罰ゲームは全力で回避する!
花梨の希望を兼ねてネットで希望のお店に行って満足するまで食べてからの結城さんが待つ大学へと向かう。
ランチしてから行くからと伝えた所ですでに結城さんの希望する予定はすべて無駄になった瞬間。
まあ、どうせ仰々しく全員集めての朝礼スタイルで俺達は皆さんの前に立たされるという罰ゲームを受ける事になるのだろう。
さすがに何回かされたら今回もある事は想像がつくし、想像が出来た以上全力で回避するのが俺達の権利。
皆さんもなんでお前たちみたいな訓練を受けた事もないようなガキにと腹の底のどこかにはあるだろう何かを隠していることぐらい俺だってわかっている。
俺達だってなんであれだけ訓練してあれだけダンジョンに潜っていて10階もクリアできないんだよと同じように腹の底に押し付けた物ぐらい持っている。
挙句の果てに見殺しにされかけたしね。
一番の問題はダンジョンをレジャー化したり、リハビリ施設みたいな事に使われたからこそどんどんダンジョンの危険性が忘れられたのが緊張感を失う原因にもなったのだろうけど。
だからと言って俺達を神聖化する必要はない。
まあ、俺達とダンジョン対策課の皆さんと友好的関係だというのをアピールする場だとしたら……
俺達が大学ダンジョンに出入りするだけで十分じゃなかろうかと言う結論。
そして遂行するためにも花梨のお願いを聞いてから岳のお土産を買いに回ってからの移動の渋滞に巻き込まれて無事辿り着いた夕方。
「早々に無期延期の連絡を回しておいて正解だったな」
「いや、俺としては結城さんが子猫まみれになっている理由を聞きたいよ」
「親猫にまだ10階以降は早いと言われて置いてきぼりにされてにゃーにゃー鳴いていたところを保護しただけだ」
「なにその設定……」
ズボンのポケットから見えるのは仔猫用ちゅーる。そして手に持つのは猫じゃらし。こちらはそこらへんで生えていた草だと思うが十分子猫たちを楽しませる分には役目をはたしている。
だけど周囲を見ろ。
子猫に骨抜きになっている結城一佐。
これがお前らが頑張った果てに手にするだろう地位の人間の姿だ。
このまま結城さんの部下で良いのかと聞きたかったけど俺の耳に入ってくる噂話は
「このまま結城に対策課を任せていいのか」
「手柄独り占め、おかしいだろ」
「あんな風に遊んで階級が上がるとかありえんだろ」
昇給の話もあるようだ。
って言うか手柄独り占めってあのおっさん見えない所で徹夜で仕事をしているとか、俺達がこっちのダンジョンの攻略をしやすいように色々手配したり、ましては紆余曲折あったとはいえうちのダンジョンを攻略するためにどれだけ気を使ってくれたかは俺達だけが知る事。
それをただ遊んでいるとか手柄を独り占めとか分かってなさ過ぎて……
正直こういう時聞こえすぎる耳が憎たらしい。
結局のところそれは悪意でしかないからこそ聞くに堪えない事も山ほどあった。
地位の上ほど恨みを買うではないが少なからず嫉妬を集めている事は理解できた。
それでどうにかなる結城さんとは思えないが、それでも聞いて嫌な思いをする以上俺が知ってる人が理不尽に言われるのは嫌なんだ。
まあ、そこは何とかなるだろうからどうでもなると思っているが……
今雪たちにこっちに俺達が着た事を伝えて帰ってこいと言って待っている間。
俺はさりげなく林さんに
「ひょっとして派閥とかあります?」
「これだけ大きな組織でない方がおかしくないか?」
そういう事だろう。
うん。わかってたけどね。
確認って必要じゃん?
