第13話 サイラス

図書室に向かう道を、男がわたしに歩調を合わせ歩いてくれるのがわかった。

案外優しい人なのかもしれない。


図書室に着くと、すぐ手前にある執務室に1人の男がいた。

こちらに気がつくと、「あ、え」というようなことを言ったけれど、男はお構いなしだった。


「コンラッド、彼女はセシリア・エディントン。エルランドのお客様だから。ここにいる間は好きなように出入りさせてあげてほしい」

「か、かしこまりました」


わたしはコンラッドにお辞儀をして、男の後をついて中へと入った。


図書室には見たこともないくらい多くの本が所狭しと並んでいる。


「好きに読んだらいいよ」

「ありがとうございます」


早速気になる本を2冊ほど選んで、どこで読もうかと思案していると、男が席をすすめてくれた。

その席に座り、1ページ目をめくったところで、男がじっとこちらを見ていることに気がついた。


「あの、そこでずっと見ているおつもりですか?」

「だめ?」

「ちょっと……」

「そうか」


男は残念そうな素振りを見せた。


そういえば、わたしはまだこの男の名前を聞いていない。


「名前を教えていただけませんか? 何て呼んだらいいのかわからないから」

「サイラス」


男は窓の外を見ながらそう言った。

どうやら今度は本当の名前っぽい。


「本は持ち出してもいいように言っておくから。部屋で読んだらいいよ」

「そんなこと、大丈夫なんですか?」

「大丈夫」


何をするわけでもなく、サイラスはしばらくその場合にいたものの、やがて、「そろそろ仕事に戻らないといけないから、僕は失礼するよ」とだけ言って去って行った。





別館に戻ると、ドアの前に、籠に入った寄せ植えの花が置かれていた。

薄いピンクのイグリッシュローズ。


エルランド様だろうか?

それとも……サイラス?



その日は疲れていたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る