第11話(3)水の四天王
「リュ、リュートさん、今度はどちらに?」
イオナが小走りのリュートに問う。
「町の南側だよ」
「ストームオークを退治したことでオークの集団は退却しました」
「もちろんそれは見ていたさ。マイさんの追い打ちも決まったな」
「一度崩れると脆いものですね」
「頭がやられれば、どんな大軍だってあんなものさ」
「私たちも退却しないのですか?」
「あいにくそういうわけにもいかないのさ」
「やはり……」
「そう……」
「わ、わああー!」
「い、いやあー!」
「だ、誰か、お助けをー!」
人々が怖がって逃げ惑う様子がリュートたちの目に入る。
「やはり南側にも闇の帝王軍の手が回っているな」
「そ、そんな……」
「どうやらなんとしてもこの街を我が物にしたいらしい」
「ええ……」
イオナが困惑する。
「さてと……」
リュートが周りを見回す。
「リュ、リュートさん?」
「……この建物の二階が良い感じだな」
リュートがある建物に入り、二階へと上がる。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「うん、良い眺めだ」
リュートがベランダから街を見下ろして頷く。
「ま、また観察をするんですか?」
「ああ、義務みたいなものだからな」
「ぎ、義務……」
「そう、義務だ」
椅子に腰を下ろしたリュートが再び頷く。イオナが問う。
「か、加勢とかした方が良いんじゃないですか?」
「しないよ。迂闊に手を出したら、かえって足を引っ張ることになるからな」
「は、はあ、そうですか……」
「さあ、やって来たぞ……」
リュートが視線を向ける。その先にはコボルトの集団がいる。
「あっはっはっはっ!」
オークたちが妙に陽気な笑い声を上げながら迫ってくる。足は速い。
「動きの格段にいいコボルトたちですね⁉」
「闇の帝王の軍勢に属しているんだ……精鋭中の精鋭なんだろうさ」
「マ、マズいのでは……⁉」
「まあ、見ていなって……」
「ええ? あっ⁉」
イオナが視線を向けると、小太りの勇者たちが現れる。
「さてと、ここではどう出るかな……」
リュートがグラスに注いだ酒を一口含んで呟く。
「ふん、コボルトどもが! 調子に乗るのもここまでだ!」
小太りの勇者が張り切って叫ぶ。
「うん?」
「なんだあ? お前はよ……」
「俺は勇者だ!」
「……」
コボルトたちが黙り込む。小太りの勇者が尋ねる。
「ど、どうした?」
「……あっはっはっはっ! おい! あれで勇者だってよ!」
「し、信じられねえ!」
コボルトたちが腹を抱えて笑い出す。
「み、見くびりやがって!」
小太りの勇者が剣を抜いて斬りかかる。
「おおっと!」
「うぶっ⁉」
勇者の攻撃は身軽なコボルトにあっさりとかわされ、小太りの勇者は転んでしまう。
「へっ、どんくせえ野郎だぜ……手始めにてめえを……」
「ひ、ひいっ……!」
「坊ちゃま! お助けします!」
「!」
シャルがそこに弓矢を放って、何匹かのコボルトを鋭く射抜く。
「こ、このガキ! な、生意気な⁉」
「ふん……!」
「のわっ⁉」
そこに矢よりも速い水滴が飛んできて、それを食らったシャルは転倒する。
「はん……」
「あ、あれは……⁉」
「『アクアコボルト』だな……奴もまた闇の帝王の配下の『四天王』の一角だ……」
イオナに対して、リュートが説明する。
「す、水滴で攻撃していましたよ⁉」
「またまた極めてレアだな……だからこその四天王なんだろうが……」
「ま、また、シャル君が危険ですよ⁉」
「だから、勇者の心配もしてやれよ……」
「ぼ、坊ちゃま! こちらに!」
体勢を素早く立て直したシャルが小太りの勇者を守るように構える。
「ふん、二人まとめて水滴で蜂の巣にしてやるよ……!」
アクアコボルトが指を弾こうとする。
「むうっ……!」
「そらよっ!」
「『ブルー』!」
「‼」
「ルパさん!」
「いっただっきまーす♪」
ベルガが叫ぶと、ルパが飛んできた水滴を全て口に含む。アクアコボルトが戸惑う。
「の、飲みやがった⁉」
「ふふん……とっても良い気分だね~」
「な、なんだと⁉」
「そらよ!」
「うおっ⁉」
ルパの鋭く、強烈なパンチとキックがアクアコボルトに当たる。アクアコボルトが後方に吹っ飛ばされる。他のコボルトたちが慌てる。
「お、お頭!」
「ここは一旦撤退だ!」
「そうはさせません……アーヴさん!」
「はい……!」
「⁉」
アーヴが剣を振るい、コボルトたちをバッタバッタと切り捨てる。
「ベルガさんが魔法で水滴を酒に変え、それを飲んだルパさんが酒の力を借りて暴れて、そこにアーヴさんが剣で追い打ちをかける……見事な連携攻撃だな……」
リュートが得意そうに頷く。
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