第140話 薬草売りの少女?

「では私は巡回に戻る。よろしく頼んだよ」



 フレミネールはここまで見届けると自分の役目へと帰って行った。その去っていく姿も凛とし優雅な印象を受け、カエはしばしその後ろ姿を眺めていた。



「じゃあ、私たちも行きましょう! ついて来て!」



 そしてこれを見届けると、レリアーレは頃合いのタイミングで全員に聞こえる声量で呼びかけた。シールの街の中央を目指して歩き出す彼女を先頭に、有無も言わずアイン、カエ、フィーシアがこれに着いていく。


 しばらく大きな通りに沿って歩いていると大きな円形広場が光景に飛び込んでくる。その中心にはどんな原理で動いているかわからないが噴水が水を点高く打ち上げ、何とも涼しげな印象を受けた。


 そして、噴水を跨ぎ、正面へと進んでいくと……



「ここよ、ここが【冒険者ギルド シール支部】よ」



 突然レリアーレが嬉しそうに声を張り上げ、腕を大きく広げ1つの建物を示した。

 だが……彼女がそこまでして注目を集める必要は感じられない。

 というのも——突然、誰の目をも引いてやまない、それほどまでに立派で巨大な建築物が姿を現したからだ。

 エル・ダルートの時もそうだったが……ここシールの街のギルドも引けを取らない立派な佇まいを見せている。高さは5階建。その大きさには驚愕だ。しかし、景観は決して不自然ではない。周りの建築物との統一感が維持され、全体の壁は白く清潔感が漂う。

 特に驚くのは玄関口。一面ガラス張りの大きな窓が横一列に並び、一部が扉として機能している。その真ん中には一枚板の看板に【冒険者ギルド シール支部】と掘られていた。印象としては、西洋の高級レストラン——そんなイメージがしっくりくる表現だ。



「じゃあ、みんな中に入りましょ〜う♪」



 レリアーレは紹介を終えると、すかさずギルド入り口へと近づいていきこれにアインも自然と続いていく。2人は冒険者。もはやこの建物は2人にとっては我が家そのもののように、何食わぬ顔で建物へと入っていく。カエはこれに少し距離を置いて追随し、フィーシアも無言でそのあとを追った。



 建物へと入ると、冒険者によって一定の賑わいが形成された空間が広がっていた。エル・ダルートとの決定的な違いは、天井が低いところだ。それでも2階ぐらいまでは吹き抜けで、これでも高い方ではある。相変わらず天幕だけは健在だ。エル・ダルートでは竜だったが、ここでは魚の様なものが刺繍されている。



「ギルドは、その土地を代表とする生き物を支部のモチーフに飾るんだ。エル・ダルートだったら飛竜。ここシールは魚の様だが、あれは水龍らしい。ちなみにフラーダはギルド支部はないが、簡易の集会所の様なモノがあって、生き物じゃないんだが花がモチーフで飾られてたな」


「ふ〜〜ん。どうでもいい雑学をありがとう」


「どうしてカエちゃんは、そういう物言いしかできないんだ?」



 これのついてはアインのギルド雑学から学びを得る。あまりにも天井に釘付けだったカエにアインはたまらず解説を語ってくれた。だが、カエにとっては心底どうでもよかった。



「じゃあ、カエちゃんここで待っててね。ちょっと受付で話を通してくるし……ほら、アイン行くわよ?」


「あぁ……わかったよリア。カエちゃん。フィーシアちゃん。すぐ戻ってくるよ」


「ん? あぁ、早くしてください」



 そして、レリアーレはアインを連れてギルド受付へと向かう。この時、振り返ったアインにカエは、シッ! シッ! と手を仰ぎ塩対応。これを見たアインは少し呆れ雰囲気を匂わして膠着したが、いつものこととして急いでレリアーレを追った。

 すると、カエとフィーシアはギルドのエントランス中央に取り残される形で立ち尽くす。



「フィーちょっと横で座ってよっか」

「はい、マスター」


 

 ただ、そこで待ち続けるのを忍びなく思ったのか、部屋の端で待つことをフィーシアに提案をする。冒険者の出入りの激しい場所で突っ立っていても他人の邪魔にしかならない。当然の行動選択である。


 と、その時——



「ッオウッオウッオウ!! 小さな嬢ちゃん。ご立派な外套を纏って冒険者気取りなのかぁあ?」

「グッヒッヒ〜〜! アニキ、この2人新人の冒険者かもしれませんぜぇ〜〜?」

「アララ——冒険者に憧れて、形から入ったのか? あまり調子に乗ってると、すぐおっちんじまうぞ! アッハッハ〜〜!!」



「「——ッ!?」」



 横にずれようとした直後——入り口から今まさにギルドに入って来たガラの悪い男3人組から声をかけられる。



「何だ? この人達……」

「マスター! 下がってください」



 これに、カエは疑問顔。そして、フィーシアはいつ何時、即座に対応できる様にカエの前に一歩出て警戒態勢をとった。



「おっと、威勢の良いお嬢ちゃんだ。その強気な姿勢は嫌いじゃねぇ〜ぜ」

「アニキを前に、怯えないのは流石だが、グヒヒ〜〜いつまでそうしてられるかな?」

「あはは〜〜啖呵だけは一丁前かぁあ?」



 だが、それでも男達は少女2人に近づき、小さな存在を見下ろす。それはまるで見下しているかの挙動だ。



(まったく、何なんだよ。ギルドってのは必ず誰かに絡まれるところなのか? 勘弁してくれ)



