第2話 ルリアとアレス


 聖騎士候補生ルリア。


 彼女の卓越した剣技は、強さだけでなく美しさも兼ねている。彼女の容姿と相まって剣を振る姿に思わず見惚れる候補生の男達は多い。


 しかし、ルリアの男勝りで破天荒な性格を知ると、誰も彼女を口説こうなどとは夢にも思わなかった。



 そんなルリアは今、聖騎士養成所で行われた模擬戦に全勝し、木陰でようやく体を休ませる事が出来ている。

 そして幼馴染みで候補生の同期でもあるアレスに、模擬戦の感想を尋ねていた。



「──ちょっとアレス、聞いてるの?」

「…え? あぁ悪い、聞いてなかった」


 しかし今日のアレスはどこか上の空で、ルリアの声掛けに反応出来ずにいた。



 アレスとルリアがいる聖騎士養成所は、大神殿から1キロと離れていない立地にある。そして養成所のすぐ隣には、1000人を超える聖騎士が在籍する駐屯基地があり、候補生の殆は将来そこにいる聖騎士の様になる事を夢みていた。



「まったく、どうせ今朝の騒動の事を考えてたんでしょ?」


 ルリアは少々苛立ちながらアレスに尋ねる。


「……まぁな。まさか聖騎士最強の6聖剣が、あんな事になるとは…」



 6聖剣2人が無惨な姿で発見された事件は、瞬く間に人々の間に広まった。

 国の英雄である6聖剣が殺されて、阿修羅のごとく怒りに震える者もいたが、そのあまりに猟奇的で残忍な所業に、恐れおののく者の方が圧倒的に多かった。



「神聖な大聖堂で、あんな酷い事するなんて…」

「そうだな、悪魔の所業だ」



 怒りに震えていたルリアは、やがて何か思いたった様な表情を浮かべた。



「……私、ちょっとクリフの所に行って、詳しい話聞いて来る!」

「おい、ルリア待てよ!」



 ずっと目標であった6聖剣の内の2人が殺され、ルリアは居ても立っても居られなくなり、もう1人の幼馴染みである少年クリフの所へと走り出した。


 クリフも聖騎士養成施設の同期であったが、剣術の才能が全く無かった為数ヶ月で逃げるように2人の元を去っていき、今では神殿に使える司祭見習いになっていた。



「ルリア、大神殿は今でも大騒動になっている最中だ。クリフには会えないぞ!」

「大丈夫よ、何とかなるわ」

「……はぁ」



 アレスは大きな溜息をつくと、仕方無しにルリアの後を追って走り出した。

 ルリアは昔からこんな感じで、走り出したら誰にも止められない所がある。でもアレスは彼女のそういった所が嫌いではなかった。




────




 アレスの想像通り大神殿は司祭や修道女、そして少し離れた駐屯基地からも駆け付けた聖騎士団でごった返していた。



「──許せぬ、我が神殿の英雄2人を、あんな無惨な姿にするとは!」

「その通りだ! すぐに王国中の共同墓地に、聖騎士団を出兵すべきだ!」



 聖騎士団の騎士達は口々に「早急に出兵すべき」という主張を、司祭達に強く訴えている。しかし司祭側は慎重派がやや多い。


「聖騎士団の気持ちも痛いほど分かる。だが相手はあの死霊術師ネクロマンサーだぞ」

「それがどうした? アンデッドを葬るのが、我らの本来の役割であろうが!」



 大聖堂の片隅で、彼らの言葉に耳を傾けていたアレスとルリアだったが、衝撃的な言葉が2人の耳に飛び込んで来た。




──死霊術師ネクロマンサー


 忘れもしない。3年前、2人の故郷を襲った無数のアンデッドの群れ。

 それを操っていたのが死霊術師だ。

 腐敗臭を撒き散らしながら街を徘徊する動屍ゾンビ。そして目に入る生物は、何でも剣で切り付ける骸骨戦士スケルトン



 3年前の悪夢が、また蘇ろうとしていたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る