第7話 本当の名前

ドナフィー公爵家には絶対に迷惑をかけるわけにはいかない。


「わたしがミラベル様に無理やりお願いして、舞踏会に連れてっていただきました。お噂のエルランド王子を間近で拝見したくて。だから、ミラベル様はわたしの願いを聞き入れてくださっただけで、国王の命に背いたのはわたしです。全てわたしが頼んだことなんです」


一気に話終えてから、そっと男の顔を見上げた。

男は、少し眉を顰めると言った。


「で、実際のところはどうなの? エルランドには興味持ってなかったよね?」


バレてる……


「それは……」

「ここだけの話にすると約束するから。真実を聞かせてくれる?」


仕方がなく、自分が男爵家の娘であり、今はドナフィー公爵家の侍女であることと、今回舞踏会に行った経緯を話した。


「ふうん」


男はようやく納得したようだった。


「それで、君の本当の名は?」


もう隠す必要がなくなったので正直に答えた。


「セシリア・エディントンです」

「セシリア……偶然とはいえ、本当にローズだったんだ」

「こんなところにお一人でいらしていいんですか? エルランド王子は?」


男は少し黙っていたけれど、初めて微笑んだ。


「エルランドは……疲れて休んでいる。だから僕には時間がたっぷりあってね。セシリア、少し話し相手になってくれる?」

「それは出来かねます。わたしはミラベル様のお近くにいないと」

「なんだ、それなら」


男は、すたすたとザカリー王子とミラベルのところに歩いて行った。

そして、いきなり声をかけた。


「ザカリー…様」


その一言で、ザカリー王子が驚いた顔をした。


「失礼します。エルランド……様がお休みで、時間をもてあましているんです。ミラベル様へ、話し相手にセシリアをお借りして良いか、許可をもらっていただけませんか?」


男のあまりにも堂々とした態度に、ザカリー王子は唖然としながら返事をした。


「あ、ミ、ミラベル、いいかな?」

「もちろんです」


ミラベルはにっこりと微笑んだ。


男は一礼すると、こちらに戻ってきた。


「いいってさ」


わたしは男とザカリー王子とのやりとりをはらはらとしながら見ていた。


王子に声をかけてもらう前に自分から話かけるなんて……ザカリー王子もあまりの無礼な振る舞いにひどく驚いていた。

それでもお咎めがないのは、彼が客人であるエルランド王子の従者であるからに他ならない。


オルグレン王国ではこういったことは問題にはならないのだろうか?

それにこの男は、エルランド王子のことも呼び捨てにして……

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