この一つで何かを察した林さんに
「誰だ?」
「さあ?ただ今一番嫉妬される人ですね」
「あああ、あの人だから俺達現役でありながら休業状態でいられたのに……
まて。肉体的より精神的に過去一ハードだった気もしたが……」
「過ぎた日の事は忘れましょう。現在も大切ですが、未来に目を向けましょう」
どう考えても俺達ハードモードでダンジョン潜っていた事を思い出しては記憶に蓋をする。
「忘れろと言ってもなぁ」
なんてぼやく林さんだが
「11階の温泉に足を運んでいただけと思えば復帰するためのトレーニングとしては十分じゃないですか」
そのうち10階まではフラットなレンガ敷の雨風のない通路。気温もほんのり肌寒い程度に感じるベスト状態。
そして俺のしでかしで見晴らしの良い11階の中岳が作った温泉への遊歩道を通っての崖登り。
そこそこレベルがあれば問題ないだろうし、壁走りを習得すれば地面を歩くように壁も歩くことが出来る。
俺はジャンプで一気の登る派だったけどね。
「とはいえあの温泉にはほんと救われた。
あれだけの広範囲の火傷に水ぶくれが破れて、細菌の感染の危険性から回避できたとは言え薄い皮膚一枚の回復状態。
すぐに皮膚がされて出血しての繰り返しの日々。
すぐには治らないのは分かってはいたが何度も足を運び源泉水を飲んでを繰り返してここまで完治したんだ」
見る限りではあれだけの重症の火傷を負った人の姿とは思えない。
それは千賀さんの切り落とされた腕の切口同様で。
でもそれは表向きの事で……
「記憶が痛みを思い出させる、夢であの日の事を思い出しては火傷が治ったのが夢ではないか確認する日々、今でお直らないよ」
そんな俺達の知らない林さんの言葉。
「沢田君になんであのお守りを三輪だけではなく私達の分を用意してくれなかったのか……
正直恨んだ日々もあった」
うつむいて顔を両手で隠す林さんはそのまま口を開き
「まったくの逆恨みでしかない事は分かっててもだ」
こういう所を吐露できるのが林さんを恨み切れない所だ。
「沢田君を知って理解できる。
目の前に死地に飛び込む三輪を思っての事だという事、ちゃんとわかってる。
だが、現場の人間としてはアレがあればひょっとして助かった命があったのでは、なんて考えてしまうのだよ」
まったくもって理不尽な逆恨みだ。
料理を美味しく食べてくれて少なからずの仲間意識が芽生えた相手に対する思いやりでしかない優しさ。
それにすがるのは間違いだと分かっていてもすがらずにはいられない心。
「でも、今じゃマロマント小さく切ってみんな持ってるんでしょ?」
「ああ、どれだけのマロを駆逐したか」
珍しく感情的になっていた林さんがすぐにいつもの口調に戻るも
「俺はそれでも医師だから。
一人でも命を救い、怪我を癒す。
それが俺の使命だと誓っている」
誰にとは聞かない。
過去に通り過ぎた人とか、目の前の人達とかそういう事は聞く方が野暮だろう。
きっと全部と言う強欲さをしたたかに隠している人に対して問うものじゃないと余計な事は口にせず
「明日の朝一で帰ります」
一刻も早く帰りたかったけど、この人のどこかくすぶっているわだかまりを聞けて真夜中の危険な山道を走るよりも明るい時間の移動をしたいと言えば林さんは
「明日に帰れると思ってたのですか?」
不穏な言葉をさらりとおっしゃって
「お池の人達の代理からのお言葉とか預かっているんだから絶対帰るの禁止だ。
頼むからうちの上からの言葉は全無視してもいいからこれだけはしてから帰れ。
お前たちには感謝しかないが山にいるほうが色々と平和なのを知っているか?!」
「なんだか俄然ここに居残らないといけない気がした」
「トイレがあるだろ!」
「だった!そして冬対策まだしてないし!
ちょ、明日ホムセン巡りしよう!安全に引きこもれるように買いだめしないとガチヤバいし!!!」
なんせ冬場になるとうちの道は岳の家まで徒歩でしか交通手段がなくなる。
イチゴチョコ大福に子供がスキー場で遊ぶようなソリを引いてもらうという手段もあるが、さすがに……
「東京なら犬用のソリ売ってるかな?」
「ネットで買いなさい」
本格的な物を買っていいのにと思いながらも却下された言葉に顔を歪めての抗議、綺麗に無視した林さんの誰にも媚びないメンタルの強さを思い知るのだった。
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