第1話(2)見極め?
「……着きましたね」
「ああ、降りるぞ」
運賃を支払い、リュートとイオナは馬車を降りた。そこには広大な敷地が広がっていて。その敷地内には立派な建物が建っている。
「これがイケウロナ魔法学院……さすが名門と呼ばれるだけありますね。漂っている雰囲気が他の地域の魔法学校とは全然違う……」
「さっさと行くぞ」
「ああ、はい」
リュートとイオナは関係者用の入り口から魔法学院に入る。
「会場までご案内します」
「いえ、結構。場所は分かっておりますので」
「え?」
担当者の案内をリュートは断る。
「午前中は座学の試験ですよね? それまでは適当に時間を潰しておきますので」
「は、はあ……それでは失礼します……」
担当者がその場を離れる。イオナが首を傾げる。
「あの……やっぱりちょっと早すぎたんじゃないですか? 年に一度のイケウロナ魔法学院の入学試験とはいえ、実技試験は午後からですよ?」
「……そんなことは分かっているさ」
リュートは正門から校舎までのちょうど中間あたりにある噴水前のベンチに腰を下ろす。
「ま、まさか、ここで時間を潰すんですか?」
「そうだな……」
リュートは足を組みながら、イオナの問いに答える。
「お昼まで数時間ありますよ?」
「ああ」
「ああって……」
「そろそろ来るぞ……」
「え? ああっ!」
なにやらガヤガヤと話し声が聞こえてきたかと思うと、入学試験の受験生が大挙して正門をくぐってくる。リュートはそれを見つめる。
「……」
「す、すごい人数が……」
「当然だ、一万人は受験するからな」
「い、一万人⁉」
「なんだ、知らないのか?」
「い、いえ、知っているつもりでしたが、こうして見ると圧巻ですね……」
「それでも受かるのは百人くらいだがな」
「百人⁉ 百分の一……エリートしか勝ち残れないんですね……」
「ふっ、エリートね……」
リュートは笑う。イオナが首を傾げる。
「なにか?」
「いいや、なんでもない」
受験生たちが噴水の脇を次々と通り過ぎていく。イオナが口を開く。
「……もしかしてなんですが……」
「……言ってみな」
「この時点で受験生を見極めているんですか?」
「はっ、さすがに見極めるまでにはいかないさ。ただ……」
「ただ?」
「座学の試験には俺らは立ち入ることが出来ない――もっともそんなもんを見てもしょうがないが――となると……」
「全ての受験生を確認することが出来るのはここだけ……!」
「そういうことだ。なかなか察しが良いな」
リュートは笑みを浮かべる。イオナが問う。
「何を見るんですか? 顔ですか、体つきですか、雰囲気ですか?」
「雰囲気ってなんだ、雰囲気って……」
「いや、すごい魔法使いだぞって感じの……身に纏っているオーラとも言いますか……」
「オーラ一流、魔法三流ってのはいっぱい見てきたよ。いわゆる、見かけ倒しって奴だな。そういうのを見ているわけじゃない」
「そ、そうですか……」
「かわいかったり、綺麗な女の子はチェックするけどな」
「え? じょ、冗談ですよね……」
「さあ、どうだかね……」
リュートがわざとらしく両手を広げる。
「……あ、そういえば、これを持ってきていたんだった!」
イオナが鞄から懐中時計のようなものを取り出す。リュートがそれを横目で見て尋ねる。
「……なんだそれは?」
「え⁉ ご、ご存知ないんですか⁉」
「ご存知ないね」
「簡易型の『魔力測定器』です。これを人にかざせば、その人の魔力がどれくらいか分かる優れものです!」
「ふ~ん、最近のは随分と小型化しているんだな……」
「お、お持ちじゃないんですか⁉」
「そういうもんに頼っているようじゃ三流以下の五流だな」
「ご、五流……ですが、精度は極めて高いですよ?」
「こんな人ごみじゃあとても使えないだろう。誰の魔力か分かったもんじゃない」
リュートは目の前の大勢の人々を指し示す。イオナは後頭部を抑える。
「あ……」
「貴様! 平民の癖に生意気だぞ!」
「……やれやれ、受験前に騒ぎを起こすのが貴族のたしなみなのか?」
「!」
イオナが目をやると、近くで金髪の少年と黒髪の少年が何やら言い合っている。注目が集まっていることに気付いた金髪の少年が黒髪の少年を指差す。
「ふん、まあいい……この由緒あるイケウロナ魔法学院には貴様のような下賤の者はどうせ受かりっこないからな。相手にするだけ無駄だった!」
金髪の少年は吐き捨てて、その場を去る。
「ふう……」
黒髪の少年は軽くため息をつく。そこに赤髪の少女が何やら話しかけている。
「かわいい子を巡ってのトラブルですかね?」
イオナが苦笑する。
「おい、測れ」
「へ?」
「そのおもちゃであの黒髪の少年の魔力を測れ」
リュートがイオナを促す。
「え……こういうもんに頼るのは五流なんじゃ……」
「早くしろ」
「は、はい……!」
イオナが魔力測定器を黒髪の少年に向かってかざして驚く。リュートが問う。
「どうだ?」
「い、いや、すごい数値が出ました! し、信じられない……」
「そうか……」
「こ、故障かな?」
イオナが測定器をぺたぺたと触る。
「精度が高いんだろ、ならば信用していい」
「た、頼っていいんですか?」
「判断材料の一つとして使うなら、多少は意味があるさ」
「は、はあ……そうですか……」
「数年に一度、現れるんだよな、ああいう奴が……」
リュートが黒髪の少年の方を見つめながら、笑みを浮かべて呟く。
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