第4話 死霊術師は誰なのか?


 

 大神殿の大聖堂からすぐの場所に、司祭達の議会室がある。


 今そこは司教リアムスを筆頭に側近の司祭5人、それと今や4人となってしまった6聖剣──ウォルグ、フィリー、アダムス、ウェス、が集まっていた。


 そして最後の席に、遅れてやって来た司祭ゴードンが自身の尻を摩りながら、ゆっくりと腰を下ろした。



「…く、あの小娘めが」

「どうかされましたかな、ゴードン司祭?」


 ウォルグが体の調子が悪そうなゴードンを気遣って、声をかける。



「何でもない、早く話を始めよう。…とは言っても、私の知っている事は全て昨日話した通りだぞ」

「まぁそうおっしゃらずに。忘れている事もあるかもしれませんからな」


 少し苛ついた様なゴードンの言葉に、司教リアムスが穏やかに返答する。

 


「司教お言葉ですが、単刀直入にゴードン司祭に話すべきではないですか! 昨日の事件は、あまりに不審過ぎる!」


 6聖剣の1人、血気盛んな男アダムスが吠えるように訴えた。


 司教リアムスは身を乗り出していたアダムスを、微笑みながら片手でそっと制した。アダムスは仕方なしに席に座り直すと、怪訝な表情でゴードンを睨んでいる。



「…ほう、やはり私が疑われているのか」

「残念ながらその通り。6聖剣の2人以外、全員無傷ですからな」


「バカバカしい…。昨日の今日であんな事をするのは、間抜けのする事だ」

「しかし、この神殿に内通者がいるのは、間違いありますまい」



 司教とゴードンのやりとりが続くと、しばらくの間沈黙の時間となった。




──祭壇に置かれた6聖剣2人の首。


 そもそも大神殿には司教や多くの司祭らを守る為に、常に50人を超える聖騎士が警護に付いている。


 その警護を搔い潜って大聖堂までたどり着き、祭壇に首を置くのは至極困難であると言えた。

 仮に警護の聖騎士団を倒したとしても、すぐに騒ぎになるはずであるし、それ以前に不審者の目撃情報が全く無いのだ。



 つまりは、死霊術師ネクロマンサーの仲間や協力者が、この大神殿の中にいる。

 もしくは死霊術師本人が存在するかもしれない、という事であった。





 ことの発端は昨日より始まった。



──共同墓地にて動屍ゾンビの目撃情報あり。


 動屍ゾンビの数はおよそ20体。場所は大神殿から西に12キロ離れた場所で、3年前にもアンデッドの襲撃があった集落であった。


 大神殿にこの急報が入ると、すぐに緊急会議が開かれ討伐隊が結成された。


 司祭の代表格であり、アンデッドを抑え込む法力に優れたゴードン。その護衛に聖騎士部隊20騎。

 そしてその地域を管轄していた6聖剣ラディを、指揮官として派遣させたのだった。


 さらに司教リアムスは、3年前のアンデッド事件の被災地という事も考慮し、万が一に備えて6聖剣トマスが率いる20騎にも同行するよう命じた。



 討伐隊が現場に到着すると、共同墓地を徘徊していた動屍ゾンビとすぐに交戦状態となった。

 しかし、当初20体前後だった動屍ゾンビの群れは、次々にその数を増やし最後には100体を超えるアンデッドの群れとなったのだ。


「──と、とんでもない動屍ゾンビの数だ!」

「…これは、間違いなく死霊術師が近くにいるぞ! 気を付けろ!」



 大群となったアンデッドと死霊術師の存在に討伐隊は焦りを隠せずにいたが、さらに不可思議な現象を目の当たりにする。

 それはアンデッドの大群がゴードンや他の聖騎士には目もくれず、一直線に2人の6聖剣に向かって行くというものだった。


 それでも、聖騎士最強を誇る6聖剣の2人は、次々にその動屍ゾンビの群れを屠っていった。



───しかし予想外の事態が発生する。


 うごめ動屍ゾンビらの影から死角を付いて、大剣を持った1人の男が疾風の如く切りかかって来たのだ。


 不意を突かれた6聖剣の1人トマスは、そこで絶命。倒れたトマスの体には、すぐ様何体もの動屍ゾンビがその肉に喰らい付いた。


 そして、残ったもう1人の6聖剣ラディもその男と剣を交えたが、背後から動屍ゾンビに足を噛まれ隙を作ってしまうと、最後は正面の男に大剣で斬り殺されてしまったのだった。



 そして止む終えなくゴードンは討伐隊に退却の命を出し、残った聖騎士団は命からがら大神殿に帰還した。


 大神殿が誇る6聖剣の内の2人も失ってしまったが、あの状況で2人だけの犠牲者で事が済んだのはかなり奇跡的であり、また不審な点でもあった。



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