第2章 +ホラーゲーム

第108話 ねぇ『奇跡』って信じる?

 ねぇ……



 奇跡って信じる?



 人間ってね——生きていれば、偶然的な出来事や出会いがあるんだって……



 なんてこともない知らない人との出会いだって……それは、このひろ〜い、ひろ〜い世界から考えれば『奇跡』って言ってもいいみたい。



 だって、アタシの物知り“おばあちゃん”が言ってたもの!



 だからね……



『……すまない。そこのお嬢さん……ちょっと道を尋ねたいんだが……【セリスの大樹】にはどう行けばいいか、知っているだろうか? ギルドの情報では、この近くだって聞いたんだが……』



 おばあちゃんが死んじゃってから、アタシは、ずぅ〜〜と一人ぼっちだった。でも、【彼】との出会いは、アタシの人生の中で一番の『奇跡』……ううん……『と〜ても最高でステキ〜な奇跡』だったんだから!









 …………そう……キセキ……









 奇跡……だって、思いたかったんだ。









 アタシは……ただ……









 彼は、立派な鎧を着込んで、青い瞳がキレイな金の短髪の若い青年だった。

 彼から聞くところによれば、“ボウケンシャ?”って、お仕事をしてるんだって……世界中を回って、悪さをする魔物をやっつけたり、困ってる人を助けてるんですって——!



  アタシ、生まれた時からず〜と街から離れて暮らしてたから、そんなお仕事があるなんて知らなかった。おばあちゃんからも“ボウケンシャ”のお話は聞いたことなかったし……でも、おばあちゃん物知りだけど、アタシが聞かなければ教えてくれないところがあったから……知ってはいたのかな? 



 でね……アタシ、自分の家から遠くにお出かけしたことなかったし……“ボウケンシャ”ってお仕事知らなかったから……思わず彼に聞いたの!



『“ボウケンシャ”って、どんなことするの! 世界を旅してるって——あの山の向こうにある大きな街の事は知ってる? 海って見たことがある? 海原の向こうは? 隣の国には行ったことはあるの……“魔王”ってのが居るとか? どう、見たことはある? ねぇ、教えて〜教えてぇ〜♪  冒険者さん!!』



 ——ってね♪



 そしたら、彼は一瞬驚いた顔をしてたけど、すぐ微笑みを返してくれて、アタシに物語を聞かせてくれたわ。それも、絵本の物語じゃないよ。彼自身が実際に巡って経験した真実の物語——彼はとても楽しそうに語ってくれた。

 そこからは時間も忘れて、その冒険譚に耳を傾けた。その間、アタシったらニヤニヤしちゃって……彼は、そんなアタシを子供とでも思ったのかしら? 身振り手振りが大袈裟で——演劇でも披露するかのようだった。


 全く、失礼しちゃうわ。


 アタシは立派なレディーなのに……



 でも……



 凄く楽しくて、見入っちゃったんだけどね……えへへ……



 そして……



 気づいたら日が暮れてた。



 演劇を楽しむアタシと演者である彼の近くには、鋭い視線を向ける人達がいたの。

 その人達は冒険者のパーティーメンバーだった。

 彼の帰りがあまりにも遅かったから迎えに来たそうよ。それから彼はメンバーみんなから怒られてしまったんですって……アタシったら、彼を引き止めてしまって悪いことしちゃったわ。



 ——ッテヘ♪



 その日は彼らと別れた。



 でもね……後日、彼はまたアタシに会いに来てくれた。その度に冒険譚を聞かせてもらって、アタシは彼にハーブティーをご馳走して……



 そんな彼との日々は——



 本当に幸せで……とってもハッピーだった。



 でも……彼は冒険者……



 いつまでも此処に居る訳にも行かない。これは彼の冒険譚を聴いて自ずと知った心理よ。アタシも、そんな彼を止めちゃいけないなんて分かってたわ。だから、アタシは『頑張ってね! 冒険者さん!』と言って笑顔で送ったの——



……グスン……



 アタシはまた1人ぼっち……1人の時間は得意だったはずなんだけど……

 なんか、いつも以上に寂しくて、そんな湿っぽい気分を、お庭のお花やハーブとお話しする事で誤魔化した。


 だけど……



『……おいおい、そんな草花と話してどうしたんだ? 特殊なスキルにでも目覚めたのかい。お嬢さん?』


『——ッ!?』



 彼は、またアタシを訪ねて来てくれた。新しい冒険記をたくさん持ってきてね!



