第3話

僕は渡された銀貨を見て、何とも言えない気分になった。


「今日は……帰ろう」

帰り道に銀貨1枚を使ってちょっと良いパンを3つとスープを買った。何時ぶりだろう……リーネへあらためて感謝をした。


いつも銅貨5枚程度稼げればいいからね……なんとか固いパンを3つほど買って屑野菜なんかも添えるぐらいで精一杯。ちなみに銀貨は銅貨10枚分。それが2枚だからね。ちょっとぐらい贅沢したって罰はあたらないだろう。


今日はのんびりと体を休めて、明日からがんばろう。

そう思ってその日は余暇を持て余していた。


◆◇◆◇◆


翌朝、僕はいつもどおり無意味な修行で汗を流した後にギルドへと向かった。


「あれ?」

ギルドの入口付近に昨日会ったリーネがポツンと立っていた。あっ、こっちに気が付いて……またこけた。


「ちょ、ちょっと。大丈夫?」

「えっあ、うん。今日は……大丈夫かな?」

そう言って顔を赤くして照れていたリーネ。今日はちょっと高そうな青みがかった鎧を着ていた。腰には剣を差している。


「昨日はありがとうございました。あらためてお礼を言いたくて」

「そうなんだ、別に良かったのに。と言うか僕の方こそリーネのおかげで昨日はすぐに帰って少しリッチな食事をとって休むことができたんだ。ありがとう」

ペコリと頭を下げてお礼を言ってきたリーネに、僕も真似るようにお礼を言って頭を下げた。


リーネは驚いているようだった。


「ちょ、ちょっと少し時間を貰っていいですか?」

「え、いいけど」

リーネのお誘いに首を縦に振る。


「そ、そこに座って話を、話を聞いてくれませんか?」

きょろきょろと辺りを見回し、路地に簡易的に設置されている古ぼけたベンチを指差し僕に告げるリーネ。当然断ることもなく……


「あらためまして、リーネです。勇者学園に通う勇者見習い。15才です」

「僕はアレス。しがない冒険者……って言っていいのか分からないけど、同じ15才。よろしくね」

僕の返答を聞いてリーネは笑顔を見せる。


「同級生!」

「いやそれは違うと思うけど……」

また顔を赤くして下を向くリーネ。


「あの、私の話を聞いてもらってもいいですか?」

「まあ少しなら……」


その言葉を皮切りに、リーネは自分の身の上や現状、そして自分の思いを離し始めた。


昨日聞いた勇者として田舎から送り出されたという話。

おっちょこちょいでドジでどうしようもなくてと、長々と自虐が続き学園でも落ちこぼれとしてボッチになりつつあるという。

昨日も課題のDランク以上の魔物討伐をするためにギルドに来たはいいけど、肝心の依頼を受けるための『勇者の紋章』を落としてしまったとか……


「そもそも、Dランクなんてそれなりに依頼に慣れた冒険者が3~5人でパーティを組んで倒す奴じゃないの?」

その問いには返答がしばらく来なかった。


クラスメートとは一緒にできないらしい。授業の模擬戦で何度も味方に魔法を誤爆してしまって、遂には誰も仲間に入れてくれなくなったとか……何それ悲しすぎる……

課題では紋章を見せてそのDランク以上の依頼を受け、討伐したらハンコを貰って、今夏中に提出しないと今度こそ退学になってしまうのだとか。勇者も大変なんだなって思った。


そしてそれが独りでは無理だということも理解しているという。


そもそもリーネは魔物をまともに倒せることは少ないらしい。水の勇者の加護を持っているというので、水魔法で敵を弱らせそして腰に下げている剣で止めを刺すというのだが、肝心の魔法がほぼ当たらないという。

呪いか何かにかかっているのではないだろうか?


「お祓いとか……」

「行きました!駄目でした!鑑定も受けました!正常でした!ごめんなさい私は役立たずです!」

「いやそこまで自分を卑下することないと思うけど……」

声を張り上げたリーネはもうすでに泣きそう……というか泣いてるね。


「いやごめんて。僕に何か手伝えることがあるなら手伝うから!……といってもドブ攫いはお呼びじゃないよね。ごめんね……」

なんだか僕まで泣きたくなってきた。


「いいの?」

「えっ?」

泣いていたはずのリーネが僕の肩を両手でつかんでいる。ちょっと力強いな?さすが勇者……


「手伝ってくれるって言ったよね?いいの?」

「えっ?聞いてた?僕はドブ攫いだよ?まあできることがあるなら手伝うけど……期待されても困るし……」

リーネはなんでそんなに驚いているのか……ってか止まってる?気絶してるわけじゃないよね?いや肩に指が食い込んでぷるぷる震えてるから気絶はしてないと思うけど、正直もう痛くて泣きそうなので勘弁してください。


「僕は自慢じゃないけどまだレベル1なんだよ……せめて少しはレベルが上がれば……役に立てるかもしれないなんて思ったりするんだけどね。ハハハ……」

「それは……都合がいい!狩りに行こう!大丈夫!絶対にレベル上がるから!ねっ?行こう?一緒に……殺りに行こう?」

僕は少し……いや、かなり怖い顔をして迫ってくるリーネと、そのリーネに捕まれた肩にの痛みで「いたたた」と悲鳴を上げた。


「ご、ごめんなさい」

「いや大丈夫」

大丈夫ではないが……ポーションほしい。


「こんな私で良ければパーティを組んでもらえませんか?」

「えっ?」

「やっぱり、だめですよね?ドジだし、誤爆しちゃうし、今もこんな「いいよ」風に暴走ちゃって、でもアレスくんはいいよって、えっいいの?」

「うん、いいよ」

また思考停止しているリーネ。


「僕もパーティなんて初めて誘われたから嬉しいよ!しかもレベル上げができるなんて……夢みたいだ……」

「大丈夫!私に任せて!これでもEランクなら何匹か倒したことがあるの!レベル1なら一匹狩ればすぐに上がっちゃうから!任せてね!」

ベンチから立ち上がり拳をに切って僕に笑顔を見せるリーネ。可愛いと思ってしまった。でもこの僕がパーティか……嬉しいな。


「うん。期待しちゃうかも」

「うん。期待しちゃってね」

僕たちは笑い合った。

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