第149話 裏の組織《アウトロー》 泥熊《マッドベア》

 シールの街の地下……


 そこにはスラム街が立ち並び、その奥にはシールの街を裏側から牛耳る裏組織のアジトがある。


 

 裏組織アウトロー泥熊マッドベア



 強請り、強姦、薬、暗殺、奴隷密売と——犯罪のその道のプロが集まるギャングのような存在である。



「では——報告会を始めよう。僕のフレンド達よ。今日は良く集まってくれたよ。ありがとう♪ じゃあ、順番に近況を語ってくれるかい?」



 アジトの最奥——そこには泥熊マッドベアの幹部が集められ報告会が開かれていた。


 豪奢な調度品がひしめきあう小部屋……部屋の中央には金髪で派手な装衣の美丈夫が立派な椅子に座っては足を組む。


 彼は泥熊マッドベアのボス——名を【アルクトス】という。当然、偽名だ。



「では——ボス。報告だ。シールの周りで有頂天だった盗賊がいたろ? あれを片っ端からヤッておいた。ここ最近、馬鹿みたいに活発な盗賊がキショいぐらいに増えてる。こんな奴らやったて……大体、端金はしたがねにしかならんが、今回はまぁまぁ金になった。少ないがこれをボスに……」



 部屋に集まった者達の内、1番ボスの近くにいた男が喋る。その男はやがて1つの袋をボスの目の前にある卓上に置いた。



「うん。ありがとう嬉しいよベストフレンド♪」

「何……ボスのために用意したんだ。少なくて悪いがな」



 と……男は口にするが、テーブルに袋が置かれると、中からジャラジャラと音が鳴り、その音は硬質かつ高質量を周囲に訴えた。

 少ないと言うが、相当な重さがありそうな袋だ。肝心の中身だが……



「じゃあ。今度は俺だ! ボス! 薬の売れ行きは……」



 そして……次……また次にと、部屋に集まった者達が近況報告を語ると、最後には同じように袋を卓上に残していった。たちまち、テーブルはズッシリとした袋の山が積み上がってしまう。



「みんな〜〜ありがとう♪ 最高の友人を持てて僕は嬉しいよ」



 その山に感激し、ボスは高らかに笑う。袋の1つから中身である金貨を取り出すと、アルクトスは指を巧みに操り手の上でそれを転がし始める。その踊る金貨は彼の気持ちの表れであるかのように激しく踊っている。



「じゃあ〜〜次——報告は君で最後かな?」

「はい。ボス」



 そして、最後にアルクトスが示したのは紳士服に身を包んだ男だった。身なりは整い、香水の香りを纏っている。一見ギャングのようには見えない。



「では、報告を述べさせていただきます」



 口調も丁寧——ますますこの場には相応しくなさそうな男だ。


 だがその実……この男はシールの街全体の娼婦を取り扱う店の元締めのような人物だった。そして、彼は裏組織【泥熊】の幹部。

 店の売上のほとんどは裏組織の中枢へと流れていた。



「実験的におこなった娼館営業ですが、これが大成功を収め、周囲の娼館も吸収、買収に成功。今や、この街全ての娼館の経営権を奪い取りました。これもボスの知恵のおかげです」

「何を言ってるんだい? 僕は簡単な考えを述べただけで、それを活かしたのは君の手腕だろ? 誇ると良いさ。マイフレンド」

「あぁ……なんと謙虚なお方なんだ。ありがたきお言葉——痛み入ります」

「それで……このまえ話してた問題についてはどうなった?」

「えぇ……それにつきましてもボスの知恵のおかげで無事解決に向かって好転しております」

「ほぉ〜〜? それはよかった!」

「圧倒的上質な娼婦の数不足——これを下部組織の団員に集めさせてます。契約書にサインをさせた者は既に教育を施し大多数を娼館に送りました」



 男の報告とは人員不足について……娼婦など、進んでなるもんじゃない。街中の店を買収したのはいいが、そこで発生したのは人員不足。紳士服の男はボスの知恵を借りて人員をかき集めていた。