 それから暫くは、彼との関係は繰り返された。彼を冒険に送り出して……新しい物語を持って帰ってくるのを楽しみに待つの! 1人の時はちょっと寂しかったけど、彼の伝記を楽しみにしていたアタシは、待つのがちっとも苦じゃなかったわ。友達(草花)だっているもの……さて、つぎ彼が来たら、どの子をご馳走してあげようかしら(※ハーブティーです)——



 なんて考えてひたすら、おしゃべりして彼を待ったの……



 そう……待ったの……






『あの、これをあなたに……彼から渡してと……託されたので……』


 



 その日——訪ねて来たのはローブの女性だった。その人は確か彼のパーティーメンバーだったのを……アタシは記憶していた。


 渡された“ソレ”は上演される冒険譚劇場で、身振りの大袈裟な彼の手先を追って、つい見入ってしまった“ソレ”——欲しいだなんて思ったわけではないの……ただ、綺麗だなって思っただけ……



 そう……思っただけ……



 彼が身に付けていたモノよ——くれるって言うなら嬉しい。





 ——嬉しい? 





 いや……ちっとも嬉しくなかった。



 こんなモノなんて……要らない。


 

 アタシは、ただ……



 あなたが、帰って来て……



 会いに来てくれるだけで……







 ——それだけで よかったのに——







『あの……確かに渡しましたので……私はこれで失礼します』



 ローブの女性は、アタシに“ソレ”を渡すと踵を返して帰っていった。この時——ローブフードの影に見える彼女の表女は固く……強張っていて……今にも泣き出しそうだったことを覚えている。



 そして……



 今後、彼女含め、彼とそのパーティーメンバーがアタシを訪ねてくる事はなかった。



 アタシの手元に残ったのは……“ソレ”だけ……アタシにはブカブカで大き過ぎたから、仕方なく首からぶら下げて……



 そして……









 アタシはまた待ち続けたの……









 来る日も……来る日も……彼を待ち続けたの……









 いつか、きっと、再び冒険譚のレパートリーを増やした彼が会いに来てくれるんじゃないかって信じて……


 当然、友達とのお話しは欠かさない。だって、後ろから『また、友達とおしゃべりしているのかい?』なんて——呆れた彼が声を掛けてくれるかもしれないもの……そしたら、アタシはこの友達を煮込んで彼に振る舞うんだ! (※ハーブティーです)



 きっと、喜んでくれるわ!










 でも……そんな『奇跡』は起きる事はなかった。









 悪戯に時間だけが過ぎ去って……









 アタシは——“ソレ”の……で……








 2度と『奇跡』なんて起きない状況に陥ってしまった。





 筈だった——





 だから……アタシは聞いたの……





 『奇跡』って信じるかって……





 でも……





 もう、全てを失ったはずのアタシに……





 最後に『奇跡』が起きたんだ。





「あの……すいません。ちょっと道を聞きたいんですけど……【セリスの大樹】って、知ってますか? この近くだって、ギルドで聞いたんですけど……」



「——ッ!?」




 その人は、彼ではなかったんだけど……なんでだろう? 



 その子を見た瞬間……



 似たセリフも勿論関係してるとは思うんだけどね——



 彼と重なって見えたの……おかしいな~? 



 その子……彼と全然似てないのに……



 漆黒の外套で……可愛らしい背の低い黒髪の……だったんだけど……



 男の子ですらないのよ? なんでだろ?



 変よね……アタシ……









 これはなのかしら……?











   『世界観台無し女人化転生』

〜ゲームキャラで異世界転生したのだが

“異世界”と“転生体”とで『世界観』が違う!? 

      解せぬ!!〜





     〜〜第2章〜〜



    +《ホラーゲーム》



       開幕

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