第6話 私とペットロス



「小春ー!学校遅刻するわよー!」



部屋でぐずぐずしている私に、お母さんがリビングから大声で叫ぶ


今日から新学期


高校生になった私は絶賛ペットロス中だった。

正直学校に行く気が起きない


レオがいなくなってまだ半年も経っていない

部屋の中はレオと過ごした頃のまま


お気に入りだった寝床やおもちゃブラシなど

片付けてしまうと私の中からも消えちゃいそうで怖くて、全てそのまま置いてある

それらを眺めているとまだレオが部屋にいる気がして、涙が溢れてくる

毎日その繰り返しで、最近はほとんど部屋から出る事はなかった


しかし流石に新学期早々不登校ななんて

学費を出してくれた親に申し訳ないので

のろのろと準備を始める



「レオ、行ってくるね。」


机に飾ってあるレオの写真に声をかけて部屋を出る

いつかレオがいない生活にも慣れて、

学校生活楽しめるようになるのかな


リビングへ行くと、お母さんが朝食を用意してくれていた


「しっかり食べないと入学式お腹なっちゃうわよ」

「うーん…」


確かに、入学式早々そんな事になると

ますます学校に行きたくなくなっちゃうかも…


「ほら、元気出して。私もレオがいなくて寂しいけど、ずっと悲しんでても仕方ないでしょ。」



そう言って出してくれたお味噌汁の味はちょっと濃いめで、少しだけ頭がすっきりした


「ご飯はどうする?味噌汁だけにしとく?」

「あんまりお腹空いてないから、これだけでいい。ありがとう。」


最近食欲がなくなってあまり食べられなくなってしまった

そういう所でお母さんには心配をかけてしまってて、申し訳ないなって思ってるけど…

もう少しだけかこのままレオの事を想っていたい。


私はお味噌汁をゆっくり飲み干すと食器を片付けた。


「ごちそうさま、行ってくるね。」

「行ってらっしゃい、気をつけてね。」


「あ、小春ちょっとだけ待ってね!」



玄関で靴を履いているとお母さんが声をかけてきた。


「せっかく新しい制服なんだから!」


私にスマホのカメラを向けて写真を撮る


「お父さんにも送らなきゃ!」


娘の成長を喜ぶお母さんの姿を見て

ちゃんとしなきゃって思った。


「母さん、俺の靴下どこー!?」



ドタドタと階段を駆け降りてくる弟の声を聞いて

そろそろ行かないと遅刻してしまう事に気づく。


「もういくね!行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」


何もしていなくても時間は過ぎていく

ずっと悲しんでいるわけにもいかないよね。


見上げた空に浮かぶ雲は、ちょっとレオみたいな形をしていた。

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