第16話 盗賊

 遊雷とクレアがダンジョンに行った日から、五日が過ぎた。


 魔力を抑える件については、遊雷はそもそも隠蔽魔法を持っており、魔力を隠すことができた。おかげで遊雷は誰とでも気軽に話せるようになった。


 ただ、クレア曰く、遊雷が弱い魔物に見えてしまうため、何も知らない者には舐められる可能性があるとのこと。それが問題になるかは未知数なので、しばらくは様子見。


 ダンジョン探索も続けていて、地下九階までは見て回った。目的は、ダンジョン内で見つかるアイテム探しと、戦い方の訓練。特に、遊雷は戦い方に関してド素人なので、強力な魔法によるごり押しではなく、基礎的な戦い方から学んでいるところ。


 地下九階までで出現する魔物は、遊雷にとっては雑魚の部類。しかし、魔法を制限して戦うと、決して楽勝とはいかなかった。


 遊雷はクレアに習って剣も扱っているのだが、「あなたは剣よりも魔法で戦った方が良い」と言われている。剣術スキルもないので、あまり剣には向いていないのかもしれない。


 なお、剣術スキルがなくとも、剣は扱える。ただし、スキル持ちのように専用の技は使えず、成長速度も控えめ。ただ、剣を扱っているうちに剣術スキルを習得することもあるそうなので、遊雷は少しだけ期待している。


 クレアの態度は相変わらずで、特別親しくもなれないし、かといって距離を置かれるわけでもない。


 クレアと親しくなるため、というわけでもないのだが、遊雷はクレアにエレノアが所有していた剣を譲っている。可能なら遊雷が使いたいところだったのだが、剣術が拙すぎて宝の持ち腐れ状態だったので、きちんと扱えるクレアに譲ったのだ。


 クレアは生前のエレノアを知っていたし、その剣が雅炎がえんつるぎという宝剣だということも知っていたので、恐縮した様子だった。それでも、誰も使い手がいないよりは良いだろうと、自分が使うことを決めた。


 そんな日々を過ごし、今日もまた朝からダンジョン探索に出かけようとしたところで、遊雷は町に不審者が入り込んでいるのを発見した。



「あの風体は盗賊かな? グリモワの町が急に無人になったって噂も、そろそろ各地に広まってるはず。そりゃ、盗賊も沸くかー」



 遊雷とクレアがいるのは、相変わら町の中心部にある城。周囲より高い場所にあるため、三階の窓からは町が一望できた。



「……あいつら、雇えないかな? 城内とか町の管理をしてくれる人が欲しいんだよなー」



 町はまだ、遊雷が壊滅させたままの状態で放置されている。つまりは、衣服などが町にも家の中にも散らばっていて、全く掃除されていない。たった二人だけの生活なので、管理が全く行き届かないのだ。


 グリモワを拠点にし続けるかは不明だが、綺麗にはしたいと思っていた。



「クレア、盗賊って清掃員として雇えるかな?」



 遊雷は隣のクレアに尋ねる。



「難しいと思う。盗賊はとても身勝手で、まっとうな仕事をできる連中ではない」


「そっか……。清掃させたいなら、無理矢理させるしかないか……」



 遊雷には、この世界の盗賊のしっかりしたイメージがない。なんとなく危険な存在、というくらい。



「とりあえず、一回話をしてみようかな。どんな連中なのか気になる」


「……盗賊はろくなものじゃない。無駄だと思う」


「まぁまぁ、話してみたら案外いい奴かもしれないだろ? 私はちょっと行ってくるけど、クレアも来る?」


「……それは、命令?」


「命令ではないよ」


「なら、行かない。あいつらを捕まえるというのなら行くけれど、雇うのは反対」


「……クレア、盗賊は嫌い?」


「嫌いだ」



 クレアが明確な嫌悪感を滲ませる。



(この世界の盗賊、よほど酷い連中なんだな……。地球で言うと、平気で人を殺す犯罪者ってイメージか……?)



「わかった。じゃあ、クレアは少し待ってて。探索に出発するのは一時間後くらいで」


「……わかった」



 遊雷は、窓からそのまま地上に降りる。ダークリッチになり、身体能力も体の丈夫さも圧倒的に向上しているので、これで全く問題はない。


 遊雷は身体能力を生かしつつ、建物の屋根の上を進む。


 南区の元繁華街に到着し、屋根の上から盗賊たちを見下ろす。


 盗賊たちはまだ遊雷に気づかない。常時利用している隠蔽魔法は魔力だけではなく存在感も薄めているので、気づきにくいようだ。


 盗賊たちの数は十二で、一人だけ女性。



(お、しかもあの女の人だけ獣人だ。狼かな? 頭に獣耳で、尻尾もある)



 年齢は二十代半ばに見えて、ロングの黒髪はややごわついている印象。動きやすそうな軽装で、寒いのに何故かヘソ出し。お胸も良いものをお持ちなので、なかなかにセクシーな格好だ。腰には二本の剣。顔立ちは整っているものの、盗賊らしい険しさもあって、目つきは悪い。雰囲気から察するに、盗賊のリーダー格だ。



「ボス、本当に大丈夫ですかい? 急に住人がいなくなっちまった町なんて、薄気味悪いですよ」


「ああ? 何をビビってんだ? 誰もいねぇんだから欲しいもん盗り放題だろ?」


「しかし……町が急に黒いもやに包まれて、住人ほぼ全員が消えちまったんですよ? その原因になったやばい魔物がまだこの町に住み着いてるって噂も……」


「そんなもんただの噂だろ? 誰もいねぇじゃんか」


「そうですが……聖都の聖騎士団でさえ討伐に失敗したとか……他の連中も、その魔物を恐れて近づかないとか……」


「うだうだうるせぇな! おれの言うことが聞けねぇなら、この場でおれがお前を殺してやろうか!?」


「ひぃ、す、すみません……」


「お前は黙って金目のもの集めて来い! 最後には城にも行くが、町中にも貴重なもんがあるかもしれねぇ!」


「わ、わかりましたっ」



(横暴なリーダー……とも言い難いか。盗賊なんて荒くれもの集団だろうし、威圧と暴力で従わせるのも有効なんだろう。うーん、もし私がこの町に定住することになったら、ああいうリーダーシップのある人材も欲しいかな。私にはない力だ)



 ともあれ、少し話をしてみようと思い、遊雷は地上に降りる。


 目の前に姿を現すと、盗賊たちも流石に遊雷に気づいた。


 遊雷は友好的な笑みを浮かべて話しかける。



「やぁ、おは」



 遊雷が言い切る前に、獣人女性の右手がぶれる。直後、遊雷の胸に深々と剣が刺さった。

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