第12話(4)一人目

「……やったな! 帝王の軍勢を撃退したぞ!」


 街に戻った小太りの勇者が小躍りして喜ぶ。


「ああ、そうだな……」


 リュートが頷く。


「しかし、あっけなかったな! 帝王が倒されたと分かるやいなや大混乱に陥って!」


「まあ、戦というのは案外そういうものだ……」


「街から報奨金も出たぞ!」


「良かったな……それは皆さんに分けてやれ」


 リュートがベルガたちを指し示す。


「あ、ああ、そ、そうだな……」


 小太りの勇者が報奨金のたんまりと入った袋をベルガたちに渡す。リュートが頷く。


「報酬などは正当に分配されるべきだからな……」


「う、うむ……それで、街の駐屯部隊から相談を受けたんだが……」


「なんだ?」


「南方のある土地で邪王が復活したらしいんだ……」


「ああ、あの地方に封印されていた邪王か……」


「知っているのか?」


「その手の情報は頭に入っている……」


 リュートが自らの側頭部を右手の人差し指でとんとんと叩く。


「そ、そうか……さすがだな……」


「それで? まさかとは思うが……」


「そのまさかだ! 今度は邪王討伐に赴こうと思う!」


「……本気か?」


「本気も本気だ!」


「ふむ……」


「なに、帝王を打倒した俺たちなら、邪王も恐るるに足らない!」


 小太りの勇者が胸を張る。リュートが腕を組む。


「う~ん……」


「ち、違うのか?」


「……いや、可能だ」


「そうだろう! ついてはメンバーの補充をお願いしたいんだが……」


「その前に今回の報酬を頂こうか……」


 リュートが右手を差し出す。小太りの勇者が苦笑交じりで応える。


「しっかりしているな……そう言うと思って、用意しておいた! ほらっ!」


 リュートが受け取った金を確認する。


「……確かに。では、これをそっくりそのままお返しする」


「……うん?」


「よし、受け取ったな。手切れ金の成立だ」


「て、手切れ金⁉ ど、どういうことだ⁉」


「これでお前とこのパーティーは全くの無関係になった」


「そ、そんな! 勇者なくしてパーティーは成り立たないだろう⁉」


「勇者ならいるさ……ここに」


 リュートがシャルを指し示す。小太りが驚く。


「えっ⁉ シャ、シャル……」


「坊ちゃま、申し訳ありません! シャルは自らの眼で世界を見てみたくなりました……」


 シャルが深々と頭を下げる。リュートが笑みを浮かべる。


「まあ、そういうことだ……」


「ふ、ふざけるな! 皆がそれに納得するはずが……」


「オッカ、シャル好き」


「えっ⁉」


「シャル殿の為なら、どんな武具でも作ってみせます……!」


「まだまだ経験不足な面も否めませんが……」


「その辺りはお姉さんたちが教えてあげましょう~♪ 色々と……」


「ええっ⁉」


 クイナとレプとルパの言葉に小太りが驚く。


「シャルくんはなんだか支えてあげたいと思うんです……」


「分かる! シャルっちは母性本能をくすぐるんだよね~。マイもそう思うっしょ?」


「ま、まあ、否定はしないよ……」


「えええっ⁉」


 ユキとカグラとマイの言葉に小太りがさらに驚く。


「……正直、太っている男の人はちょっと……」


「えっ……!」


 ファインの言葉に小太りは愕然とする。


「ごめんなさい! 貴方の為に戦う気にはどうしてもなれません」


「ええっ……」


 アーヴの言葉に小太りは唖然とする。


「……美少年しか勝ちません……」


「えっ……」


 ベルガの言葉に小太りは茫然とする。


「……よし! これでパーティーメンバーが完全に出揃ったな……それじゃあ行こうか」


「わ、わりと鬼畜の所業……! まさか最初からこれを狙って? お、恐ろしい人……!」


 小太りを置いて、メンバーを引き連れて出発するリュートの背中を見てイオナが呟く。

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