第114話 それは変数ですか? いいえ——変態です!

「では……マスターは、この彫像を何度も目撃しているってことなのですね。その都度、私は記憶がリセットされていると……」

「そう……それで、その現象が確認されるのは“この彫像”ってわけではない——と今し方分かったところ。それは例え橋の下に逃げたとしても……」

「……ふむ。では、マスター……上はどうでしょうか?」

「いや、多分同じだと思うよ」

「……そう、ですよね」



 再び、フィーシアへの説明へと戻る。この発言も、何度と聞いた単語の羅列。多少なりとも微かな変化はあるが……結果、事態はまったく好転していないので、多少と言ってもカエにとしてはミクロと表現しても過言ではない変化でしかない。


 そして……はじまるのは、見飽きた鳥の彫像に見つめられつつの作戦会議だ。カエは散々な繰り返しの連続で、この場から無闇に動く事をやめた。

 とりあえず——今までを振り返り、気づくこと、思い起こせることを最大限に引き出す。そのためにも、フィーシアへの説明も今回は丁寧に……カエ自身が受けた経験を語って聞かせた。


 と、それを踏まえて——フィーシアから、とある質問が……



「ちなみに……マスターはこの現象を何度経験したのでしょうか?」

「——ッえ? えっとぉ〜〜20回ぐらい?? 最初の頃は数えてたけど……途中から嫌になって忘れちゃったよ」



 カエが正確にループの経験回数を覚えているのは8回ぐらいまでだ。そこからは、足早にあらゆる方法を試し繰り返すようになって……今、何度目のループをしたのかすら記憶にない。ただ……8回以降、カエの中では体感として「倍ぐらい?」との認識があるため、多少盛って20と表現した。



「ふむ……」

「……ん? どうしたのフィー? もしかして何か気づいたことが?」

「えっと……気づいたというより。おかしいなと思いまして」

「——ッ? おかしい?」



 ただ……フィーシアには、これについて思うことがあるようだ。どこか歯切れの悪い返事が返ってくる。



「マスター……この現象に気づく前。彫像から彫像までの移動時間ってどれぐらい有しましたか?」

「……時間?」



 すると……


 フィーシアから突如投げかけられたのは移動時間に関わる質問だ。


 一体これが、どうしたというのだろうか——?



「う〜ん……そうだなぁ。2、30分ってところかなぁ〜」

「…………」



 カエは、これに質問の意図を汲み取る素振りもみせず、感覚の話で即答してみせる。


 だが……フィーシアからの返答はない。俯き、何やら思考しているような様子をみせる。



「……ん? フィー?」

「——では、マスター。それは何度繰り返しましたか?」

「何度って……ッ——最初は気づかなくって、8回目ぐらいまではそれぐらいのペースで、そこからは足早に移動したから、早くはなってる——けど……」

「橋の下に向かった時も20分ほどかかったとか? でしたら、マスターの経験を仮に20と仮定してです。軽く見積もって……ここ、岩橋を訪れて5時間の時間経過があると思われます。なのに……」