「ふむ——それで、ちゃんと言いつけは守ってる?」

「はい、それは勿論。変わり種ではなく、普通を意識してます」

「そう。多種族ってジャンルもいいんだろけど……あくまで万人受けを衒うに越した事はない。イレギュラーではなくシンプルにモノを考える事は大切な事だよ。わかるよね?」

「ええ……」



 【泥熊マッドベア】の名が出れば誰もが口を紡ぎ、シールの騎士団ですら揚々と手出しはしない。それは、組織の大きさと、何よりボスに対する信頼を寄せるフレンド《友》の数が多い事が考えられる。

 まず、泥熊マッドベアに手を出す愚かな者はそうはいないのだった。



 そう……



 あくまで……



 泥熊マッドベアを知る者に限る話……だ……





 ——ズズン……!





「——ん? なんだろうね? 今、少し揺れたかい?」

「……え?」



 アルクトスは突然、奇妙な揺れと音を拾った。周りに居る者たちも、すかさず反応し、紳士服の男は声をこぼした。


 その時だ——



「すいやせん! ボス!」



 黒服の男がこの場に入室してきた。息を切らし、突然の来訪を謝罪した。



「ん? どうしたのかな? 君、大事なこと?」

「はい……急ぎの報告がありまして……」



 アルクトスが反応する。黒服の男は一礼をすると人混みを掻き分け紳士服の男の元へ向かう。



「どうしましたか?」

「えっと……実は……ゴニョゴニョ……」

「…………え? それは本当ですか!?」

「ええ。事実です」



 そして、紳士服の男に聞こえるように耳打ちで情報を伝えると……驚きの表情を浮かべた。この時の驚愕に慄く声を拾って皆の注目を一様に集めた。



「何があったのかな〜〜? 僕にも教えてくれるかい?」



 当然その中にはボスの姿も……アルクトスが紳士服の男に気軽に質問を飛ばした。



「えっと……実は……私の店が襲撃を受けていると……それも手当たり次第——」

「——ッ!? ほほう!」



 それはまさかの事実——とても落ち着いて聞けるような内容ではないはずだが……ボスは楽しそうに口角を釣る。



「君〜〜それは本当?」



 そして、報告にやってきた黒服の男へ視線を移してこれを聞く。



「……あ。はい……見張りと警護を蹴散らして、店の長をとっちめているそうです」

「で、それはどんな奴なの?  騎士団か? それとも、別の組織?」

「それが……ふ、2人の少女だと……」

「……は? ……ップ! アッハッハ〜〜! それはなんの冗談だい? 2人の少女? 泥熊マッドベアが管轄する娼館を襲撃する? 実にユーモラスな話題だよ!」

「……え? ボス?」



 ボスが笑うのも仕方がない。

 泥熊マッドベアは、シールの街の一大組織だ。天下の騎士団ですら軽率に手は出さない。


 それが……今、何と言った?


 ——? それもたったで組織に喧嘩を売る?


 そんな命知らずな子供がいるはずがない。面白い冗談だ。


 と——


 思うのは当たり前——だろう?





 ——ズズン……!





「あぁ〜〜来たみたいだね?」


「「「「——ッ?」」」」



 ボスは天井を見上げるほどの高笑いを見せた。だけど、遠くで響く地鳴りを拾うと、見上げた状態で静かに呟く。

 周りに居たフレンド達は当然、これを疑問に思う。



 ——ズズン!!!!


「「「「——ッ!!??」」」」



 だが、一層と高まる揺れを感じた時——この場の全ての者がようやく理解した。



 ——と……



「さて、お客様は可憐な少女か? それとも悪魔か? 新しい友達にでもなってくれるのだろうか? あぁ〜〜楽しみだ」



 アルクトスはただ見つめる。


 部屋にある唯一の扉を……


 そこから現れるであろう2人の少女達の来訪を静々と待ち焦がれるかのように……

 





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