第30話 お昼休みと親友
「今日の授業はここまで。来週はこの続きをするから予習しておくように」
担当してくれた若い女性教授が講義を受けていた生徒達にそう告げた。
それからホワイトボードをザッと消すと、ノートPCを持って講義室を後にした。
それを皮切りに講義室で講義を聴いていた生徒達は一斉に去っていく。
童輪もフッと一息つくと、時計をチラ見してから講義室を出て行った。
「さてと、祭理といつもの待ち合わせ場所に行こう」
リュックを背負い講義室の外に出た。それから階段を下り、校舎を後にする。
外に出ると広いキャンパス内を歩き回る。
その足は目的地へと迷いなく真っ直ぐ向かう。
その間にたくさんの生徒の脇を通った。けれど誰とも話すわけでもなく、童輪は裏庭に向かっていた。
「やっぱりこの学校は広いね」
童輪や祭理の通う国立大学法人桜浜総合大学はとにかく広くて生徒数が多い。
キャンパスの広大さはいわゆる日本のドーム十個分を優に超える。
おまけに生徒数は五万以上にも及んでいた。
その理由は単純で、この大学は総合大学。即ち特定の少ない専門科目だけではなく、幅広い学問が集められていた。即ちより多くのことを学べるようになっているのだ。
なんでも未来ある若人達により良い学びをと言うスローガンで我が日本国が建設したものらしいが、確かにゆとりのあるより良い学びを贈ることができていた。
とは言えその代わり、周りには何も無い。娯楽施設のようなものは無く、景観の良い小高い丘の上にあるのだ。
「ここにもう少し娯楽施設があったら、凄いことになっていただろうけど……まあ、楽しいから良いんだけどね」
童輪は大学生活を楽しんでいた。
最近はゲームも順調で気分が良い。
この調子で一緒に遊んでくれる友達が増えたら良いなと思い始めている次第だ。
「そろそろ祭理も参加しないのかな?」
あれから二週間。未だに一人でプレイしている。
そろそろ誰かと一緒に遊びたい。童輪はそう思い始めていた。
そのことを伝えたくても中々伝えられていない。そんなジレンマに苛まれそうな今日この頃、待ち合わせ場所には先に祭理が着いていた。
「おーい、童輪!」
「早いね祭理」
「まあねー。学部棟近いからさ」
童輪は祭理の隣に座った。
円形のソファーが桜の幹の周りをグルリと囲んでいた。
他には何か目立つものは無く、流石は第四裏庭と言うべきか他には誰も居なかった。
「童輪、この後授業あるの?」
「無いよ。今日は午後から暇だから」
「そっかー。実はさ、私も午後は授業無いんだよね。サークルも休みだから」
それは大変つまらなそうだ。
祭理は幾つかサークルを掛け持ちしているので、こうも休みになると暇なのだ。
もちろん童輪は何一つサークルになんて入ってない。もちろんバイトもしてない。
だから予定が無いと暇なので、ポツリ日課になりつつあるPCOを口にした。
「まあ帰ったらゲームでも遊ぼうかな……ん?」
急に祭理は童輪の肩に手を置いた。
まあ待てとでも言いたげで、何やら含みを込めた笑みを浮かべたそうに唇が緩んでいる。
「はい、ちょい待ち。童輪。私も行けるよ」
「行ける……って、まさか!」
「その通り。ついに、ついにこの時が来たんだよ! 私、PCO本格参戦の時がね!」
祭理は立ち上がった。クルリと振り返り、ピンと指を天高く掲げた。
その表情には笑みしかなかった。
よっぽど嬉しいのか、童輪にまで喜びが伝染する。
「本当に? やっと遊べるんだ」
「本当やっとだよ。スタートダッシュ大分遅れちゃったけどさ。今からだけど付き合ってくれるよねー?」
祭理は童輪に尋ねた。
まんまるとした瞳が見つめていた。もちろん断わる気が無い童輪は大きく頷いた。
「全然いいよ。それじゃあパーティーは組んでくれるよね?」
「もちろんそのつもりだよ。いやー楽しみだなー。どんな感じなんだろ」
「どんなって、行けば分かるよ」
「それもそうなんだけどさ。うーん、あっそうだ。童輪って、今何レベ?」
祭理は童輪のレベルを尋ねた。
少し困ったけれど、期待されてしまっていた。
もしかしたら公式配信の乗った童輪に嫉妬ではないだろうが、いわゆる基準値を気にしているのだろう。童輪はそこまで読み切ると、嘘を付くわけもなく質問に答えた。
「私のレベル? 今の所13だよ」
「レベル13? それって高いの、低いの?」
「そこまで高くないと思うけど……」
「そっかー。んじゃ、頑張らないとなー」
祭理は頭の上で腕を組んだ。
何を頑張るのか童輪には分からなかった。
「頑張るって何を?」
「決まっているでしょ? すぐに童輪に追いついてみせるよってこと」
「追いつくって」
「少なくともレベルくらいわね。ちゃんと手伝ってよ、レベル差があると頼りっぱなしになっちゃうからさー。私、童輪にも頼って貰いたいからね」
「その時は全力で頼るよ。それより、午後からちゃんと来てね」
「OK。んじゃ、ご飯食べて帰りますか」
「うん。食べよ食べよ」
二人はリュックの中から弁当を取り出した。
話も一段落した所でようやく手を付け始める。
蓋を開けると今日も良い感じ。自分で作ったにしては美味しそうで、笑みを自然と零していた。
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