 ただ、カエはこの状況に覚えがある。


 初めて訪れたエル・ダルートの街のギルドでは、笑い方の気色悪い強請り女に絡まれた記憶がある。嫌な思い出だ。

 そして、次に訪れた新たなギルドではガラの悪い男に絡まれてしまった。これに思うところがあるのも当然でカエが顔を顰めるのも当然だった。

 ちなみにだが……周囲の冒険者の男女割合は男が多め。7:3といったところだ。エル・ダルートの冒険者ギルドは9割が女性を占めていたが……あれは極端だったと今更ながらに思う。



「ここは1つ、分からしてやる必要があるかぁ〜〜?」

「やったってあげてくだせ〜〜アニキ!!」

「そうだぜ! 死んでからじゃ〜〜遅いからな! アニキの忠告を耳をカッポジって聞くことだな? アッハッハ〜〜!」



 そして、ついに連中のうち、ガタイが特に大きな大男。他2人から『アニキ』と呼ばれる人物が前に出る。



「オ〜イ! 嬢ちゃん!!」


「——な、何でしょう?」



 とりあえず、カエが答える。

 今すぐ男にナイフで斬りかかってしまいそうなフィーシアを腕で抱きしめる様に抱え、男の次のセリフを待った。


 カエはゴクリと生唾を飲む。


 すると……



「まず初めに……街を出て南にある背の高い森には近づくなよ〜〜死にたくなければな!」


「…………は?」



 カエは男のまさかの話に間の抜けた声を漏らした。



「あそこは、毒を持ってる魔物が多い。たいして強くはないが、油断して奥に進んで毒を貰った時は一貫の終わりだからな」

「グッヒッヒ〜〜怖いか? 怖いだろ!? よくそれで新人冒険者が死んでるんだ。早死にしたくなければ、アニキの言うことを聞くんだな!」

「あと、近くに行く時も気をつけろよ。たまに魔物が森から出てくることがあるからよ!」



 その後、男達は街近辺の危険性について語る。口調は悪いがその内容はどれも新人冒険者への注意喚起だった。



「お〜〜し! ここは1つ哀れな小娘に、この俺様が『毒消し草』を恵んでやろう! ほらよ!!」


「——ッ!? ど、どうも……」



 最後には、アニキが懐から取り出した大量の草束がカエに放り渡される。



「精々、死なない様にもがくことだな!」

「グッヒッヒ〜〜! 選択を間違うなよ? 忠告を無視して、どうなっても知らないからな?」

「冒険者への憧れは捨ててはいけない。せめて絶望はしてくれるなよ」



 そして、男達は『ガッハッハ〜!』というアニキの高々な雄叫びを残すとギルドカウンターへと向かって行った。



「……マスター? あれは……」

「うん……普通にいい奴らだったな。嫌いじゃないぞ? 一周回って清々しい奴らだったぜ」

「……そう……ですね」



 その男達の去っていく姿をポカンと眺める少女2人。突然の嵐が通り過ぎた後の様な静けさが2人を襲う。だが、決して悪い気はしなかった。


 と、ちょうどその時——



「カエちゃ〜ん! フィーちゃ〜ん! ギルド奥の部屋に来て欲しいって! 受付で言われたんだけど、今大丈夫……って……カエちゃん? その両手一杯に抱えた草の束は何? 何があったの??」



 ちょうどレリアーレがカエとフィーシアを呼びに来た。


 しかし、カエの抱えた『毒消し草』を視界に捉えるとギョッとして固まる。僅か数分のうちにカエは『薬草売りの少女』に変身したとあっては当然驚くことであろう。



「別に……親切なおっちゃんが通り過ぎただけです。はい——ブレイク」



 これに何食わぬ顔でカエは毒消し草を粒子にして消し去る。周囲にいた冒険者数人は、これに驚く様相を見せていたが……魔法の類だとでも思ったのだろう。すぐ、各々の日常へと帰っていく。



「で、受付ではなんだって言ってました?」


「——ん!? あぁ、ギルドの奥で詳しい話を聞きたいって。カエちゃん達が問題なければ、すぐ来て欲しいんだけど……いい?」


「問題もクソも、呼びつけたのはギルドでしょうが……まったく、今行きますよ」



 そしてカエとフィーシアは、レリアーレの案内の元……彼女の背を追ってギルドの奥へと向かった。




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