最弱のドブ攫いが落ちこぼれ勇者と恋に落ちて成り上がるまで
安ころもっち
第1話
◆◇◆◇◆
「はあ、今日もなんとかなったけど……毎日必死でやっても余裕なんてちっとも出てこない……いつになったらここから抜け出せるのだろう……」
ギルドの計らいで借りているボロ小屋へ日も落ちかけてきた夕方に戻り、ドアとは言えない板をずらして中へ入る。
僕の今の風貌は一言でいえば貧僧だ。
本来は綺麗な金髪であったが今は手入れなどする余裕もなくボサボサななってしまった。一応水で洗ってはいるんだけどね……自慢のブルーの瞳も今はくすんで見える。
顔立ちは整っているとは思うんだけど……
そして一番気になるのがこの着ている服だ。何年も着ているこのボロボロの服……いつも汚れ仕事をこなしているから黒ずんだその服はすでに原色が何色だったか思い出せない。
そんな僕はそれでも辛い毎日を必死で生きていた。
そして今日も仕事を終え、ボロい小屋へと疲れだ体で帰ってきた。
今日は運よく余ったパンを貰えたからこれを食べたらすぐに寝よう。そう思って固くなった処分予定だったパンにかじりつき何とか咀嚼する。そして欠けたコップで生ぬるい水を流し込む。
この水は近くの小川から、出掛ける前に汲んでおいた水を浄化用の樽を使ってかろうじて飲めるようにしたものである。さすがに浄化前の水を飲むようなことはできずに何年も使われているような古い樽を使っている。
正直まともに浄化されているかは怪しいのだが……
あたりが薄暗くなると自然と小屋の中も暗くなる。それに任せて早くから眠りにつくのだ。翌朝には朝日と一緒に目が覚めるだろう。
そして目覚めた朝。さすがに早朝からギルドも開いているはずもなく仕方なしに朝の鍛錬を始める。手に森で拾った太い枝を持ってブンブンと振り回す。
この世界、こういった鍛錬では自身の能力はほとんど変わらないのにである……いわゆる気休めである。それは本人も分かっているのだが……心なしか力が上がっている気がするので辞められない。
ただし本当に能力値は上がっていないのが現実である。力を強くしたければ、魔物を狩ってレベルを上げるしかないのだ……
ステータスを確認できるため当然自覚もしているのだ。
そんな少年アレスのジョブは『ドブ攫い』という。
ボランティアの神父に天啓で授けられた当時に発現したスキルは『攫う』のみである。そう言われた時はもう人生は終わったのだと目の前が真っ暗になったのだ。
捨て子として孤児院に育てられたアレス。
孤児院は裕福だったように思える。
そこの院長は高そうに見える装飾品をいくつも身につけていた。食事は孤児には固いパンと薄いスープのみだったが、本人とお付きのメイドのような女性陣の数人だけは暖かなスープにお肉や魚といった良い匂いを放った食事を食べていた。
そして12になると天啓を受け、使えるジョブとなった子供たちは貴族たちに高値で貰われていくのだ。もちろん『ドブ攫い』だったアレスがそのまま「出て行け」と放り出されたのは言うまでもない。
それから3年。
僕は15才になった。
最初はギルドも可哀そうにと世話を焼いてくれた。でも内心は蔑んでいたのだと今なら分かる。回された依頼は誰もやらないような汚れ仕事ばかり。まあそれぐらいなら自分に能力がないからと諦めもついた。
だが本当は薬草採取などの依頼もあるのだ。だが僕に回されるのはいつもドブ攫いや掃除など……一度だけ薬草採取の依頼も行ってこいと言われたので少しだけ弾んだ心でやり遂げた。
他の人には絶対に負けない!と意気込んで丁寧に、かつ大量に持ってきた薬草の束……
手渡されたのは他の人の半分程度の銅貨5枚だけであった……これなら1日ギリギリ暮らせるだろうという程度。明らかに差別されている待遇であった。それでも今の寝床はギルドから無償でされたもの。
……文句を言えば追い出されてしまうかもしれない。
そう思って言われるがままに依頼をこなしていく。
「せめて、レベルが少しでも上がって能力が上がったら……なんなら新しいスキルを手に入れることができれば……」
今日もないものねだりの願望を思い浮かべながら、回された小さな依頼をひたすらにこなしていくアレスであった……
◆◇◆◇◆
「お願いします!落としたと思われる場所は分かってるんです!依頼を出したいんです!なんで待たなきゃならないんですか!」
僕がそんな女の子の声をギルドの受付の方から聞いたのは次の日の早朝、ギルドが開くか開かないかの時間のことであった。
視界の先にいるその僕と同じぐらいの女の子が必死に受付の人に頼んでいる。受付のお姉さんはそれを煩わしそうにあしらっている。どうしたんだろう。
「だから、もうちょっとしたら多分その依頼受ける奴が来るから。こんな依頼で依頼書書くのも面倒なんだよね。大丈夫だから待っててよ!まったく……」
「でも!でも!さっきからそう言って全然その人ってこないじゃないですか!」
その可愛い女の子に見とれながら僕も依頼がないか確認しようと受付に向かって歩き出す。
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