「一向に日が暮れる気配がない」

「そういうことです」



 周囲に満ちた白い濃霧は、鬱陶しいほど光を乱反射し——視界は悪いが周囲は非常に明るい。それは今でもそう。

 ここ岩橋を訪れたのは昼が過ぎてから……フィーシアの計算が正しい場合、時刻は夕方である筈なのだ。

 今この場に時計は持ち合わせていない為、正確な時刻は計り知れないが。体感からしても間違いなさそうだった(ちなみに異世界の時間の感覚は転生前とほぼ同じである)。



「つまり……時が経ってない?」

「おそらくは……」



 つまり……これが示すことは、あれから(1度目のループ)——



 ……その可能性が高かった。



「——ッチ……なんだよこれ!? 幻覚? それとも変な空間にでも迷い込んだ? わけが分からない……」



 これは、あり得ないことだ。思わずカエは舌を打ち、顔を顰める。だが、そんな事をしたところで、事態が好転することはない。



「しかし、マスターの話では……こういった場合——何度かループを経験した後、少なからず“変数”が発生するそうですね?」

「——ッえ?」



 だがここでフィーシアの物怖じしない発言に虚を突かれ、カエの苛立ちが霧散した。



「ああ……と、それは……」



 数分前——カエはフィーシアにホラーゲームの経験則をなんとなく説明していた。フィーシアの言う“変数”とは、この事を言っているのだろう。



「まぁ、ループものの定番だよね。ループの途中にどこか変化があるものなんだよ……こういう場合」

「——!? つまり、マスターはこんな経験を何度も——!?」

「——え!? あぁ……経験? なのかアレ(ホラーゲーム)は……? だとしたら……うん……あるのかな?」

「流石はマスターです!」

「——流石って……あんまり得意じゃないんだけど……チキンって言わないでね」

「……チキン? 鳥がどうかしましたか?」



 とは言うものの……カエの経験とはゲームの話だ。


 このおかしな現実に、画面の向こうで経験したプレイスキルが活かせるのか——疑問である。



「——て言っても、変数……ねぇ……」

「マスターはここまでで、何か変化は感じましたか?」

「ふむ〜〜……うん、全く。寧ろ、変化がなさ過ぎてムッ——とするよ」



 しかし、変化とは——周囲にあるのは白一色だ。ここで、変化を探せとは無理な話だ。

 憎たらしいまでに思えてきた目の前の彫像は、翼に刻まれた傷まで一緒……カエの感じている繰り返しは「ループ」ではなくて時間の巻き戻しではないのか——?


 新たな可能性まで想起させる。



「ふむ〜〜……」



 カエはこれに、長〜い唸りをあげ首を傾げている。





 と、その時だ——






「あれ? カエちゃん……こんなところで立ち止まってどうしたんだい?」


「……ん? 見てわかるでしょ。このループについて、深く考えてるの——たく今は話しかけ、ない……で………………ぅう?」



 背後からの突然の声——あまりの自然な混ざり方に、普通にスルーして会話を続けた。

 

 だが……



「——ッ!? ぅ………ぅぅぅううう〜〜〜らぉオラぁあああ!!」

「——ッぅわぁあ!!??」



 次の瞬間——カエは反射的に“我が愛刀”を引き抜くと、豪快な掛け声と共に背後で声を発した人物に斬り掛かった。

 カエは、その人物の正体に気づいたときには即決で行動に出てしまっていた。



「——ッかッかッか、ッカエちゃん? ッあッあッあ、危ないから……お、落ち着いてくれ!? け、剣をおろして、く、くれないかな?!」

「はぁ〜〜? いきなりさぁ〜〜背後から声をかけられたらさぁ〜〜斬りかかりたくもなるでしょ〜〜? それも、変態なんかにさぁ〜〜?」



 背後にいたはカエの一刀を背中から転げ落ちるようにしゃがんで避けた。ただ、彼の茶髪の毛先を少し切ったように、それもすれすれの軌道を描くことで彼は酷く動揺してしまっている。

 正直、カエが本気になれば彼が目で追えないほどの剣速を出せるのだが、スレスレを振り切ったのはせめてものカエの手心だった。



「まさか……ここまでストーキングされるとは思っていなかったよ。ふふ……覚悟はイイ?」



 カエは笑顔を貼り付けながら、背後に居た男“アイン”に向かって無情な発言を口にする。刀の刃を手で触り鋭利な刃先を見つめつつ、眼光は同時にアインをも捉えている。



「——ぇえ!? ち、違うんだこれは!?」

「——何が違うってんだ!! この変態——!?」



 一触即発。あまりのループの繰り返しで、カエの精神は非常に不安定にあるようだ。



「ほらぁ〜〜アイン! 急に声をかけるのはビックリするからって言ったじゃない。カエちゃんが怒るのも無理はないわよ。まったく——」


「「——リア?!」」



 そして、床に手をつき尻餅をついて震えるアインの背後からはリアが現れる。



 アインとカエはこれに彼女の名前を口にする事で反応した。










 

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