第7話 薬師のハナエ


 医者の見立てだとミサキは余命3ヶ月から半年ほどだと言う。ディノは街の薬師ハナエを尋ねた。


「あたしが作ってやるよ」


 薬師の老女はそう言った。


「作るには高い材料と時間がいる。しかも、おそらくその病気は治らない。それで金貨30枚だ。坊やに払えるかい?」


「わかった。用意する」


 ディノの言葉を聞いてハナエは少し驚いた。そんな大金をこんな子供に用意できる訳ないのだ。

 しかも病気は治らないと言っているのに。


 だが、この子供は落ち着いた目で、金を用意出来ると答えた。ディノの話しを聞くと、患者は間違いなく乳のしこりから身体全体的に悪い所が広がる病気だ。

 しかも若い。もしポーションがあっても、ほぼ助からないだろう。


 ハナエはかつて、大国アイエンド王国にいた。

 王都の学校を出て薬師ギルドで働いていたハナエは技術を磨き経験を積んでくると、それまで常識とされていた技術よりも効果的な技術がいくつもある事がわかってきた。


 しかし、ハナエの薬師としての技術は受け入れられなかった。

 いくら効果的でも、それを認めてしまうと既存の薬師達を否定する事になってしまうからだ。材料の仕入れも既得権益があり、一度よく売れた薬はもう製法は変えられないのだ。


 そんな中、ハナエに魔女の手先じゃないかと言う疑いが持たれた。ハナエの作ったポーションが、ギルドのポーションより効きすぎるのだ。


 その事を教えてくれたのは、ギルドに勤める職員の1人だった。

 かつてその職員の母親がなかなか治らない病気を患っており、藁にもすがるつもりでハナエの調合した薬を与えた所、持ち直した事があった。

 その事を恩に感じていたのだ。

 そこからハナエの行動は早かった。その日のうちに最低限の荷物を持ってアイエンド王国を脱出した。


 いくつかの国を旅してこのギルバレにたどり着いたのは30年ほど前の事だ。


 荒っぽいハンターの街ではあるが、薬師としての需要もあるし何より薬草が手に入りやすい。ここはどうやらエンパイア王国に属するらしいが、領主らしき貴族はいない。そんなギルバレを気に入り住んでいた。


 ハナエはディノと少し話して、この子供の異常性に気づいた。

 薬で治るものでは無いが、幼少期などに辛い体験をすると無感情になったりする症状だ。ハナエはそれを心の病気と呼んでいた。


 ただ、その割には理性的だと感じたが自分だって全ての病気を知っている訳ではない。様々な症状があるのだろうと思った。


 ディノは薬が出来る3ヶ月後までに金を持ってくると言っていた。おそらく本当に持ってくるだろう。ハナエはそう感じていた。


 最高品質のポーションは材料の仕入れだけでも金貨30枚はかかる。なにしろ、どこで取れたのかわからない様な植物や、ダンジョンの最下層にいる様な魔物の臓器などが必要だ。それでも足りない材料は、自分の持っていた物を使った。金貨30枚をもらっても完全に赤字である。


 そんなポーションをディノの言う患者に飲ませても助かる事はないだろう。

 しかし、ハナエは全身全霊をかけてポーションを作った。

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