第8話(1)顔合わせ

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「約束は果たしてくれたか?」


 ある街の高級レストランのVIPルームで、小太りの勇者が尋ねる。


「そうでなければ、ここにはいないさ……」


 リュートが葡萄酒を一口飲んでから答える。


「ほう、ということは……?」


「目ぼしいのを十人抑えた」


 リュートが両手を広げる。


「十人⁉」


「足りないか?」


「い、いいや問題ない……しかし……」


「しかし?」


「よく見つけられたな、たった三ヶ月で……」


「三ヶ月もあれば俺にとっては十分過ぎる期間だ」


「さ、さすがは伝説のスカウトマン……」


「世辞はいい」


「それで、あの……」


 小太りの勇者が言いにくそうにする。


「どうした?」


 リュートが首を傾げる。


「も、もう一つの条件は?」


「ああ、問題ない」


「そ、そうか……」


 小太りの勇者がニヤリと笑う。


「もう一つの条件?」


 リュートの隣に座るイオナが首を傾げる。


「……なんでもない」


 リュートが首を左右に振る。


「そういえば彼女は?」


「臨時のアシスタントだ」


 小太りの勇者の問いにリュートが答える。


「臨時……ということは?」


「この件が終わればフリーだ」


「そうか、お嬢さん、俺のパーティーに加わらないか?」


「ええっ⁉」


 小太りの勇者の申し出にイオナが驚く。


「悪いようにはしないぞ」


「い、いえ、私はスカウトマンとして活動していきたいと思っていますので……」


 イオナが苦笑交じりで答える。


「そうか、気が変わったら連絡してくれ」


「は、はあ……」


「……本題に入っても良いか?」


 リュートが口を開く。


「あ、ああ……」


「十人は現在別室に待機させている」


「よし、行こう」


 小太りの勇者が立ち上がろうとする。リュートがそれを制する。


「そう慌てるな。一度に会ってもどうせバタバタとするだけだ。一組ずつこの部屋に呼ぶから、そこで顔合わせをして、最終的な判断を下してくれ」


「う、うむ……」


 小太りの勇者が頷いて、席に座り直す。リュートがイオナに告げる。


「それじゃあ、さきほど伝えた順に連れてきてくれ……」


「わ、分かりました……」


 イオナが席を立って部屋を出る。一人目の女性が部屋に入ってくる。リュートが促す。


「……ベルガと申します」


「ほう、眼鏡がよく似合うな……」


 向かい合って座ったベルガを小太りの勇者がニヤニヤと見つめる。


「彼女はイケウロナ魔法学院の教師だったが、それをヘッドハンティングした」


「ふむ、知的な美人か……」


 リュートの説明に小太りの勇者が頷く。


「パーティーには優秀な魔法使いは欠かせないものだからな。その分彼女は実力的にはもちろんのこと、教養がある人物としても申し分ない」


「ふむ、ふむ……」


 小太りの勇者が腕を組みながら頷く。


「……なにか質問があるか?」


「……眼鏡を外してみてくれないか?」


「は?」


 ベルガが思いきり顔をしかめる。


「おっと、それはまだ早いかな、はっはっは!」


「……どうする?」


「決まっているさ、合格だ!」


 小太りの勇者が大声で告げる。


「ご自分の名前をどうぞ……」


 リュートが促す。


「ア、アーヴと申します……」


「ぽっちゃり系か……まあ、それも悪くないな……」


 小太りの勇者が顎をさする。


「彼女はとある騎士団に所属する騎士だったが、実力者揃いの剣術大会で優秀な成績をおさめたので、スカウトさせてもらった」


「女騎士……それだけでもそそるものがあるな……」


「あ、あの……」


 アーヴが戸惑う。リュートが小太りの勇者に問う。


「……何か質問は?」


「俺も剣さばきには自信があってね……真ん中の剣だが」


「は、はい?」


 アーヴが露骨に困惑する。


「まあ、じきに分かるさ、はっはっは!」


「……どうするかね?」


「合格だ!」


 小太りの勇者がかなりの大声で告げる。


「……それでは、ご自分の名前をよろしく……」


 リュートが自己紹介を促す。


「アタシはファインと言います……」


「おさげ髪の少女か、初々しいな~」


 小太りの勇者が両手で頬杖を突きながら、笑顔でファインを見つめる。


「彼女はある高名な大賢者の弟子だ。薬師としても相当の腕だが、より本領を発揮出来るのがモンスターテイマーだ。モンスターに関する知識はずば抜けている」


「薬師か~是非、処方してもらいたいね~恋患いに効く薬を~」


「はあ?」


 ファインが首を傾げる。リュートが小太りの勇者に尋ねる。


「……何か質問はあるかな?」


「俺のモンスターは飼い慣らせるかな~?」


「は、はあ?」


 ファインが額を抑える。


「じっくり調教してもらいたいね。最初はこちらの番かもしれんが……はははっ!」


「どうだい?」


「合格!」


 小太りの勇者が結構な大声で告げる。

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