がいた。

 ラス自身、名前はよく知らないが、イラストでレグルスの後ろにいた生徒だと気が付いた。


「どうして、敵意を向けているんだ」


 いかに現代日本人の意識を持つとはいえ、相手がどのような印象を思えているぐらいはわかる。

 ゲームであれほど仲が良かったはずの相手がどうしてここまでの敵意を向けているのか。


 そうしている間にレグルスとブルータスの戦いが始まった。


「あれは『魔闘』……? あいつがこのタイミングで使えるなんて色々おかしいだろ!」


 レグルスのイベントが起きるはずだったが、このようなイベントではない。

 ラスがレグルスに打ちのめされるイベントだったはずだ。

 どうしてブルータスと戦って、よもや『魔闘』を発現しているなど、分かろうか。


 そんな衝撃を覚えていると、戦いが終わり、二人組を組むように求められた。

 レグルスがこちらによって来るぞ、ラスは構えていたがアルカイドと戦うようで、よって来ることすらなかった。


「やっぱりここはゲームの世界じゃなかった」


 剣術や魔法理論の授業はイベントになっていなかったから、どのようなことが起きていたのかわからない。

 しかし、このイベントはラスとレグルスが対立する大きなきっかけとなったものだ。

 ここで何も起きないようだったら、これはただゲームに似ただけの世界だ。


「そんなこと考えるのは、とりあえずあとだ。まずは俺も相手を見つけないと」


 あっけにとられていたので、周りにいた大部分の生徒たちがペアを見つけてしまっている。

 頼みの綱だったアルカイドに至ってはレグルス相手で頼れるはずもない。


「よう、平民。俺と戦わないか?」


 ねばついた声がラスを呼ぶ。

 ラスは不快感を覚えながらも、それを微塵も感じさせないような態度でそれに応じる。

 貴族を相手にするのに、無礼を働くようなヘマなど起こしていられないのだ。


「はい、私でよければよろこんでお相手させていただきます」

「よい心がけだ。広い場所に移動するぞ」


 ラスに背を向けて移動する。

 その生徒は先ほどレグルスを敵視していた生徒だった。

 どうしてこの生徒がラスを相手するのだろうかと疑問に思ったが、ラスはそんな疑問よりもどのようにしてこのゲームに似ている世界を立ち回っていくのかで頭がいっぱいだった。


「はじめ!」


 ブルータスの声が訓練場全体に響き渡った。


 意識を現実世界に戻す。

 ラスがいた場所は訓練場の端。周りには数名の男子生徒たちがおり、ラスたちを囲むように位置している。


 その配置に違和感を覚えるラスだったが、相手はそのことを考える隙を与えなかった。


「それじゃあ、行くぞ!」


 貴族がラスに向けて一気に距離を詰める。

 その速度は決して速いものではない。ラスでもゆうゆうと対処できるものだ。

 拳を避け、攻撃へ。


 拳が振りぬかれ、ラスの意識が攻撃に向いたその瞬間。

 拳に握られていた砂がラスの目を襲った。


「うわっ!」


 突然の目つぶしにラスは対応することができない。

 反射的に目を守ってしまい、胴ががら空きになる。


「っふ、馬鹿な平民め。くたばれ。お前なんかがここにいていいはずがないんだ!」


 内臓をえぐるようなアッパー、その一撃を受けて下がった頭に膝蹴り。

 ずさっと地面に転がる。

 なんとか立ち上がろうと地面に手をつくが、次の瞬間、顔に再び大きな衝撃が飛んできた。


 明らかにこれは訓練ではない。

 どうしてブルータスは助けに来ないのか。ラスはそのような疑問を抱いたが、すぐにその疑問は解消された。

 周りにいる生徒。

 彼らがブルータスの視界を奪い、今のラスたちの現状を見えなくしているのだ。


 これは本来であれば、レグルスが行うはずだったイベント。

 どうしてこの貴族が相手になっているのか。

 ラスは痛みに耐えながら、そのような疑問を抱く。


(あ、やべ)


 遠のく意識に危機感を覚えるが、どうしても体が動かない。

 そうして、ラスは意識を失った。

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